昆布巻かまぼこ
渦巻き状の昆布がかまぼこを包む「昆布巻かまぼこ」は、富山を代表する味の一つだ。メーカーで作る組合は、地域ブランドとして登録しようと取り組んでいる。しかし、特許庁によるGOサインはなかなか出ない。いったい、なぜ?
各社独自の味で勝負
特許庁は昨年4月、地域名と商品名を組み合わせた特産品を「地域団体商標」として登録する制度を設けた。現在まで774件の申請があり、約330件が登録されている。県内では、「入善ジャンボ西瓜」や「黒部米」などが登録済みだ。
県内のかまぼこメーカー46社で作る「県蒲鉾(かまぼこ)水産加工業協同組合」は、昨年9月、地域団体商標に「富山名産昆布巻かまぼこ」を出願した。しかし、いまだ審査中だ。
組合長で「梅かま」(富山市水橋肘崎)社長の奥井健一さん(68)は、「ブランド化のために委員会も作って、一生懸命やっているのだが……」と歯がゆそう。
同組合では、昨年からブランド化戦略を練る委員会を設置。「富山の蒲鉾10か条」案を作り、どんなかまぼこが“富山の顔”にふさわしいか話し合っている。
パッケージには「富山名産」と金文字で表示されている 「10か条」の案には、「品質を守る努力を怠らない」「県内に自社の製造工場を持つ」「信念を持つ経営者が携わる」――など企業のあり方から、「富山の蒲鉾本来の製法・技法・技術を守り、将来もそれを尊重する」など、品質を守る姿勢まで盛り込んだ。商品の基準には、含有する必須アミノ酸の量や売値などの基準も定める方針だ。
同組合事務局は、「一口に昆布巻かまぼこと言っても、いろいろな商品がある。多様性が富山のかまぼこの特徴だが、ブランド化する時には、どこで線を引くかが難しい」と明かす。
入善ジャンボ西瓜のように、組合が中心になって生産・販売しているものと違い、富山のかまぼこは、各社がいろいろな商品を作ってきた歴史があるからだ。
富山のかまぼこは、もともと富山湾でとれた近海魚が原料。水でさらさず、新鮮な魚肉特有の風味が生かされている。北前船の寄港地だったことから、昆布を利用した商品が生まれたと言われている。
昭和40年代にスケトウダラの冷凍すり身が開発され、現在は、輸入すり身を主原料として使うメーカーが多いという。しかし、すり身に別の魚や調味料を加えたり、製法を工夫したりして、各社独自の味を作り上げている。
特許庁は「周辺の県へのPRなど、周知の取り組みについて問い合わせている」と審査が長引いた理由を説明する。「商品名も、昆布巻が漢字だったり、平仮名だったり。名称にばらつきがある点も商標登録をする時にはハードルになるようです」と奥井さん。同組合では、高品質の昆布巻かまぼこに金のシールを張るなど、名称を統一してブランド化し、今年度中の登録を目指すという。
富山の味が「お墨付き」を得るのもいいけれど、味、価格を含め、各メーカーが腕を競い合った多様な選択肢の中から好みのものを見つけられるのも富山かまぼこの楽しみの一つ。その懐の深さを味わうために、今年の冬は、かまぼこの食べ比べをしてみようかな。
◇探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ54歳
隊員O…高岡市出身。体型を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代女性
昆布のうまみが味わい深い「昆布巻かまぼこ」。白いすり身と昆布の色のコントラストも美しい
隊長 こだわりの“素”融合
富山では、すり身を蒸しただけの「やわらか」の味を見ればかまぼこ屋の腕が分かると言われる。「もともと魚屋から始まった我が社では、やわらかは素材の魚の味、塩加減、蒸し加減などいろいろな“素(す)”が現れるのでたいへんです」と、尾崎商会専務の尾崎誠さん(43)はおっしゃる。
さて、おばちゃんが集まると、必ずバッグから出てくるのが、アメなどの菓子ならぬ、分厚い昆布。厚いのが好きだの、薄いのが好きだの、ここで採れたのがいいだの、それぞれにこだわりがある。手で裂きながら、素のままの昆布を味わい、周りに薦める。
「頑固者同士はうまくいかない」とも言われるが、こだわりの“素”を融合させた先人の知恵を、渦巻きの中に探してみたい。
(2007年12月1日 読売新聞)
渦巻き状の昆布がかまぼこを包む「昆布巻かまぼこ」は、富山を代表する味の一つだ。メーカーで作る組合は、地域ブランドとして登録しようと取り組んでいる。しかし、特許庁によるGOサインはなかなか出ない。いったい、なぜ?
