第72期王座戦第3局である(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)。ここまで藤井聡太王座の2勝。永瀬拓矢九段は前期以上に闘志を燃やしたはずだが、結果が伴っていない。ここが勝負事の難しさである。
対局場は藤井七冠が八冠を達成した京都市の同じ宿で、両者は否が応でも意識せざるを得ない。とはいえ永瀬九段のほうに、より大きな感慨があったと思われる。あの悪夢から1年、対局者として、またこの地に戻ってこられたからだ。ただし、カド番という状況は同じである。
第3局は永瀬九段の先手。永瀬九段の注文で、角換わりになった。こうなればまた、金をまっすぐ立ち、飛車を引く例の形に落ち着く。
しかしそこからが厄介で、両者千日手模様で待つ。角換わりはこれがあるから廃れたともいえるが、何の巡り合わせか、いまや日々の対局でこの戦型を見ない日はない(たぶん)。
けっきょく藤井王座は右玉を選択した。角落ちだか飛車落ちだかの上手ような形になった。2002年に金沢孝史四段(当時)が王座戦で清水市代女流王位(当時)と対戦したとき、清水女流王位が完璧な布陣を構築したので、金沢四段が仕掛けずして「投了を考えた」というのが、今回の藤井王座の形に近い。
藤井王座、左桂を跳ねた。これで局面がほぐれること確実だが、桂を手にすれば藤井王座のほうに手が多そうで、これは藤井王座のほうが、考えていて楽しいだろうなと思った。
だが、永瀬王座も頑強に受けて、形勢不明。そして9筋の端攻めに出た。私も大野八一雄七段との角落ち指導対局で、何度も端攻めをしたが、効果を上げたことはあまりない。
だが永瀬九段のそれは、うまく端を破っていた。私が桂などを投資したのに対し、永瀬九段は歩だけの攻略だった。やはりプロの端攻めは違うのである。
藤井王座は、馬をじりじりと敵玉に寄せる。永瀬九段としては、いつ爆発するか分からない時限爆弾があるようで不気味だろう。
しかし永瀬九段はうまく角を世に出し、優勢になった。自玉周辺に時限爆弾はあるものの、この寄せ形はシンプルで、永瀬九段も考えやすいだろう。
持ち時間も、珍しく藤井王座が先に1分将棋になった。ここからの受けが見ものだ。藤井王座は金を受けたが、やがて盤上から消えた。いっぽう永瀬九段は銀を取りつつ詰めろに迫り好調。これは永瀬九段が勝ったと思った。
だが藤井王座は裸玉で粘る。実は私も前日の社団戦で似た展開になったのだが、裸玉は取られる駒がないから、存外耐久性があるのだ。しかし敗勢には違いない。現在の形勢バーは「永瀬75:25藤井」である。
藤井九段、つにに、銀で王手をした。いままでAIが何度も推奨していた手である。大山康晴十五世名人も、受けの合間に攻めを挟んだが、このほうが対局者が困惑するようである。
実はここまで、バイトの帰りの車中でスマホを見ていた。両者1分将棋の大詰めなので、私はホームで続きを見ようと思ったくらいだ。
でもとりあえずはメシである。松屋に入るとすぐ注文がきてしまうので、てんやに入った。これなら注文が来るまで、スマホを見られる。
ところがてんやに入ってスマホを見ると、驚愕の画面になっていた。形勢バーが「永瀬1:99藤井」になっていた。なんでだ!?!?!?!?
永瀬九段、盤上に馬と銀、持駒に金があるのに、藤井玉が絶望的に詰まない。
その元凶は9筋の歩打ちだった。永瀬九段、銀の王手に、玉を横に逃げたのだ。私だったらナナメ上に逃げだしたいが、まあ横に逃げてもよかったことはよかった。ただし香の王手に歩を合いしたのが大悪手だった。このとき形勢バーがググーッと動いたと思われる。
解説の中村太地八段によると、香の王手には桂を跳ねるのがよかったようだ。だけど1分将棋で、そんなあぶない受けはできない。
ここがAI評価値の恐ろしいところで、正着を指し続ければ勝ちになるが、一手でも間違えば奈落の底なのだ。しかもその正着が見つけにくいときている。
永瀬九段、髪をかき上げ呆然としている。デジャヴだ。この光景、同じこの地で、1年前にも見た。その悪夢再び、か!
21時、永瀬九段投了。藤井王座、王座初の防衛なる!!
