“迷走”五輪公式エンブレム
12月7日、2020年東京五輪・パラリンピックの新エンブレムの公募受け付けが締め切られ、大会組織委員会は、応募総数が1万4599点だったと発表した。
エンブレム委員会の宮田亮平委員長(東京芸術大学長)は「多くの人に参画してもらい感激。皆さんに納得してもらえるプロセスでしっかりと審査していく」とのコメントを発表した。
旧エンブレムは、国内外のデザインコンテストでの複数の受賞歴を応募条件としたため応募作品は104点にとどまり、「専門家だけで閉鎖的」との批判を受けた。新エンブレムは受賞歴を撤廃した上で、子供やグループなど幅広い応募を認めた。
デザイナーの佐野研二郎氏(43)が制作した旧エンブレムについては、発表直後から、エンブレムが盗作ではないかとする声や、無断転用した画像で使用イメージ図を作製したのではないかとの指摘が相次ぎ、大会組織委員会は1日、使用を中止して取り下げることを決めた。 新しいエンブレムは公募で選ばれることになった。
12月15日、応募作品を審査するエンブレム委員会(委員長=宮田亮平・東京芸術大学長)は第一次デザイン審査を始め、応募総数が1万4599点を311点に絞り込んだ。選考過程の透明性を高めようと、審査の様子を公開するインターネットのライブ配信も初めて行った。 デザイン審査は、「共感性」や「独創性」など6項目を審査基準としている。12月21日からは第二次審査が行われ、審査員は、モニターに映し出された作品の展開例や、その場で読み上げられる作品のコンセプトを聞いて審査を行い、更に応募作品を絞り込む。
年明けには全委員による第三次の本格審査を行い、3~4点まで絞り込み、商標登録の手続きを終えたのちに最終審査で1点を選ぶ。なお商標登録の手続を終えた候補作品は最最終審査の前に公開するとしている。
旧エンブレムを決定する際には、商標登録調査は実施したが、商標登録の手続きは実施せずに発表したため混乱を増幅した。
仕切り直しの公募では「国内外のデザインコンテストでの複数の受賞歴を応募条件」を取り払い、国民に幅広く応募を認めた姿勢は評価したい。
しかし、国民に幅広く応募を求め、大量の応募を確保すれば、卓越したデザインにたどり着けるというほど単純ではない。筆者は、デザインはプロのデザイナーの“仕事”だと思うが……。
さらに問題は、応募作品を審査する側の“見識”と“力量”である。
デザインの選定は極めて難しい。国民投票で多数を得たデザインが必ずしも、“最良”のデザインになるとは筆者は思わない。そもそも全員が一致することはありえないし、国民の支持は割れるに間違いない。三者三様だ。
五輪エンブレムなど50年、100年先にもシンボルとして残るものである。国民の記憶に残る“斬新”で“インパクト”なデザインが求められるのではないか。それを選び抜くのは一般の人たちではなく、プロ中のプロの目線だろう。
1964年東京五輪の亀倉雄策氏が制作した五輪エンブレムは、50年後の現在でも強烈なインパクトを与える作品だ。
「あれ、どこかで見たようだ」とか「何かユニークさに欠けて平凡だ」という印象を与える五輪エンブレムは、如何なものかと筆者は考える。
次世代に残るような“先駆的”な“インパクト”のあるデザインを期待する。
応募作品を審査するエンブレム委員会の責任は重い。
2020年東京オリンピック・パラリンピック組織員会
1964年東京オリンピック組織員会
東京五輪エンブレム A案の「組市松紋」に決定
旧五輪エンブレム選考 「不適切な投票」
2015年12月18日、東京五輪組織委員会は、2015年9月に白紙撤回した旧エンブレムの選考過程について、「1次審査において、事前に参加を要請した8人中2人に対して、不適切な投票があった」とする外部有識者の調査結果を公表した。8人は結果的に全員が1次審査を通過した。
報告書によると、審査委員代表だった永井一正氏が槙英俊・マーケティング局長と、高崎卓馬・企画財務局クリエイティブディレクターの2人(いずれも当時)に、8人全員を自動的に2次審査に進めるよう事前に要望していた。1次審査は審査委員が104作品に対して1人1票、最大20作品を選び、2票以上を得た作品が2次審査に進む仕組みだったが、8人の作品番号を事前に知っていた槙氏と高崎氏が投票締め切り直前、8人中2人の作品は1票しか入っていないことに気づき、永井氏に該当作品の番号作品を伝えた。票を使い切っていなかった永井氏がこの2作品に投票したため、8人の1次通過が確定したという。
報告書は同時に、「2次審査以降は適切に審査が行われた」とし、審査で1位になった佐野研二郎氏を含む入選作品の決定に影響を与えた事実はないと結論づけた。
(出典 2015年12月18日 朝日新聞)
“模倣”の批判にさらされた旧五輪エンブレム
