飛水峡

思い出

岐阜新聞

2006年03月16日 20時29分58秒 | 新聞
川と人のこころが変わっただけ。鵜はずっと自然のまま



 この時季の長良川は眠ったように静かだ。五月の鵜飼開幕に向けて鵜匠たちは鵜の世話をしながら、かがり火のまきを割り、腰みのや足半を編む。
 長良川鵜飼の鵜匠は六人いる。鵜匠代表の山下純司さん(67)=岐阜市長良=は昨シーズン、秋篠宮ご夫妻への鵜飼説明と愛知万博での鵜飼実演を任された。
 「『鵜飼を楽しみにして来た』と殿下から声を掛けられたとき、宮内庁式部職に誇りを感じた。神武天皇と鵜飼のかかわりを詠んだ歌をご説明すると、熱心にメモを取られていた」
 大型水槽で手縄を付けた鵜が鮎を捕るシーンはEXPOドームの観客を魅了した。「伝統の重さにあらためて身が引き締まった」
 次世代にバトンを渡すために「川を守り、自然の摂理に逆らわないこと」。旧板取村での川浦水力発電所が中止になったことを「自然の流れ」と歓迎する。
 自作の句を差し出した。
 〈鵜のこころ 鵜匠のこころ 今日語らい 明日又語らうこのえにし 鵜と鵜匠の一生なり〉
 「川と人のこころが変わっただけ。鵜はずっと自然のまま。観光から人のこころを育てる鵜飼にしていけたら」とアイデアを練る。
 鵜匠副代表の杉山雅彦さん(45)=同=が鵜匠になったのは大学一年のときだった。父親の急逝で後を継ぎ「しばらくは二足のわらじを履いた」。
 鵜匠の家の長男に生まれた宿命とはいえ、「最年少鵜匠」は話題になった。称賛、やっかみ…。あれから四半世紀。長良川鵜飼のニューリーダーに成長した。
 「シーズン中は恵みに感謝し、オフは鵜も人も体をつくり上げる」とき。夢中になったゴルフを自粛、ローテーションを守る。
 朝かごから二十羽余りの鵜を出して遊ばせる。えさを与え、のどをなでてやる。「皆性格が違うからスキンシップが欠かせない」
 鵜飼も大衆観光から「こだわりの時代」。「歴史的背景を大切にして情報発信しないとお客さんは集まってこない。川端に響く下駄の音を復活したい」
 小瀬鵜飼の鵜匠足立陽一郎さん(31)=関市小瀬=はどうしたら、小瀬鵜飼の魅力が高まるか知恵を絞る。
 「客の待ち時間を利用して鵜匠の素顔をのぞいてもらうとか、鵜が魚を取るシーンを思う存分堪能してもらえる工夫がいる」
 一方で川の変化が気がかりだ。「川底に砂がたまっていく。山が荒れているから」。鵜飼への愛着がひしひし伝わってくる。




--------------------------------------------------------------------------------




(写真)長良川鵜飼を人のこころを耕す文化としてとらえる山下純司さん=岐阜市長良
(写真)鵜とのスキンシップを欠かさない杉山雅彦さん=同

《岐阜新聞3月16日付朝刊一面》

最新の画像もっと見る