いい年をして阿呆だなあ、と思うんだけど、イーダちゃんはむかしっからガンが好きなんですよ。
ただ、僕の時代はモデルガンの全盛で、いまみたいなエアガンというのは、まったくなかったんですよね。
だもんで、20年以上、まあガンマニアとしてのブランクがあったわけ。
でも、こないだ、まえの職場の同僚とたまたま飲みにいって、帰りにそいつのところにいったら、このエアガンがあったんですね。
で、醉っぱらったまま撃たせてもらったら、これが凄いの---強力なBB弾が、まっすぐに銃口から弾きだされるうえ、なんと、自動式拳銃のスライドが自然とブローバックするんです!
これには、マジびっくりしました。
だって、火薬もなんも入れてないのに、ブローバックするんだもん。
あとから聴いたら、それは、電動ガンという最新の機構をもった銃だったというんですけど、いやー、びっくりしました。
そして、感動しましたね---命中精度もそーとーいいんだもん、これ。
その週のうちに、熱に駆られて、一挙にエアガンを5丁も買っちゃいました。
コルトの9ミリ、ダブルアクションのオートマチック、ダブルイーグル45AP---
おなじくコルトの357マグナム・リボルバー「パイソン」の6インチ・モデル---
重厚なクラシカルな雰囲気がたまんない、マルゼンの、超・美的なワルサーP-38に---
米軍の制式拳銃、いまもっともトレンディーなガン・ベレッタ9ミリのM92F---
そして、これはガスガンなんだけど、コルトの形式をそのまま採用して、競技用に銃身をにょーっと長くした、ユニークなAMT ハードボーラー…。
あのー これ、書いてる僕は楽しくて、ほとんど至福状態なんですけど、読まされるほうは、たぶん、そうもいかんでせう。
てゆーか、興味ないひとは、なにが書かれているかすら意味不明だと思う。
だもんで、もそっとウンチク垂れたい気持ちをなんとか抑えて、うーむ、次、いきませう。
そうして、最近の話になるんですが、今年の春あたりから梅雨にかけて、イーダちゃんは、なぜか眠りの浅い日が多くなってきたんですね。
目が覚めてみたら、首のうしろから後頭部あたりがずっしりと重くてね---梅雨入りしたばかりのある明け方、何気に目をさましてみると、ガラスの外のベランダから鳩の声がしげく聴こえてくるの。
クックー、クックーってね、もう延々やってる---。
カーテンあけて、ガラス戸をがらりとやると、ベランダ上を2羽の鳩が小走りして、柵をすり抜けたと同時に空高くばさばさーって飛んでいっちゃった。
----ははーん、してみるとここ最近の俺の不眠の原因は、連中の仕業だったんだな…。
と、不眠気味のイーダちゃんはやや唇をゆがめて、逃げていく鳩をじっと見送りました。
ええ、このときから、イーダちゃん対ベランダ鳩との一戦がはじまったのです。
管理人さんに聴くと、鳩公害っていわれている事象が、このマンションでも結構あるんだ、とのこと。
特に、鳩がベランダに巣をつくっちゃうことがときどきあって、それがいちばん始末がわるい。そうなると鳩も居住権を主張して、もうちっとやそっとじゃ出ていかなくなっちゃう。だから、住人の方も心して、ベランダは清潔に掃除して、鳩が巣作りなんかできないようにしてくださいね…。
ふーむ、と、その答えを耳にして、イーダちゃんの心は決まったのです。
----おーし、なら、いつも部屋に弾入のエアガンを用意して、鳩がきたらそれで撃ったろ…。
えっ、野蛮ですか?
そーかもねえ。けど、鳩っていつかせると、隣のベランダまで被害が及んだりして大変なんですよ。
洗濯物が糞まみれにされて、干せなくなった事態なんかも過去にはかなりあったらしい。
ならば、やらずばなるない---エアガン作戦の実施です。
ただし、殺したり怪我させたりする意図はまったくないんで、威力のありすぎるガスガンは封印し、懲らしめのためのエアガンのみで対処することにしました。
僕が特によく使ったのは、10才以上用の安物のトイガン、コルトのダブルイーグルでしたねえ。
上:著者の愛銃マルゼンのワルサーPー38。でも、これは、鳩に怪我させちゃうんで未使用なり。
意識して耳を澄ませていると、僕のベランダはひっきりなしに鳩の居場所と化していることが、よく分かりました。
くっくっーと聴こえると、忍び足でダブルイーグルを手に取り、安全装置を外し、スライドもがしゃっと引いて。
それから、ガラス戸をあけ、エアガンをぱんぱん撃つ---!