2020年東京オリンピック・パラリンピックまであと5年余りになった2015年7月24日、大会組織委員会と東京都が大会のシンボルマークとなる五輪公式エンブレムを発表した。
五輪とパラリンピックの2種類で、多様性を示す黒と、鼓動を表す赤の円が特徴的なシンプルなデザインで、五輪は東京などの頭文字の「T」、パラリンピックは平等を表す記号の「=(イコール)」をイメージした。
デザインを制作したのはアートディレクターの佐野研二郎氏(42)、104件の応募作品から選ばれた。東京都庁舎前の都民広場でイベントが開催され、エンブレレムは集まった大勢の参加者に華やかにお披露目された。これから2020年東京オリンピック・パラリンピックのPRやイベント、協賛企業の広告などに使用され、五輪ムード盛り上げに一役買うことになる。
しかし、発表直後から、ベルギーのリエージュ劇場のロゴマークなどと「似ている」とネット上で話題になった。
(左) 2020年東京五輪旧エンブレム 東京五輪組織員会ホームページ
(右) リエージュ劇場のロゴマーク リエージュ劇場ホームページ
フェイスブックに“模倣”批判
五輪エンブレムが発表された直後の7月27日、ベルギーのリエージュ劇場のロゴマークが似ているロゴを制作したベルギーのデザイナー、オリビエ・デビー氏が、リエージュ劇場のロゴマークと五輪エンブレムのデザインを並べて「不思議」とフェイスブックに投稿した。すぐさまインターネット上で話題になり、波紋が一気に広がった。
リエージュ劇場のロゴは2011年制作され、制作を担当したデザイン会社のホームページにも掲載されている。フランス語で劇場とリエージュのそれぞれの頭文字「T」と「L」を組み合わせたという。
その後、オリビエ・デビー氏は、ロゴマークは劇場側でベルギーをはじめヨーロッパ各国で商標登録をしており、商標権の侵害であると主張した。
“商標権侵害”はないと反論
オリビエ・デビー氏の“商標権侵害”の主張を受けて、五輪組織員会は、『国際商標調査を済ませているので問題ない』というコメントを発表した。商標登録を行う際に実施する事前に行う調査で、類似の商標があるかどうかを調査するものである。この国際商標調査は五輪組織員会とIOCと共同で実施したとしている。
その後、IOCの調査で、リエージュ劇場は商標登録を行っていないと確認が取れ、8月1日、クアラルンプールのIOC総会で、IOCを代表するコメントとして『先方は国際商標登録しておらず、全く問題ない』と発表した。“商標件侵害”に関する議論は、リエージュ劇場が商標権を登録していないということで“解決済み”とした。
ここで問題になるのは、五輪組織委員会は、商標権登録を終えていたかである。実は五輪組織委員会は、国際商標調査は終了し、類似の商標は見つからなかったとしているが商標権登録はおろか申請もしていなかったことが明らかになっている。つまり、商標権登録を済ませていない同士が、“商標権侵害”を巡って応酬をしていたというなんとも、双方とも“お粗末”な展開だったようである。
商標権は、いわゆる先願主義で、先に登録をした権利者に優先権がある。商標権登録を終えていなければ、実際に使用していても何の権利も発生しない。
“著作権侵害”で提訴
オリビエ・デビー氏は、商標登録はしていないが、リエージュ劇場のロゴマークは広く公開されているので、それを“模倣”しているとして、“著作権侵害”にあたると主張をした。
論争は、“商標権侵害”から“著作権侵害”に移ったのである。
ここで肝要なのは、商標権と著作権は、同じ知的所有権ではあるが、基本的に法的性格が違うことだ。
著作権は、イラストや写真、音楽、文章等の著作物が対象で、主として著作者の人格的な利益の保護が目的である。重要なのは、著作権は創作と同時に自動的に発生する権利であることだ。登録されることで権利が発生する商標権とは違う。
8月14日、リエージュ劇場とオリビエ・デビー氏側は、「著作権が侵害された」として、国際オリンピック委員会(IOC)に対して、エンブレム使用の差し止めと、使用された場合に1回につき5万ユーロ(約690万円)を支払うよう求めて、ベルギー・リエージュの民事裁判所に提訴した。
オリビエ・ドビ氏は「結果的に2つは極めて似ている。どうやって創作したかではなく、結果が大事だ」として、商標登録ではなく著作権が優先されるべきだと主張した。
提訴した側の弁護士によると、7月31日付でIOCに対して使用差し止めを求める文書を送ったが拒否する回答が来たため提訴したという。弁護士は公式スポンサーなどがエンブレムを使用した場合でも「違反ごとに」5万ユーロを支払うことをIOCに求めたが「金銭獲得が目的ではない」としている。9月22日に訴訟手続きを開始するとした。
IOCは五輪組織委員会と連名で「完全にオリジナルな作品」との認識を示した書簡を劇場とデザイナー側に送ったことを明らかにしている。
“著作権侵害”は成立するか?
