00/11/3海保 00/11/18 わかりやすいマニュアルを考える会 講演要旨
なぜ、人は、マニュアルがわかりにくいと言うのか
概要*************************************************************** マニュアルがわかりにくいという声は、至る所で耳にする。ときには、「くたばれ、マニュアル」という怨嗟の声さえ聞くこともある。なぜ、こんなことになったのであろうか。コンピュータに、書き手に、表現に、教育に、ユーザ・状況に、そして文化のどこに問題があるのかを考えてみる。
********************************************************************
第1 コンピュータが問題
●コンピュータの次の4つの特性がわかりにくさを構造的に作り出している。
OHP
1)直接性の欠如 操作がただちに仕事の変化とはならない。
操作が正しいのが間違っているがわからない。
2)同型性の欠如 操作することと仕事との間の関係が同型でない。
3)先取り性 ユーザがするであろうことをあらかじめ取り込んで手順 化しておく。何がどのように取り込まれているかがわからない。
4)多機能性 どんな人でも多彩な仕事ができるように、また、仕事のや り方の多様性に対応できるようにしてある。結局、太郎に は、選択可能性がわけがわからない。OHP
●システムの制作過程で操作デザインが軽視されている
1)システム・デザインと操作デザイン(インタフェース・デザイン)と販売にかかわる人のねらいの間の葛藤が未解決のまま出荷されている。(クーパー*による)OHP
プログラマは、「what's capable」
操作デザイナーは,「what's desirable」
企画マンは,「what's viable(現実的)」
2)操作デザインの軽視
3)操作デザインが製作の下流工程に押しやられる
*アラン・クーパー著 1999 「コンピュータは、むずかしすぎて使えない!」 翔泳(しょうえい)社
●システムの製作後の品質検査が十分ではない
1)ユーザビリティ(使い勝手)のチェックが不十分
・ユーザは異義申し立てて者としては有能。しかし、それだけであってそれ以上ではない。
2)ハードの品質と違って、ソフトの品質は、チェック規準が不分明。
・ISO13407でも、チェックした、という記録だけでよい。OHP
第2 書き手が問題
●説明力がない
1)技術の理解力、文や絵による表現力だけでは十分ではない。読み手の状況や知識や読み方に配慮した説明ができる力が必要。OHP
・設計者は、論理志向。ユーザはわかりやすさ志向
・心理学的素養が説明力のベースに必要
知識として
知的共感能力の開発のため OHP
2)よく知っている人が、必ずしもよく説明できるわけではない
・機械・システムの設計者(技術者)は、表現のタレントがないことが多 い。 OHP
・知りすぎていると、正確さが気になり、書くことが多くなりがち。
多く書かれると、読み手にとっては、大事なところが見えなくなり、
わかりにくいとなりがち。
●TWが育っていない
1)設計者とユーザとをつなぐTWが必要
2)TC技能検定が4年度目をむかえ順調。しかし、TWの人材プールの形成にはまだまだ。
・現在、3級合格者が約1000名
・2級も2月頃には始まる
3)育てる制度がない
・大学でのコースも日本では皆無
例 カーネギーメロン大学では
認知科学 レトリック 言語学 人間工学
グラフィックデザインの分野を組み込んだカリキュラムで
教育されている。 OHP
・木下是雄氏の言語技術研究会の試み OHP
第3 表現が問題
-----------------------------
クイズ 次の表現は何を問題にしている表現か?
1.1 「ヒルキモをピラッコしてください」
1.2 「紙の右隅をちぎってください」
1.3 「絵に示す黒い部分を折ってください」
1.4 「レバーを引いて椅子を前に倒してドアを外に押してください」
1.5 「フロッピーをセットしてください」
1.6 「機械を落とすと壊れます」
1.7 「エレガントでコンパクト、プロフェッショナルソリューション」
-------------------------------------
●言葉や絵で操作を表現することには、構造的な難しさがある
1)実際の操作には自由度に幅がある
・操作デザインで解決できないところがマニュアルに押しつけられる。
・理屈/意味のない決まりに従わせるのがマニュアル??
