飛水峡

思い出

岐阜新聞

1998年06月14日 19時17分40秒 | 岐阜の水と緑
古環境
海面上昇、意外に急激

 四十六億年前、地球と同時に生まれた隕(いん)石は、当時の出来事を記憶する唯一の物質。原始太陽系のなぞを秘めている。恵那郡岩村町弁天神社にある、一八〇五年、岩村藩領の静岡に落下した火の玉(「岩村町史」)も隕石だろうか。美濃隕石(一九〇九年)、羽島隕石(一〇年ごろ)、坂内隕鉄(一三年)、笠松隕石(三八年)は確実で、「岐阜は日本一の隕石県」と、岐阜市科学館学芸員の小森龍二さんはいう。
 南極も隕石の宝庫。日本に四十個、世界に二千五百個しかなかった隕石が南極で大量に発見され、一万七千個も増えた。地球や海の生誕記は、この隕石の研究に負うところが大きい。


□    □
 県保健環境研究所主任専門研究員奥平文雄さん(54)は、名古屋大学大気水圏科学研究所で雪氷物理を研究し、第十三次(七一-七三年)越冬隊と第二十六次夏隊(八四-八六年)の二度、南極観測隊に参加。初回はみずほ基地で氷面下百十メートル、二回目はドームふじ観測拠点で同二百メートルの氷床コア採取に携わった。

 コアは、いわば過去の空気の“化石”。産業革命以来、二酸化炭素が五〇%も増えたことや、高度成長期の大気汚染のピーク、江戸時代の天明-天保の大ききんや明治の大冷害をもたらした寒冷期も見つかった。 一昨年、日本は氷期-間氷期サイクルを三回含む三十五万年の年代を持つ二千五百三メートルのコア採取に成功した。奥平さんらが礎を築いた氷床ボーリング技術の成果で、地球規模の気候変動のメカニズムの解明に大きな期待がかかっている。


□    □
 「寒冷化は除々に進み、温暖化は急激に進む」と、東京都立大学助教授の福沢仁之さん(環境考古学)。福井県・水月湖や鳥取県・東郷池の湖底たい積物の年縞(一年単位で識別出来るしま模様のたい積物)の解析から得られた最新の知見だ。

 福沢さんは、国際日本文化研究センターの安田喜憲教授、北川浩之博士らと、湖沼たい積物による古環境の高精度復元に挑んでいる。

 「南極やグリーンランドの氷床は地球規模の大気変動が検出できるが、海域、特に海面変動などは不明。これに比べて汽水湖沼の年縞は、人間活動の場に近い中緯度の沿岸部で環境変動を長期間記録してきた天然時計、天然寒暖計です」

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、百年後に気温が二度上がり、海面は五十センチ上昇すると予測しているが、福沢さんの研究では、今から一万六千年前、海面は五年で二十-三十メートルも上昇した。五千九百年前、四千三百年前にも同様に急激な海面上昇が起きている。また、海流の流量変動によるモンスーンの変動も、日本列島の気候変動に影響を与えていた。

 「南極の氷が少しとけて流動を始めることで棚氷の流出が止まらなくなり、海面が一気に上昇することもありうる。人間が、気候や環境のモードを変えるような影響を与えていないかという判断が最も大切だ」



地球温暖化で世界の注目が集まる南極の流氷(右)。
手前の豆粒のようにみえるのはペンギン=ルメル海峡(野村哲也さん撮影)


《岐阜新聞6月14日付朝刊一面掲載》

最新の画像もっと見る