“著作権侵害”が成立するのは、いくつかの要件を満たす必要がある。
「他人の著作物を模倣する意図があったこと」という「依拠性」と「他人の著作物と同一又は類似の著作物であること」という「同一・類似性」である。
「依拠性」とは、“模倣”や“盗作”を故意に行ってかどうかだが、この立証責任は提訴した側にあるが、訴えられた側が自ら告白しない限りほとんど不可能に近いだろう。そこで、「同一・類似性」が極めて高く、ほとんど同一の著作物とされた場合は、「依拠性」が“推定”で認められる。そして今度は、訴えられた側が「依拠していないことを積極的証明」する必要が課せられ、立証ができなければ“著作権侵害”を否認できなくなるのである。
佐野研二郎氏は、「自分はベルギーに行ったことも、(模倣とされる)ロゴを一度も見たこともない。デザインの参考にはしていない」と「依拠性」と否定し、「同一・類似性」ついては、「『T』と『L』という要素は同じものがあるが、デザインに対する考えが全く違うので、全く似ていない。デザインの考え方も違うので、背景の色などもすべて違う」と否定した。
また8月5日に大会組織委で開いた記者会見でも佐野研二郎氏は「日本人としての誇りを持って作った。盗用との指摘はまったくの事実無根」と独自性を強調した。
佐野研二郎氏のデザインには著作権があるのか?
“著作権侵害”は成立するかどうかを検証する以前に、そもそもリエージュ劇場のロゴマークや佐野研二郎氏のデザインに著作権は成立するのかという疑問が投げかけられている。
著作権を主張できる著作物は、創作物であり、単純な文字や図形の組み合わせやありふれた表現の文章はその対象ではないとされている。
デザインや文章などの表現を誰かに独占させると、他の人たちの創作活動が制約される。 しかも著作権は保護期間が長く、全世界で無条件に保護されるという強い知的財産権である。そこで自由な創作活動の妨げにならないように対象を厳しく絞っているのである。
今回の騒動になった比較的シンプルなロゴマークやデザインは、そもそも著作物性自体に疑いが出されている。
佐野研二郎氏のデザインは、「東京(Tokyo)」「チーム(Team)」「トゥモロー(Tomorrow=明日)に共通する頭文字の「T」、パラリンピックは平等を表す記号の「=(イコール)」とベースに多様性を示す黒と、鼓動を表す赤の円が目を引くシンプルなデザインで、円はすべて包み一つになった世界。赤は日の丸とハートの鼓動を表しているという。しかし、基本的には、アルファベットと単純な図形を組み合わせである。
リエージュ劇場のロゴマークも同様であろう。
世界には無数のロゴマークやエンブレムがあり、シンプルなデザインの場合、イメージが似ている程度で権利侵害を認めると、多くのデザインが、世界中の何かの著作権を侵害しているということになりかねない。
仮に日本の裁判所では、こうしたデザインでは創作性に疑問があり、著作物として認められないとする専門家が多い。
しかし、司法判断がどうなるかは、訴訟になってみなければわからないだろう。また今回、リエージュ劇場とオリビエ・デビー氏側が提訴したのは、ベルギー・リエージュの民事裁判所である。どのようや司法判断が下されるか、さらに不透明である。
“創作性”に疑問が出されるデザインをなぜ選んだ
五輪組織委員会は五輪エンブレム選考のコンペに際して、2つの課題を念頭に置いた。1つ目は五輪とパラリンピックのエンブレムが、ひと目見て違うものではあるが、デザインの関連性があること。2つ目は、「デザインの展開力」で、街並みでのさまざまの形での展開やライセンスグッズの展開、動画やデジタルメディアへの拡張性などがあることである。
佐野研二郎氏の作品は五輪・パラのデザイン的な連動性、動画ですとか、デジタルメディアまでと含めたデザインの拡張性、展開力という点で、非常に優れた提案とし評価した。
その結果、「T」と「〇」を組み合わせてシンプルなデザインの佐野研二郎氏の作品を採用したのである。