2)現実の操作はアナログ的だが、表現はデジタルなため、齟齬がでてくる
・ビジュアル表現を多用しても限界がある
・VTRマニュアルが有効だが、参照性や伝達力に問題がある。
●日本語表現の中に、わかりにくい表現を作り出す原因の一端がある
1)用語に馴染みのないものが安易に使われる。
・機能名称が不適切。OHP
・初心者には、カタカナ用語、漢語が理解のバリアーになる。
例「クリアーする」「起動する」「領域指定をする」といった表現 ができてしまうことが問題
2)日本語文章技法が守られていない。OHP
●わかりやすくする工夫がなされていない。
1)技術の民主化により、ターゲット層が絞りにくくなった。
・誰にもわかりやすくが、誰にもわかりにくく OHP
・山田太郎さんをターゲットとして表現することのリスクが大きい
1)内容の精選と取捨選択が不十分
・ユーザの知識とマニュアルを読む状況への配慮がなされていない
・正確さ志向から過剰な情報提供になりがち
2)表現にわかりやすさの作り込みが不十分
・操作の手順説明のみに限定
・機能の記述ばかりで、仕事の目標達成の記述をしない
例 機能の記述 「ストップ」は-----ときに使う
仕事の記述 テープを止めたいときは、「ストップ」を押す
・解説的要素が少ない
・減り張り表現をしない
第4 義務教育が問題
●情報活用能力の育成が教育目標の一つになっているが、教育界でのインフラ整備が遅れている。
1)学校教育がまだまだ不十分
・情報基礎の単元が、中学「技術科」に用意された。
・情報活用能力の育成が教育目標として登場してきた。OHP
2)インフラ整備がやっと緒についた
●理系、文系の早期分離教育が技術との付き合い方に2極分解を起こさせてしまった。
・ユーザ教育という点でも、技術者教育という点でも問題。
・現実社会は、文系も理系もない。
・ただ、性格特性としての理系的性格-文系的性格はありそう。ただし、
役割性格か、社会化された性格かもしれない。
●国語教育は、「文系」教師が独占
1)作家、詩人養成がねらいのごときカリキュラム
2)説明文教育が手薄
第5 ユーザ・状況が問題
●コンピュータ技術の民主化の速度がはやく、新規参入のユーザが急速に増えてきた。
1)関連知識がない
・操作(手続き的知識)もまったく新しいものが必要
例 タイピング クリック&ペースト
2)複雑化隠しのインタフェース技術である、コンピュータ内部への関心を削いでしまった。
例 ブラックボックス化、グラス・ボックス化 OHP
●わからない自分が悪いと思いがちな日本人心性がマニュアルから遠ざける。
・わからない事態に直面すると
逃避---状況から逃げてしまう
認知志向---頭が悪い
状況志向---状況のほうが悪い
攻撃---状況を攻撃する(クレーム)
●マニュアルを読む状況が悪い
1)機械を早く使いたいのに、あれこれ事前準備を要求される。
2)わからないことだけを知りたいという切迫した状況でマニュアルを読まざるをえない。
3)読み物としておもしろくない。
第7 マニュアル文化が問題
●ドキュメントとしてのマニュアルの背景にはマニュアル文化が必要
1)決まり通りに動くことの大切さの認識
2)したがって、決まりを明示したドキュメントはきちんと読む
●日本の組織は、暗黙知とハイ・コンテキスト(状況規定性が高い)で動くのでマニュアル不要
1)長期間のOJTで学べ
2)明示的な知識の典型であるドキュメントとしてのマニュアルが育たない
●マクドナルドにみられるマニュアル文化の浸透
1)即戦力が必要になり、仕事のマニュアル化が必須
2)「マニュアル通りに」が一義的な重要性を持つようになってきつつある
第8 まとめとこれからの展望
●マニュアル問題を広い射程でとらえることで、社会的なインパクトのあるパワーが発揮できる。
●「わかりやすさ工学」の構築をめざすことで、ノウハウの蓄積と普及をはかる。
なぜ、人は、マニュアルがわかりにくいと言うのか
概要*************************************************************** マニュアルがわかりにくいという声は、至る所で耳にする。ときには、「くたばれ、マニュアル」という怨嗟の声さえ聞くこともある。なぜ、こんなことになったのであろうか。コンピュータに、書き手に、表現に、教育に、ユーザ・状況に、そして文化のどこに問題があるのかを考えてみる。
