鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

連想的推論と論理的推論(GLASS1-1)

2011-01-31 23:34:35 | Weblog

 ひとつのことが確かだった。白い子猫が何の関係もないこと。というのは白い子猫は親猫にこの四半時、顔をなめられ身づくろいされていたから。白い子猫はいたずらに加われなかった。
 しかし黒い子猫は先に身づくろいが済んでいて、今や毛糸の玉で思い切り遊ぶ。毛糸の玉はほどけ、こんがらがった。
 「何て悪い子!」とアリスが子猫をしかり、毛糸の玉を巻き始める。黒い子猫が一時彼女の膝におとなしく座る。ところが子猫が再びいたずらし玉が床に転がり毛糸が何メートルもほどける。

                   
 「私はとっても怒ってた。お前が悪さばかりしてたから!」とアリスが黒い子猫に言う。そして続ける。「毛糸の玉をこんがらがせたのを入れて、お前がした悪さは3つよ。お前の罰はみんな来週の水曜日のためにとっておくわ!」と。
 ところが突然アリスは「私の罰がみんなとっておかれたらどうしよう!」と気づく。

 PS:アリスの思考回路の特徴のひとつがここで明らかとなる。アリスは論理的推論もするが、連想的推論もする。今、アリスにおいて「お前の罰 all your punishments 」から「私の罰 all my punishments 」へと連想的に思考が進行した。
 彼女は心配する。彼女は多数の悪さをしていたから。

 「1年の終わりに私はどうなるのかしら?その日が来たら牢屋に入れられるかもしれない!」とアリス。

                 

(「GLASS1-1」は、「Lewis Carroll, THROUGH THE LOOKING GLASS, 1 Looking-glass House に関するコメント1」の意味である。以下の項目でも、同様。)


王冠の下にアリスの身体が無から出現した(GLASS8-41)

2011-01-21 23:48:37 | Weblog
 最後の小川を跳び越えたアリスは芝生の上に着地。「やっとここに着いたわ。うれしい。でも頭の上にあるのは何かしら?」と彼女が驚いて言う。彼女の頭にぴったりはまった何か重いものに彼女は手を遣る。

 「それにしても私が気づかないうちに、どのようにしてその物は私の頭の上に来たのかしら?」と彼女がつぶやく。彼女はそれを持ち上げ膝の上に置き一体何か確かめる。
 なんとそれは金の王冠!

 PS:鏡の国はチェスの盤面のような風景を持つ。チェスの目の境界が小川である。小川を越えるたびに鏡の国は全く異なる場面となる。その国は言わば多くの劇場からなる多元世界。アリスはどの劇場でも出演者である。
 彼女の役は小川を越えるたびに突然変わる。
 彼女の役の変容過程はアナログ的連続性を示さない。それはデジタル的断絶性を示す。小川を跳び越えたときアリスは異世界に跳躍する。ただしアリスの同一性は保持される。
 「金の王冠はどこから来たのか?」とアリスが問う。しかし事情は逆である。
 金の王冠が先にあった。その異世界の王冠の下に突然アリスの身体が無から出現したのだ。アリスはいわば新しいチェスの目の世界にワープした。そこには王冠があってその真下にアリスがその王冠をかぶるように現れた。
    

騎士は落馬するのが普通:鏡の国の現実における合理性?(GLASS8-40)

2011-01-16 21:19:36 | Weblog
 アリスと白の騎士が別れの握手をする。そして騎士は去り森へ向かう。
 アリスが見ていると相変わらず彼は馬から何度も真っ逆さまに落ち、また簡単に馬上にもどる。アリスが「馬の周りにいろいろな荷物をたくさんぶら下げているから彼はすぐに落馬するんだわ」とつぶやく。

 PS:アリスが思うに、荷物がたくさん馬にぶら下がっていると、馬に乗りにくくなるから騎士は落ちやすいのである。アリスは日常的現実における合理性にもとづき推理。しかし鏡の国の現実では、騎士は落馬するのが普通と考えるのが合理的なのかもしれない。

 さて騎士はやがて道の曲がり角に達する。アリスがハンカチを振り、彼の姿が見えなくなるまで見送る。「これで彼が元気になったらうれしいわ」と彼女が自分に言う。

 見送り終わってアリスは急いで丘を下る。「最後の小川だわ。これを跳び越えたら女王になれるわ!」と彼女は心弾む。そして小川を跳び越える・・・・

鏡の国の騎士は情緒の構造が風変わり(GLASS8-39)

2011-01-08 18:39:27 | Weblog
 白の騎士は、歌‘門の上に座ってる’の最後の語まで終わるとアリスに言った。「次の小川を越えればお前は女王になれる。でもお前がまずとどまって私を見送ってくれるとよいのだが!」と。
 
 PS1:誇り高いはずの騎士がこのように言うとは鏡の国は風変わり。彼は小さな女の子アリスと別れるのがさびしいのだ。まるで子どもよう。
 
 さらに騎士が続けて言う。「時間は長くかからない。お前が少し待ってくれて道の曲がり角に私が来たらハンカチ振ってくれればよい。私は元気づけられる。」アリスが「もちろんハンカチを振ります!」と答える。
 
 PS2:アリスはいつも通り礼儀正しい。しかしこれに続く彼女の外交辞令が白の騎士の反論を引き起こす。

 「こんなに遠くまで送ってくださり、歌も歌っていただきありがとうございます。歌をとても気に入りました!」とアリスが言う。「そうならいいのだが」と白の騎士が疑う。理由:「私が期待したようにはお前が泣かなかった。」
 
 PS3:だがこれまで見てきた歌‘門の上に座ってる’を聞き、果たして泣く者がいるだろうか。鏡の国の騎士は情緒の構造が風変わり。