鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

アリスのディナー・パーテイーをめぐる何重もの不思議:現実と仮定、意味と事実(GLASS9-11)

2012-09-17 10:58:52 | Weblog
 赤の女王が突然、白の女王に言う。「今日の午後、アリスのディナー・パーティーにあなたを招待する」と。

 コメント1:不思議な発言である。赤の女王は、アリスのディナー・パーティーの主催者ではない。赤の女王がなぜ、自分に招待する権限があると思うのか、不思議。赤の女王は、いつも自分勝手である。

 白の女王が微笑みながら、おずおずと言う。「では、私はあなたを招待します」と。

 コメント2:これは二重に不思議である。①白の女王が、招待する権限を持たないのは、赤の女王と同じ。それなのに招待できると思うのが不思議。さらに②白の女王が、なぜ赤の女王を招待する必要を感じたのかも、不思議である。白の女王の推論の道筋を、考えよう。まず彼女は、招待する権限の問題は、棚上げする。するとアリスのディナー・パーティーへの出席の資格だけが、問題となる。出席者は、「招待」されなければならない。自分は、赤の女王によって「招待」された。ところが赤の女王は、まだ「招待」されていない。かくて白の女王が「では、私はあなたを招待します」と言う。なお彼女が、おずおずと言うのは、自分の推論に自信がないためでなく、彼女の性格ゆえである。

 「私がパーティーを開くなんて全然、知らなかったわ」とアリスが言う。

 コメント3:ここで示されるのは、コメント1、2のような読者が感じる不思議さでなく、アリスが感じる不思議さ。彼女は素直に驚いた。

 「でも、もし私のパーテイーが開かれるというのなら、私はお客様を招待しなければいけないわ」とアリス。

 コメント4:これも不思議な発言。アリスのディナー・パーティーは、現実に開かれるのか?アリスは、現実にパーティーが開かれるのかどうか、半信半疑である。とは言え、全く仮定の出来事と思ってもいない。仮定の発言だが、半分、現実が入り込んでいる。不思議な仮定。

 赤の女王が言う。「我々は、お前にお客を招待する機会を与えよう」と。

 コメント5:この赤の女王の発言も、不思議である。「ある人(主催者)がディナー・パーティーを開く」ことは、「主催者が客を招待する」ことを、意味として当然、含む。赤の女王が、介入する余地はない。つまり、赤の女王は、事実をアリスに生起させる許可を与えるが、彼女は、意味と事実を混同している。「ある人がコーヒーを飲む」ことは、「コーヒー豆がある」ことを意味的に含む。このことと、「コーヒー豆がある」という事実を生起させることは、別のことである。

 ※旧稿
パーティーに招待するのは誰か(GLASS9-11)
 赤の女王が白の女王に言う。「アリスのディナー・パーティーにあなたを招待する」と。気弱な白の女王がまねをして言う。「私もあなたを招待する」と。アリスがあわてて「私がパーティーを開くことになっていたなんて知らなかった」と抗議。しかしアリスも雰囲気に負けて「もし私のパーティーがあるというのなら私もお客さんを招待しなくちゃ」と付け足す。赤の女王が「招待したければしてもよいぞ」と許可する。主導権はいつも赤の女王にある。アリスは弱気である。