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第1 コンピュータが問題
●コンピュータの次の4つの特性がわかりにくさを構造的に作り出している。
OHP
1)直接性の欠如 操作がただちに仕事の変化とはならない。
操作が正しいのが間違っているがわからない。
2)同型性の欠如 操作することと仕事との間の関係が同型でない。
3)先取り性 ユーザがするであろうことをあらかじめ取り込んで手順 化しておく。何がどのように取り込まれているかがわからない。
4)多機能性 どんな人でも多彩な仕事ができるように、また、仕事のや り方の多様性に対応できるようにしてある。結局、太郎に は、選択可能性がわけがわからない。OHP
●システムの制作過程で操作デザインが軽視されている
1)システム・デザインと操作デザイン(インタフェース・デザイン)と販売にかかわる人のねらいの間の葛藤が未解決のまま出荷されている。(クーパー*による)OHP
プログラマは、「what's capable」
操作デザイナーは,「what's desirable」
企画マンは,「what's viable(現実的)」
2)操作デザインの軽視
3)操作デザインが製作の下流工程に押しやられる
*アラン・クーパー著 1999 「コンピュータは、むずかしすぎて使えない!」 翔泳(しょうえい)社
●システムの製作後の品質検査が十分ではない
1)ユーザビリティ(使い勝手)のチェックが不十分
・ユーザは異義申し立てて者としては有能。しかし、それだけであってそれ以上ではない。
2)ハードの品質と違って、ソフトの品質は、チェック規準が不分明。
・ISO13407でも、チェックした、という記録だけでよい。OHP
第2 書き手が問題
●説明力がない
1)技術の理解力、文や絵による表現力だけでは十分ではない。読み手の状況や知識や読み方に配慮した説明ができる力が必要。OHP
・設計者は、論理志向。ユーザはわかりやすさ志向
・心理学的素養が説明力のベースに必要
知識として
知的共感能力の開発のため OHP
2)よく知っている人が、必ずしもよく説明できるわけではない
・機械・システムの設計者(技術者)は、表現のタレントがないことが多 い。 OHP
・知りすぎていると、正確さが気になり、書くことが多くなりがち。
多く書かれると、読み手にとっては、大事なところが見えなくなり、
わかりにくいとなりがち。
●TWが育っていない
1)設計者とユーザとをつなぐTWが必要
2)TC技能検定が4年度目をむかえ順調。しかし、TWの人材プールの形成にはまだまだ。
・現在、3級合格者が約1000名
・2級も2月頃には始まる
3)育てる制度がない
・大学でのコースも日本では皆無
例 カーネギーメロン大学では
認知科学 レトリック 言語学 人間工学
グラフィックデザインの分野を組み込んだカリキュラムで
教育されている。 OHP
・木下是雄氏の言語技術研究会の試み OHP
第3 表現が問題
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クイズ 次の表現は何を問題にしている表現か?
1.1 「ヒルキモをピラッコしてください」
1.2 「紙の右隅をちぎってください」
1.3 「絵に示す黒い部分を折ってください」
1.4 「レバーを引いて椅子を前に倒してドアを外に押してください」
1.5 「フロッピーをセットしてください」
1.6 「機械を落とすと壊れます」
1.7 「エレガントでコンパクト、プロフェッショナルソリューション」
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●言葉や絵で操作を表現することには、構造的な難しさがある
1)実際の操作には自由度に幅がある
・操作デザインで解決できないところがマニュアルに押しつけられる。
・理屈/意味のない決まりに従わせるのがマニュアル??