筆者は、このデザインを見た第一印象は、随分シンプルなデザインで、どこかで見たようなロゴマークといったという感じだった。残念ながら斬新でインパクトのある印象はほとんどない。
佐野氏デザイン サントリー賞品撤回 “盗用”認める
佐野研二郎氏がデザインしたサントリーのキャンペーン賞品となっているトートバッグのデザインに“盗用”問題が発覚した。
佐野氏に対する“疑惑”がさらにに高まり、2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムの“盗用”疑惑が再燃している。
8月13日、サントリーは、佐野研二郎氏が手がけたキャンペーン賞品の一部を取り下げ、発送を中止すると発表した。佐野氏側からの申し出を受けた対応という。キャンペーン賞品の一部のデザインはインターネット上などで「ネット投稿画像や既存デザインに酷似している」との指摘が相次いでいた。
取り下げたのは、ノンアルコールビールのキャンペーン賞品となっているトートバッグ30種類のうち8種類。フランスパンのデザインは、ブログに掲載されているパンの画像に酷似しており、回転させて一部を切り取った可能性があると指摘された。また矢印の中に「BEACH」と書かれて看板や泳いでいる「人」のデザインなど、“模倣”の疑念が生まれている。
8月14日、佐野氏が模倣を認め、謝罪した。代表を務める事務所の公式ホームページで「複数のデザイナーと共同で制作した。事実関係を調査した結果、デザインの一部に関して第三者のデザインをトレース(描き写し)していたことが判明した」と明らかにした。
“トレース”というデザイン業界用語を使用しているが、ようするに、いわゆる“コピー&ペースト(コピペ)”で、“盗用”を認めたのであろう。
一方で、東京五輪公式エンブレムについては「私が個人で応募したもので、模倣は一切ないと断言していたことに変わりはない」としている。
佐野氏は「私としては渡されたデザインが第三者のデザインをトレースしていたものとは想像すらしていなかった」とし、「私自身のプロとしての甘さ、スタッフ教育が不十分だったことに起因すると認識している。責任は痛感しており、このような結果を招いてしまったことを厳しく受け止める」と陳謝した。
サントリーのキャンペーン賞品での“模倣”を認めたことで、佐野研二郎氏に対する“疑念”が一気に高まっている。
たとえば、小説や論文などで、その著作者が“盗用”を認めたら、“不信感”が高まり、その著作者の作品全体の評価が下がるのは当然だろう。芥川賞や直木賞を選定する際には、その著作者の作品はしばらく除外すると思うが……。いくら「東京五輪のエンブレムは別の作品で問題はない」と主張しても、“不信感”は高まる一方である。
佐野研二郎氏制作の東京五輪エンブレム 原案公開
2015年8月28日、大会組織委員会は28日、都内で記者会見を開き、アートディレクターの佐野研二郎氏が制作したエンブレムの原案を公開した。
原案は2度修正され現在のデザインになったとし「原案は(ベルギーの劇場ロゴに)全く似ていなかった」として盗用したとの指摘を全面否定した。
組織委によると、選考過程で、世界中の商標登録を確認したところ、原案と類似のデザインを発見。このため、組織委の要請で佐野氏が原案を修正し、赤い丸の位置が変わり、白抜きの円が加わった。すると、審査委員から「円が強調され、躍動感がなくなった」との指摘があり、佐野氏が再度修正して最終案となったという。
審査委員の代表を務めた永井一正氏は「(原案と)似たようなものがほかにあったようだ。そのため佐野さんの案は、元のイメージを崩さない範囲でパーツを一部動かすなど、組織委の依頼で何度か微修正された」と述べている。
(左)佐野研二郎氏がデザインした2020年東京五輪のエンブレム原案
(右)佐野研二郎氏による2020年東京五輪のエンブレム修正案
東京五輪組織員会
佐野研二郎氏の原案エンブレムは“類似”のデザインがあった!
