鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

虫の名前:一般名詞と固有名詞(GLASS3-26)

2008-04-21 00:53:51 | Weblog
  アリスが「虫はこわいわ。特に大きい虫は!」とブヨに向かって言い、「でもいくつかの虫の名前はあなたに言えるわ」と付け加える。するとブヨがのんきそうに応じる。「もちろん虫たちは自分たちの名前に対して返事をするんだ!」と。アリスはこれを聞いて驚いて言う。「虫たちが返事をするなんて聞いたことがないわ!」と。ここではキャロルによって名前という言葉の意味の二重性が意識的に混同される。名前は一方で一般名詞だが、他方で固有名詞でもある。アリスは一般名詞として虫の名前を考えている。しかしブヨは固有名詞として虫の名前を考える。例えばアリスがもしたくさんいる芋虫に対して一般名詞で「芋虫!」と呼んでも誰も答えない。しかし芋虫それぞれに固有名詞としての名前、TARO,JIRO,SABUROなどがあり、芋虫TAROに対して固有名詞で「TARO!」と呼べば芋虫TAROは返事をする。
 だからブヨは反論する。「虫たちがその名前(※固有名詞)を呼ばれて返事をしないとしたら彼らが名前(※固有名詞)を持っていたとしてそれが何の役に立つのか?」と。これは固有名詞としての名前についての言明であるかぎり正当である。
 この言明にアリスが反論する。①虫たちに名前(※一般名詞)があるけれどもその名前は虫たちのそれぞれを区別する名前(※固有名詞)のようには「虫たちにとって役に立つことはないわ!」②「でも名前(※一般名詞)があることは名づけた人間にとっては便利だわ。便利でなかったら物 things に何で名前(※一般名詞)がついているの?」と。するとブヨは「知らないね!」と冷淡に答える。そして「向こうの森では物 things に名前(※一般名詞・固有名詞ともに)がないんだ」と言う。(物に名前がない森の話は後出。)便利だから人間によって物 things に名前(※一般名詞)がつけられたとのアリスの発言はもちろん正しい。名前(※一般名詞)がなかったらおそらく人間は自分の経験を語ることさえできなかった。最初に言葉(ロゴス)、つまり名前(※一般名詞)があったのである。

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