2)現実の操作はアナログ的だが、表現はデジタルなため、齟齬がでてくる
・ビジュアル表現を多用しても限界がある
・VTRマニュアルが有効だが、参照性や伝達力に問題がある。
●日本語表現の中に、わかりにくい表現を作り出す原因の一端がある
1)用語に馴染みのないものが安易に使われる。
・機能名称が不適切。OHP
・初心者には、カタカナ用語、漢語が理解のバリアーになる。
例「クリアーする」「起動する」「領域指定をする」といった表現 ができてしまうことが問題
2)日本語文章技法が守られていない。OHP
●わかりやすくする工夫がなされていない。
1)技術の民主化により、ターゲット層が絞りにくくなった。
・誰にもわかりやすくが、誰にもわかりにくく OHP
・山田太郎さんをターゲットとして表現することのリスクが大きい
1)内容の精選と取捨選択が不十分
・ユーザの知識とマニュアルを読む状況への配慮がなされていない
・正確さ志向から過剰な情報提供になりがち
2)表現にわかりやすさの作り込みが不十分
・操作の手順説明のみに限定
・機能の記述ばかりで、仕事の目標達成の記述をしない
例 機能の記述 「ストップ」は-----ときに使う
仕事の記述 テープを止めたいときは、「ストップ」を押す
・解説的要素が少ない
・減り張り表現をしない
第4 義務教育が問題
●情報活用能力の育成が教育目標の一つになっているが、教育界でのインフラ整備が遅れている。
1)学校教育がまだまだ不十分
・情報基礎の単元が、中学「技術科」に用意された。
・情報活用能力の育成が教育目標として登場してきた。OHP
2)インフラ整備がやっと緒についた
●理系、文系の早期分離教育が技術との付き合い方に2極分解を起こさせてしまった。
・ユーザ教育という点でも、技術者教育という点でも問題。
・現実社会は、文系も理系もない。
・ただ、性格特性としての理系的性格-文系的性格はありそう。ただし、
役割性格か、社会化された性格かもしれない。
●国語教育は、「文系」教師が独占
1)作家、詩人養成がねらいのごときカリキュラム
2)説明文教育が手薄
第5 ユーザ・状況が問題
●コンピュータ技術の民主化の速度がはやく、新規参入のユーザが急速に増えてきた。
1)関連知識がない
・操作(手続き的知識)もまったく新しいものが必要
例 タイピング クリック&ペースト
2)複雑化隠しのインタフェース技術である、コンピュータ内部への関心を削いでしまった。
例 ブラックボックス化、グラス・ボックス化 OHP
●わからない自分が悪いと思いがちな日本人心性がマニュアルから遠ざける。
・わからない事態に直面すると
逃避---状況から逃げてしまう
認知志向---頭が悪い
状況志向---状況のほうが悪い
攻撃---状況を攻撃する(クレーム)
●マニュアルを読む状況が悪い
1)機械を早く使いたいのに、あれこれ事前準備を要求される。
2)わからないことだけを知りたいという切迫した状況でマニュアルを読まざるをえない。
3)読み物としておもしろくない。
第7 マニュアル文化が問題
●ドキュメントとしてのマニュアルの背景にはマニュアル文化が必要
1)決まり通りに動くことの大切さの認識
2)したがって、決まりを明示したドキュメントはきちんと読む
●日本の組織は、暗黙知とハイ・コンテキスト(状況規定性が高い)で動くのでマニュアル不要
1)長期間のOJTで学べ
2)明示的な知識の典型であるドキュメントとしてのマニュアルが育たない
●マクドナルドにみられるマニュアル文化の浸透
1)即戦力が必要になり、仕事のマニュアル化が必須
2)「マニュアル通りに」が一義的な重要性を持つようになってきつつある
第8 まとめとこれからの展望
●マニュアル問題を広い射程でとらえることで、社会的なインパクトのあるパワーが発揮できる。
●「わかりやすさ工学」の構築をめざすことで、ノウハウの蓄積と普及をはかる。