各社独自の味で勝負
特許庁は昨年4月、地域名と商品名を組み合わせた特産品を「地域団体商標」として登録する制度を設けた。現在まで774件の申請があり、約330件が登録されている。県内では、「入善ジャンボ西瓜」や「黒部米」などが登録済みだ。
県内のかまぼこメーカー46社で作る「県蒲鉾(かまぼこ)水産加工業協同組合」は、昨年9月、地域団体商標に「富山名産昆布巻かまぼこ」を出願した。しかし、いまだ審査中だ。
組合長で「梅かま」(富山市水橋肘崎)社長の奥井健一さん(68)は、「ブランド化のために委員会も作って、一生懸命やっているのだが……」と歯がゆそう。
同組合では、昨年からブランド化戦略を練る委員会を設置。「富山の蒲鉾10か条」案を作り、どんなかまぼこが“富山の顔”にふさわしいか話し合っている。
パッケージには「富山名産」と金文字で表示されている 「10か条」の案には、「品質を守る努力を怠らない」「県内に自社の製造工場を持つ」「信念を持つ経営者が携わる」――など企業のあり方から、「富山の蒲鉾本来の製法・技法・技術を守り、将来もそれを尊重する」など、品質を守る姿勢まで盛り込んだ。商品の基準には、含有する必須アミノ酸の量や売値などの基準も定める方針だ。
同組合事務局は、「一口に昆布巻かまぼこと言っても、いろいろな商品がある。多様性が富山のかまぼこの特徴だが、ブランド化する時には、どこで線を引くかが難しい」と明かす。
入善ジャンボ西瓜のように、組合が中心になって生産・販売しているものと違い、富山のかまぼこは、各社がいろいろな商品を作ってきた歴史があるからだ。
富山のかまぼこは、もともと富山湾でとれた近海魚が原料。水でさらさず、新鮮な魚肉特有の風味が生かされている。北前船の寄港地だったことから、昆布を利用した商品が生まれたと言われている。
昭和40年代にスケトウダラの冷凍すり身が開発され、現在は、輸入すり身を主原料として使うメーカーが多いという。しかし、すり身に別の魚や調味料を加えたり、製法を工夫したりして、各社独自の味を作り上げている。
特許庁は「周辺の県へのPRなど、周知の取り組みについて問い合わせている」と審査が長引いた理由を説明する。「商品名も、昆布巻が漢字だったり、平仮名だったり。名称にばらつきがある点も商標登録をする時にはハードルになるようです」と奥井さん。同組合では、高品質の昆布巻かまぼこに金のシールを張るなど、名称を統一してブランド化し、今年度中の登録を目指すという。
富山の味が「お墨付き」を得るのもいいけれど、味、価格を含め、各メーカーが腕を競い合った多様な選択肢の中から好みのものを見つけられるのも富山かまぼこの楽しみの一つ。その懐の深さを味わうために、今年の冬は、かまぼこの食べ比べをしてみようかな。
◇探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ54歳
隊員O…高岡市出身。体型を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代女性
昆布のうまみが味わい深い「昆布巻かまぼこ」。白いすり身と昆布の色のコントラストも美しい
隊長 こだわりの“素”融合
富山では、すり身を蒸しただけの「やわらか」の味を見ればかまぼこ屋の腕が分かると言われる。「もともと魚屋から始まった我が社では、やわらかは素材の魚の味、塩加減、蒸し加減などいろいろな“素(す)”が現れるのでたいへんです」と、尾崎商会専務の尾崎誠さん(43)はおっしゃる。
さて、おばちゃんが集まると、必ずバッグから出てくるのが、アメなどの菓子ならぬ、分厚い昆布。厚いのが好きだの、薄いのが好きだの、ここで採れたのがいいだの、それぞれにこだわりがある。手で裂きながら、素のままの昆布を味わい、周りに薦める。
「頑固者同士はうまくいかない」とも言われるが、こだわりの“素”を融合させた先人の知恵を、渦巻きの中に探してみたい。
(2007年12月1日 読売新聞)