鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

アリスは、日常的現実から、「鏡の国の現実」へと跳躍 leap する(GLASS9-2)

2012-03-24 23:51:41 | Weblog
 「のらくらしていてはいけない」、「女王の威厳を持たねばならない」と思ったアリスは、立ち上がり歩いてみる。しかし女王冠を落とすのではないかと、歩き方がぎごちない。
 アリスは自分に言う。「もし私が本当に女王だったら、じきに上手に歩けるようになるわ」と。

 PS1:アリスの予感は次の通り。①自分は、「ごっこ遊び」の女王から、鏡の国の「現実」の女王へ、変身する。つまり②自分は、「日常的現実」に属すことをやめ、「鏡の国の現実」に属するようになる。

 PS2:ここで気をつけよう。この変身は不連続である。日常的現実での「ごっこ遊び」の女王は、少女アリスであって、現実の女王「でない」。しかし「鏡の国の現実」では、アリスは、現実の女王「である」。

 PS3:アリスという同一の形象が、日常的現実では少女として出現し、「鏡の国の現実」では女王として出現する。二つの現実は不連続である。アリスは,日常的現実から、「鏡の国の現実」へと跳躍 leap する。

 ※旧稿(2008-01-05)
かぶった女王冠を落とす心配1:虚栄心(GLASS9-2)
 アリスは女王冠を初めてかぶって心配する。歩いたとき冠を落としてしまうのではないかとぎごちなかった。そして女王なのに冠をうまくかぶれないことに恥じる。でもこの無様な様子を誰も見ていないとアリスは安心する。彼女は少し虚栄心がある普通の女の子である。

 ※旧稿(2008-01-05)
かぶった女王冠を落とす心配2:たくましい女の子(GLASS9-2-2)
 歩いたとき女王冠を落としてしまうのではないかと心配し恥じたアリスだが、すぐに自分に「もし私が本当に女王であるなら、きっとそのうち冠を落としそうになったりせず上手にかぶっていられるようになるわ!」と言い聞かせる。アリスには常識があり、それを出来事に適用して解決の方法を見出す。彼女はたくましい女の子である。そして気が強い。


アリスは揺れている:現実の女王なのか「ごっこ遊び」の女王なのか(GLASS9-1)

2012-03-20 22:04:07 | Weblog
 小川を跳び越え新しいチェスの目の世界に移って、アリスは頭の上に女王の金の王冠があることを発見。「まあ、本当にすごいわ!」とアリス。
 さらに「こんなにすぐに女王になれるなんて信じられない」と彼女は驚く。

 PS1:アリスは普通の女の子である。だから自分が突然、女王になった時、まず最初に「こんなにすぐに女王になれるなんて信じられない」と驚く。アリスには常識がある。確かにアリスは女王になりたいと思っていた。でも、それはいつか先のことである。ところが、それが一瞬にして、それも1日の内に実現した。常識家のアリスが驚くのは当然である。
 (「GLASS9-1」は、「Lewis Carroll,THROUGH THE LOOKING GLASS, 9 QUEEN ALICE に関するコメント1」の意味である。以下の項目でも、同様。)

 PS2:アリスは、しかしすぐに、女王としての演技をする。彼女は、日頃から「ごっこ遊び」が好き。

 アリスが厳しい口調で言う。「よろしいですか、陛下。」「芝生の上で、こんなふうにのらくらしていては、いけません。女王は威厳を持たねばなりません。」と。

 PS3:ここは日常的現実ではない。アリスは「鏡の国」の現実においては、「ごっこ遊び」でなく本当に女王となる。
 アリスは一体、どこにいるのか?アリスは揺れている。①日常的現実に属するアリスは「ごっこ遊び」をして女王を演技する。②「鏡の国」の現実に属するアリスは、現実内で女王である。
 アリスは、すでに現実の女王なのに、それを受けいれず、「ごっこ遊び」の女王を演じる。

 ※旧稿(2008-01-05)
常識家アリス:突然に女王となり驚く(GLASS9-1)
 アリスは普通の女の子である。だから自分が突然、女王になった時、まず最初に「こんなにすぐに女王になれるなんて信じられない」と驚く。アリスには常識がある。確かにアリスは女王になりたいと思っていた。でも、それはいつか先のことである。ところが、それが一瞬にして、それも1日の内に実現した。常識家のアリスが驚くのは当然である。

1ヤードごとの杭は、チェス盤上の斜めの交点を、象徴する(GLASS2-27)

2012-03-20 20:18:35 | Weblog
 4ヤードの杭の所で赤の女王が一瞬、アリスを振り向き、「さらばじゃ」と言った。そして5ヤードの杭に急いで行ってしまった。
 その最後の杭の所で、女王がいなくなる。空中に消えたのか、森にすばやく駆け込んだのか、アリスには分からない。ともかく女王がいなくなった。
 一人になったアリスは、自分がチェスの歩兵だと思い出す。「そろそろ進むときだ」と思う。

 PS:女王がなぜ、地面を測量し1ヤードごとに杭を打ち込んだのか、今や、正確にわかる。
 先の説明(GLASS2-26)で、「後手1、赤」の時、「赤の女王がe2からh5に進み、アリスのもとから消え去る」とあった。
 付言すれば、女王はチェスの始め、d1に置かれる。そこから斜めにh5まで進むわけだ。
 1ヤードごとの杭は、女王の駒が進むチェス盤上の斜めの交点の各々を、象徴する。
 「2ヤードの杭の所で、女王がアリスが行く道筋について教える」が、それは、赤の女王(e2)がアリス(d2)の隣にいるから。
 3ヤード、4ヤード、5ヤードの杭の所での赤の女王の行動は、赤の女王がf3、g4、h5と進むことに、象徴的に対応している。

アリスは日常的現実の常識(ドクサ)から離れることがない(GLASS2-26)

2012-03-11 08:38:57 | Weblog
 3ヤードの杭の所で赤の女王が振り向き、アリスに言う。「あるものについて、英語が思いつかないときは、フランス語で言いなさい。歩くときは、つま先を外へ向けなさい。そして自分が誰であるか、忘れないようにしなさい!」

 PS1:赤の女王の奇妙な忠告。①「あるものについて、英語が思いつかないときは、フランス語で言いなさい」とはどういうことか。ルールさえ決めれば、ある事態に、いかなる名前をつけることも可能。記号と、それが指示する事態との関係の恣意性が、述べられている。
 ただし図像の場合は異なる。図像は、それが指示する事態と類似性が必要である。(絵文字など。)

 PS2:忠告②「歩くときは、つま先を外へ向けなさい turn out your toes 」とは、「内股で turn your toes in 歩くな」ということ。自信を持ち胸を張って歩きなさいとの指示。

 PS3:忠告③「自分が誰であるか、忘れないようにしなさい」との赤の女王の忠告は、アリスによって既に実践されているし、今後も堅持される。アリスは「鏡の国」の現実に常に批判的である。彼女はこれまで住んでいた日常的現実の常識(ドクサ)から離れることがない。
 言い換えれば、この意味で、忠告②にアリスは常に従う。日常的現実こそ正しい現実であると、彼女は心の底から思っている。彼女は「鏡の国」の異常・面妖・怪異な現実を、恐れることがない。自信を持ち胸を張って歩く。