この日の会見で明らかになったのは、佐野研二郎氏の原案エンブレムは“類似”のデザインがすでに商標登録されていたことが分かっていて、当初から、懸念が出されていたというポイントが重要だ。 “盗用”かどうかの問題とは別に、佐野研二郎氏のデザインの“独創性”に深い疑念を持った。要は誰でも“考え付く”程度の特徴のないデザインだったのだろうか?
最終案に至るまで、“類似”のトラブルを避けるために、2回の修正が行われたというのも驚きである。もっともデザインの専門家は、よくあることで異例なことではないとしているが、釈然としない。記者会見で武藤敏郎東京五輪組織員会事務総長は、「(原案は)若干類似する商標が見つかったので、この案(原案)のまま申請するのは断念した」としていることだ。
その後、会見で言及された「原案と“若干類似する商標”」と思われるデザインが何かが明らかになってきた。2年前の展覧会で使用されたデザインで、“原案”と酷似しているとインターネットネット上で疑問視され、また新たな“疑惑”が巻き起こっている。
“類似する商標”とされたのは、2013年11月に東京・銀座で開かれた“Jan Tchichol展(ヤン・チヒョルト展)”で使用されたもので、ヤン氏のイニシャルの“T”と“〇”をあしらったデザインだとされている。
要は、原案には “類似”のデザインがあって、それを回避するために修正したら、ベルギーの劇場のロゴマークに似てしまったということなのではないか。
どう修正しても、アルファベットや図形を使用したシンプルなデザインは、すでに使用されている他デザインに“類似”しまう、要するに佐野氏にデザインに“オリジナリティ”がなかったからだということだろう。
“疑惑”解消を狙って開催された記者会見の釈明が、まったく逆効果で、むしろ“疑惑”を増してしまった。
旧五輪エンブレム原案、審査会通さず“無断”修正
旧五輪エンブレムの原案の修正は2回に渡って修正されたことが明らかになっているが、いずれもエンブレムの審査委員らには伝えられていなかったと複数の関係者が証言しているという。
旧エンブレムの審査会があったのは、昨年11月17、18日。104案の応募があった。「インパクトの強さ、展開例が非常に優れていた」との理由で佐野氏の案を選んだ。だが、組織委が国内外の商標登録を確認したところ、案と「若干類似する作品が見つかった」(組織委関係者)ため、修正を迫られた。
複数の関係者によると、「日の丸」発言があったのは昨年12月ごろ。数人の組織委幹部が協議するなかで、「これはおかしい。日の丸を足元に置くなんて」と案への強い違和感を訴える意見が出たという。Tの字の右下に赤い丸が置かれるデザインだった。
指摘を受けた佐野氏は今年2月、組織委に1度目の修正案を提示。赤い丸を右上に移した。だが、組織委幹部らは再び、「躍動感がなくなった」と指摘。4月上旬、佐野氏から受け取った2度目の修正案を組織委は正式な国際商標調査にかけたという。
協議の場にいた幹部は取材に対し、「佐野氏にもいろいろ言ったが、意見として言っただけ。指示したわけではない」と話した。
審査委員代表だった永井一正氏(86)が、修正が加えられているのを知ったのはこの直後。組織委から「4月初めには公表したい」と説明を受けていたが公表されなかったため、問い合わせたという。(出典 朝日新聞 9月28日)
問題は、五輪エンブレムの選定を行う審査会がこの修正の経緯を知らなかったことである。新国立競技場の国際デザインコンク-ルでは、審査の不明瞭さが厳しく批判されたが、それに引き続き、五輪エンブレムの選考でも不明瞭な選考過程が繰り返されていた。余りにもお粗末な2020年東京オリンピック・パラリンピックの運営体制である。
エンブレム使用例のイラスト、他サイトに写真 無断転用
2015年8月31日、エンブレムの使用イメージ・イラストとして佐野研二郎氏が大会組織委員会にコンペ応募の資料に使用された画像2点が、他人のサイトから無断で転用されたことが発覚した。
イラストの一つは空港施設の天井近くにエンブレムが掲げられた画像で、背景に使用されている成田空港のロビーの画像、もう一つは繁華街のビルの壁面や屋上にエンブレムが飾られているイラストで、背景の街並みの画像だ。
