飛水峡

思い出

読売新聞

2007年04月26日 20時27分17秒 | なぞ食探検隊
ホタルイカ


 さぁ、新年度。当探検隊も新隊員が加わってパワーアップだ。今回は、元演劇青年で、自称「長野生まれのラテン系」A隊員。ホタルイカの謎を探りに、春の海へと向かった。


身近なのに神秘的
 魚津支局に赴任して、はや4か月。独り身の寂しさを慰めてくれるのは、新鮮な地元の魚をつまみに飲む酒だ。とはいえ、スーパーに並ぶ刺し身をつつく程度。そんな時に、ホタルイカ漁を行う滑川漁協でこんな話を聞き込んだ。

 「ホタルイカを味わうには、取ったその場でアミ焼きするのが一番。一度、食べに来られ」。喜んで!

 集合は、午前3時の滑川漁港(滑川市高塚)。漁船「第三定栄丸」に乗って、約2キロの沖合いに仕掛けられた定置網に向かった。

 わらで編んだ長さ約500メートルの大きな網が海に沈めてある。ホタルイカは、壁のように立ちはだかるその網を伝って水深約600メートルから浮上し、袋状になった別の網に誘い込まれる仕掛けだ。2隻の漁船で挟んで、タモで一網打尽にする。

 船からのぞくと、あめ色の小さな体が網の中で素早く泳ぎ回っている。網をたぐってタモですくい上げると、青白く光る。

 「ほたるいかミュージアム」(滑川市中川原)によると、この発光は、ホタルイカが危険を感じた時に、外敵から身を守るためと考えられている。海の生き物は輝く光に身をひくそうだ。

 漁が終わると、お待ちかねの網焼き。暖を取るために船に乗せた炭火入りのドラム缶の上に、焼き網をのせ、水揚げしたばかりのホタルイカを豪快に散らす。

 身がぷっくりふくらんで、ワタが出る直前でつまみ上げて口に放り込む。焼いた香ばしさに潮の香りと、新鮮なワタのうまみ。生臭さはなく、上品ささえ感じさせる。「ほかでは食べられない味だよ」と、船長の水井秀逸さん(64)が笑った。

 とはいえ、陸の上でも食べ方の研究は進んでいる。同市上小泉の旅館「海老源」では、30年以上ホタルイカ料理のフルコースを出している。塩辛、オーブン焼き、昆布じめなど多彩な料理が並ぶ。

 しかし、「やっぱり、一番人気は、昔ながらの釜あげ」と、調理師の広沢幸嗣さん(32)。取れたばかりのホタルイカを、鍋に投げ込み、ワタに火が通る程度にゆであげる。熱々をほおばると、新鮮な身とワタの甘みがじゅわっと口の中にあふれ出た。

 今年3月1日の漁解禁日に、同市の水揚げはわずか9匹だった。でも、その後、約20トンも取れた日もある。なぜ漁獲量が大きく変動するのかは分からない。何を食べているのかなど生態も謎のままだ。

 身近なのに神秘的、そしてコクがある。ホタルイカを食べながら、そんな男になりたいと、ふと思った。


船上で網焼きにされる取れたてのホタルイカ(3日午前4時半)


隊長 春は「身投げ」
 最近、あっちこっちからホタルイカが富山へやってくる。山陰や近畿から陸送で。中には「水揚げ高日本一」をうたう産地すらある。

 私にとって、この季節のホタルイカと言えば「身投げ」だ。南風が吹く日の午前0時。富山市の八重津浜へ車を飛ばす。波打ち際にライトの光がもういくつも動いている。

 1時ごろ、満ち潮に乗ってホタルイカがやってきた。最初は1匹1匹網ですくっていたが、やがて砂浜にまで打ち上げられるようになる。青白い光がコロコロ波と一緒に転がる。

 バケツ1杯も取れた5時ごろ、小さなたき火で取れたてのホタルイカをあぶって食べる。やがて日の出に浮かぶ富山湾と立山連峰を見つつ背伸びをする。

 ああヤッパリ。ホタルイカは富山だ。



探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳

隊員A…長野県出身。2年前に富山に着任して以来、8キロも太った29歳。




(2007年4月7日 読売新聞)



最新の画像もっと見る