飛水峡

思い出

岐阜新聞

2004年02月23日 09時18分27秒 | 岐阜の水と緑
谷汲村、唱歌の風景復活へ 「春の小川」もう一度



 唱歌「春の小川」は東京の繁華街・渋谷を流れていた川を題材に作られたという。「春の小川はさらさらいくよ えびやめだかやこぶなの群れに」と歌われる風景は都心ではとうの昔に姿を消した。全国の田園地帯でも田んぼこそあれ、「春の小川」は、コンクリートで張り付けられた無機質な用排水路に変わった。そして今、揖斐郡谷汲村では唱歌に歌われた風景を取り戻す試みが始まっている。
 管瀬川は田んぼの中の湿地を源流にする根尾川の支流。周囲はほ場整備が進み、用排水路も整然と並び、管瀬川につなげられている。その一角で東海農政局が三年前に、水田を利用したビオトープを整えた。学校のプールほどの広さの田んぼにポンプでくみ上げた水を入れ、水路や川から魚などが遡上(そじょう)できる魚道を付けた。
 近くの谷汲小の児童たちが自然学習の一環で生物調査を継続している。このビオトープの中ではこれまでにギンブナやカワムツ、オイカワをはじめ、タモロコやモツゴ、タイリクバラタナゴ、メダカ、スジシマドジョウなどの多種類の魚が確認されている。村に住む県野生生物保護推進員の国枝久夫さんは「泥水の中に二枚貝のイシガイなどが四百個以上見つかった。どうやら魚に付いた卵が一緒に魚道を上がり、田んぼで貝が採れるという面白い現象を生んでいる」と話す。
 「これも田んぼと水路と川が、魚や水生生物にとって無理なくつながっていればこそ。日本全国どこでも、みんな遮断されてしまっとるわ」。国枝さんは周囲にある水路を対象に、川との接合部分にある段差をなくすよう村や県に提案している。行政も提案を受け入れる方向で、斜路や木工沈床などの整備が検討されている。
 管瀬川は村内しか流域がない小さな川だが、魚や貝の種類は驚くほど多彩だ。ただ、現在はほんの一部を除けば、両護岸にコンクリートを打ちつけた河川改修が完了。田んぼに使えない源流の湿地が結果的に自然のまま残されているだけとなっている。また、ビオトープの周囲で水田を営む人たちからは「農薬が使いにくい」という声も出ているという。田んぼのビオトープづくりや水路の見直しは確かに全国でも先進的な取り組み。それだけに住民の一部に戸惑いがあるのは当然だが、一方で、農業に自然との共生の姿勢が戻るかどうかの試みの場でもある。
 歴史ある谷汲山観光で知られる村はいま、広域合併の枠組みの在り方を模索している。堀口賢一村長は「合併で村の形は消えるだろうが、観光資源や豊かな自然は住民にとって掛け替えのない財産」と話す。それに加え、魚に優しく、自然と共生する農業の先進地という財産も築けるかもしれない。
 (野村克之)



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(写真)「コンクリート三面張りがすべて悪いわけじゃないが、これはやり過ぎ」。
県野生生物保護推進員の国枝久夫さんは希少魚類を追いやった水路に立つ=揖斐郡谷汲村大洞
《岐阜新聞2月23日付朝刊一面》

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