いずれも大会組織委が28日の記者会見で、エンブレムの選考過程を説明する際に公開された。記者会見の様子は動画サービス「ニコニコ生放送」などで中継され、終了後からネット上で転用を指摘する声が出始めた。大会組織委にも問い合わせが相次いで寄せられたという。
空港施設の画像の転用元と指摘されているのは、外国人女性が東京・羽田空港のロビーを撮影し、自身のブログに掲載した写真。写真の下部に著作権が自らに帰属することを明記していた。 繁華街の画像の転用元と指摘されているのは、上部が英国人男性が自らのサイトで公開した東京・渋谷駅前のスクランブル交差点の風景写真、下部が世界最大級の野外音楽フェスティバル「Tomorrowland」のサイトの写真。それぞれ写真の使用には引用元の明示や同意が必要としている。
(参考 2015年9月1日 朝日新聞)
この写真を無断不正使用が指摘されたことが、五輪エンブレム撤回の“決定打”になったとされている。
五輪エンブレム撤回
2015年9月1日、大会組織委員会は、佐野研二郎氏(43)がデザインしたエンブレムの撤回を決めた。大会組織委はこれまで独自性を主張してきたが、類似したデザインが次々と指摘されて、国民やスポンサーからの不信が高まり続け、一転して「国民の支援がないと、使い続けることはできない」(武藤敏郎事務総長)と追い込まれた。 新国立競技場の“白紙撤回”に引き続き大失態となった。
政府関係者によると、組織委が撤回の決断をしたのは31日。官邸にも同日中に連絡があった。組織委は事態の収拾を図ろうと28日に原案を公開したが、ここで公開した画像で佐野氏も認めた新たな流用が即座にネット上から発覚した。政府関係者は「ネットで次々と似ているものが指摘される。10年前では考えられないことだ。火の粉を振り払うはずが燃え広がった」とため息をつく。ただちに組織委は佐野氏からも事情聴取。佐野氏が撤回を申し出て一気に決着した。
(出典 毎日新聞 2015年9月2日)
大会組織委の武藤敏郎事務総長は記者会見で、「佐野氏は使用イメージ画像の無断転用は認めたが、エンブレムの模倣や盗作は否定している。組織委も盗作とは考えていないが、今や一般国民の理解を得られなくなった」と使用中止を決めた理由を述べた。
また佐野研二郎氏(43)から取り下げの意向が示されたことも明らかにし「このままでは国民の理解が得られない」と撤回の理由を説明した。佐野氏も同日夜、「模倣や盗作は断じてしていないが、批判やバッシングで今の状況を続けるのは難しい」とのコメントを出した。
対応が後手後手にまわった五輪エンブレム問題
五輪エンブレム問題は、著作権や商標権上の法的な問題として片づけるのは間違いである。
「盗作」や「模倣」にはあたらなくても、結果と指定“似ている”と、多くの市民が疑念を感じた場合は、そのデザインを五輪エンブレムとし採用するのは如何なものかである。
“似ている”、“似ていない”は、まさに“見る人”の主観によって決まる。
法的な問題はクリヤーできてもこの問題は尾を引く。
さらに日本とベルギーでは、デザインに関する“感性”も違うだろう。日本では「似ていると言われれば似ているかもしれない。似ていないと言われれば似ていないだろう」というのが大方の見方だろうが、ベルギーや欧州の市民はどう感じているのか、主観的な問題は、日本人だけで決めつけない方が良い。
要は、五輪エンブレムは、50年先、100年先の残る2020年東京オリンピック・パラリンピックのシンボルなのである。
しかし、何か釈然としない“疑念”を抱えたエンブレムを使い続けて、世界に向けて2020年東京オリンピック・パラリンピックを発信するにはふさわしくないと筆者は考える。
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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
2015年12月18日
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廣谷 徹
Toru Hiroya
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