それにしても藤井王座、まさかこの将棋も勝つとは…!! 藤井王座は全局集を出すからアレだが、この将棋も大逆転の名局として、編まれるのではないだろうか。
藤井王座はこれで、タイトル数25期。谷川浩司十七世名人の27期に、あと2期である。信じられない。
対局場は藤井七冠が八冠を達成した京都市の同じ宿で、両者は否が応でも意識せざるを得ない。とはいえ永瀬九段のほうに、より大きな感慨があったと思われる。あの悪夢から1年、対局者として、またこの地に戻ってこられたからだ。ただし、カド番という状況は同じである。
第3局は永瀬九段の先手。永瀬九段の注文で、角換わりになった。こうなればまた、金をまっすぐ立ち、飛車を引く例の形に落ち着く。
しかしそこからが厄介で、両者千日手模様で待つ。角換わりはこれがあるから廃れたともいえるが、何の巡り合わせか、いまや日々の対局でこの戦型を見ない日はない(たぶん)。
けっきょく藤井王座は右玉を選択した。角落ちだか飛車落ちだかの上手ような形になった。2002年に金沢孝史四段(当時)が王座戦で清水市代女流王位(当時)と対戦したとき、清水女流王位が完璧な布陣を構築したので、金沢四段が仕掛けずして「投了を考えた」というのが、今回の藤井王座の形に近い。
藤井王座、左桂を跳ねた。これで局面がほぐれること確実だが、桂を手にすれば藤井王座のほうに手が多そうで、これは藤井王座のほうが、考えていて楽しいだろうなと思った。
だが、永瀬王座も頑強に受けて、形勢不明。そして9筋の端攻めに出た。私も大野八一雄七段との角落ち指導対局で、何度も端攻めをしたが、効果を上げたことはあまりない。
だが永瀬九段のそれは、うまく端を破っていた。私が桂などを投資したのに対し、永瀬九段は歩だけの攻略だった。やはりプロの端攻めは違うのである。
藤井王座は、馬をじりじりと敵玉に寄せる。永瀬九段としては、いつ爆発するか分からない時限爆弾があるようで不気味だろう。
しかし永瀬九段はうまく角を世に出し、優勢になった。自玉周辺に時限爆弾はあるものの、この寄せ形はシンプルで、永瀬九段も考えやすいだろう。
持ち時間も、珍しく藤井王座が先に1分将棋になった。ここからの受けが見ものだ。藤井王座は金を受けたが、やがて盤上から消えた。いっぽう永瀬九段は銀を取りつつ詰めろに迫り好調。これは永瀬九段が勝ったと思った。
だが藤井王座は裸玉で粘る。実は私も前日の社団戦で似た展開になったのだが、裸玉は取られる駒がないから、存外耐久性があるのだ。しかし敗勢には違いない。現在の形勢バーは「永瀬75:25藤井」である。
藤井九段、つにに、銀で王手をした。いままでAIが何度も推奨していた手である。大山康晴十五世名人も、受けの合間に攻めを挟んだが、このほうが対局者が困惑するようである。
実はここまで、バイトの帰りの車中でスマホを見ていた。両者1分将棋の大詰めなので、私はホームで続きを見ようと思ったくらいだ。
でもとりあえずはメシである。松屋に入るとすぐ注文がきてしまうので、てんやに入った。これなら注文が来るまで、スマホを見られる。
ところがてんやに入ってスマホを見ると、驚愕の画面になっていた。形勢バーが「永瀬1:99藤井」になっていた。なんでだ!?!?!?!?
永瀬九段、盤上に馬と銀、持駒に金があるのに、藤井玉が絶望的に詰まない。
その元凶は9筋の歩打ちだった。永瀬九段、銀の王手に、玉を横に逃げたのだ。私だったらナナメ上に逃げだしたいが、まあ横に逃げてもよかったことはよかった。ただし香の王手に歩を合いしたのが大悪手だった。このとき形勢バーがググーッと動いたと思われる。
解説の中村太地八段によると、香の王手には桂を跳ねるのがよかったようだ。だけど1分将棋で、そんなあぶない受けはできない。
ここがAI評価値の恐ろしいところで、正着を指し続ければ勝ちになるが、一手でも間違えば奈落の底なのだ。しかもその正着が見つけにくいときている。
永瀬九段、髪をかき上げ呆然としている。デジャヴだ。この光景、同じこの地で、1年前にも見た。その悪夢再び、か!
21時、永瀬九段投了。藤井王座、王座初の防衛なる!!
それにしても藤井王座、まさかこの将棋も勝つとは…!! 藤井王座は全局集を出すからアレだが、この将棋も大逆転の名局として、編まれるのではないだろうか。
藤井王座はこれで、タイトル数25期。谷川浩司十七世名人の27期に、あと2期である。信じられない。