至近距離ですから結構当たるんですよ---当たるとびっくりして、飛行の軌道が咄嗟に変わったときなんかもあった。
動物愛護の精神にはもとるのかもしれないけど、そういうときは結構嬉しかった。
狩猟人として代々受け継いできた、人類伝統の狩猟本能の血が騒ぐ、みたいな感じです。
1日に6度くらい、BB弾を撃ちこんだときもあった。
でもね、この鳩さんたち、メゲないんですよ。
撃っても撃っても、毎日やってくるの…。
----おいおい、勘弁してよ、怪我しちゃうゾ、お前らさぁ…。
で、その朝、鳩声に気づいた僕がベランダ・ガラスをがらりとやったら、またもやそこに鳩さんが2羽---。
すかさずパンと撃った。
したら、1羽は、ぱっと逃げたんですが、ベランダの奥にいるほうの鳩が、なぜだかそこを動かない。
一瞬、彼女と僕の目が合いました。
普通だったら、こんなとき、まず逃走するのが動物の本能でせう。
しかし、彼女は、そうしないの。
----おい、逃げろよ、撃っちゃうよ、おい…。
顔をはずして痛くなさそうなしっぽのほうに、僕は狙いを定め、一発、ぱんと。
彼女、びくっとなった---でも、動かない---きょとんと困ったような顔で固まってる---なんで?
撃ってるイーダちゃんのほうに焦りが広がります。
超・困った---けど、乗りかかった舟だし---もう一発!---様子見のBB弾をしっぽのほうに撃ってみる。
でもね、まーだ彼女は動かない!
トイガンの弾が2発、確実にあたってて、結構痛いはずなのに。
----ええ、マジかよー!? うそだろう、まいったなあ…。
しかたがないので、ベランダから一時離れて、部屋の奥から木刀をもってきました。
もちろん、それで叩くつもりじゃない、それでベランダ奥から鳩さんをそっと追いだす腹づもりです。
手にした木刀を伸ばして、それでそーっと鳩さんを押すと、彼女、前のめりにトトトッと歩いて、やっと、ベランダの柵の外にでて、ぱたぱたぱたーって空に舞っていってくれた…。
僕は、なんだかホッとして、彼女のいたベランダ奥を何気に見たら、息、とまりました。
----!
だって、そこには、無数の小枝を集めてつくった、できかけの巣があったんですから。
いままで旅行かばんの死角になってて見えなかったんですね。
そして、そのなかには、産みたての白い、ちっちゃな卵がふたつ…。
----嗚呼、糞ッ…、このために、お前、あんなに身体張ってたのかよーっ…!
胸、潰れそうになりましたねえ、なんか。
上左:鳩が巣作りしていたベランダ奥。旅行かばんで奥は見えなかった。 上右:小枝と卵ふたつ…。
結局、巣になりそこねた小枝、全部掃いて、片付けて、割らないように卵チリトリに入れて、それ、ゴミ袋に入れて…。
そのあいだ鳩の母さんは、やや遠くの階段の縁にとまってね、こっちの様子をそっと窺ってるの。
----くくくー、あらあら、あたしの子供たちは、どこにいっちゃったんだろう…? くくくのくー…。
僕は、なんか目わあわせらていられなかったな---巣を破壊しちゃった罪の意識で。
その日、日が暮れるまで、その鳩の母さんは、空っぽになっちゃったベランダに、何度もぱたぱたと様子見にやってきました。
ええ、結果的に鳩公害を除去することはできたんですけど、でも、僕的には、非常に後味わるかったですね、この小事件は。
その夜のビールの苦いことったらなかったな…。
やっぱ、母ってスゴイっスよ、うん、あらゆる意味で。
翌朝の早朝、仕事にでるときも、この鳩の母さんは、ベランダ近辺の階段の手すりにとまって、ベランダのほうをまだじーっと窺ってました---クックックッーと、例の調子で喉を鳴らしながら…。