鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

「王のすべての馬、王のすべての兵隊」には馬2頭と兵隊2人が不足!(GLASS7-2)

2009-07-29 22:59:43 | Weblog

 森が終わって開けた土地に白の王様が座ってメモ帳に記録しているのをアリスが発見する。白の王様が「兵隊たちを全部送ったぞ!」と嬉しそうに叫ぶ。そして「森で兵隊たちと会っただろう?」とアリスにたずねる。「会いました。何千人もいたと思います」と彼女が答える。

 PS1:このやり取りはマザーグースのハンプティ・ダンプティについての歌に対応する。歌によれば、ハンプティ・ダンプティが塀から落ちたとき、王のすべての馬、王のすべての兵隊が彼の救助のために送られる。(GLASS6-4参照)さて今、白の王様が兵隊を送った目的は不明だがともかく彼は「兵隊たちを全部送った」のである。  
               
 白の王様がメモ帳を見て「4207人が正確な人数だ」と言う。さらに付け加える。「実はすべての馬を送れなかった。2頭がゲームに必要だったから。それに伝令の兵隊2人も送れなかった。町に行かせたから。」と。

 PS2:王様はマザーグースの歌の「王のすべての馬、王のすべての兵隊」 All the KIng's horses and all the king's men という言葉にこだわる。王の権威を守るため王の言葉は真実でなければならないから。

イラスト: 王さまの兵隊みんな


鏡の国の兵隊は日常の国では役立たない(GLASS7-1)

2009-07-29 17:05:01 | Weblog
 すさまじい音が森じゅうに響き渡る。アリスはものすごい数の兵隊が行進してくるのを見る。ところが彼らは足元がふらついていて次々と倒れ地面は兵隊の小さな山でいっぱいになる。続いて騎兵たちが行進してくる。今度は馬がよろめき、躓いてばかりいる。そのたびに規則のように兵隊が馬から落ちる。混乱は一刻一刻増すばかりである。

 PS:不思議な兵隊たちである。鏡の国の兵隊は日常の国では役立たない。

 (「GLASS7-1」は、「Lewis Carroll, THROUGH THE LOOKING GLASS, 7 The Lion and the Unicorn に関するコメント1」の意味である。以下の項目でも、同様。)


ハンプティ・ダンプティは記号の意味の支配者したがって世界・宇宙の支配者である(GLASS6-37)

2009-07-26 00:48:28 | Weblog
 「お前の二つの目がまとめて鼻の一方の側にあるとか、お前の口が上側にあるとか」すべきだとハンプティ・ダンプティが言うとアリスが批評する。「そんなのみっともないわ!」と。

 PS1:アリスは不思議な女の子である。化け物のようなあり得ない顔について何の違和感も持たずただ「みっともない」と言うだけ。

 アリスのこの発言に対しハンプティ・ダンプティは「お前の顔は他のものたちと全く同じ」なのに区別がつくと言うのなら「まあ、やってみることさ」と目を閉じて言う。彼がまた何か言うかとアリスは待つが彼は目も開けないし彼女に注意を向けさえしない。アリスは「これまで会ったすべての好ましく思えない人のなかで(一番ひどい!)」と思う。

 PS2:ハンプティ・ダンプティは記号の意味の支配者である。記号に対しすべての意味は彼が与える。記号は世界・宇宙をおおいつくす。だから記号をとおして彼は世界・宇宙の支配者である。彼がちっぽけなアリスに注意を向けさえしないのも当然である。

人間の顔であるための条件:目が二つ、鼻が真ん中、口が下側(GLASS6-36)

2009-07-12 22:09:26 | Weblog
 ハンプティ・ダンプティに「さようなら」と言われてアリスも「さようなら、また会いましょう!」と応じた。ところが彼はおかしなことを言う。「お前にたとえまた会ってもそれがお前だとわかるはずがない。」
 
 PS1:このハンプティ・ダンプティの発言の意味は何か?不思議である。

 「お前の顔は他のものたちと全く同じだ!」とハンプティ・ダンプティ。「目は二つだし、鼻が真ん中にあり、口は下側。いつでも同じだ。」

 PS2:ハンプティ・ダンプティの主張の後半は正しい。実際、どの顔も「目は二つだし、鼻が真ん中にあり、口は下側。」この点は「いつでも同じ」である。しかしこのこと故に「お前の顔は他のものたちと全く同じだ」とする彼の前半の主張は誤りである。目が二つ、鼻が真ん中、口が下側は(人間の)顔であるための条件であり、顔を相互に区別する条件ではない。ところが彼はこの二つを混同する。アリスの顔が人間の顔だという点では「他のものたちと全く同じ」であるが、実際には人間の顔が相互に区別されるからこの限りでは顔が相互に「他のものたちと全く同じ」というのは誤りである。

 「お前の二つの目がまとめて鼻の一方の側にあるとか、お前の口が上側にあるとかすれば、お前を他のものから区別できる」とハンプティ・ダンプティが言う。

 PS3:「二つの目がまとめて鼻の一方の側にあるとか、お前の口が上側にあるとか」したらこれは人間の顔ではない。アリスが人間の顔でない顔を持つのなら確かに他の人間たちから区別できる。ところがアリスは人間の顔を持つからハンプティ・ダンプティの観点から説明不能である。彼は人間の顔がどうして相互に区別できるかについて何も知らない。