鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

「決して忘れない」事態が生じる原因:「怖さ」(王様)・「メモを取ること」(女王様)(GLASS1-16)

2011-05-29 23:58:31 | Weblog
 白の王様が言う。「その時の怖さを、私は決して、決して忘れないだろう!」と。

 PS1:王様が言うには「怖さ」の程度は「決して忘れない」ほどである。とても怖かったのである。

 「いいえ、その時の怖さを、あなたは忘れるわ」と女王が言う。

 PS2:女王は「怖さ」の程度が「忘れる」ほどで、たいして怖くなかったはずだと言っているのだろうか?そうではない。

 続いて女王が言う。「その時の怖さについて、メモをあなたが取らないなら、それをあなたは忘れるわ」と。

 PS3:「怖さ」の程度について王様は「決して忘れない」ほどとても大きいと言う。女王様は「メモを取らないなら忘れる」程度でたいして怖くなかったと言っているのだろうか?そうではない。
 
 PS4:女王様は、「怖さ」の程度がとても大きいことを「決して忘れない」と王様が表現するとき、「怖さ」が原因で「決して忘れない」が結果という因果関係が前提されていることに、気づかない。女王様は「メモを取ること」が原因で「決して忘れない」が結果になるという別の因果関係を前提する。

 PS5:ある出来事を「決して忘れない」という事態が生じる原因は、王様にとっては「怖さ」だが、女王様にとっては「メモを取ること」である。

意味的には真だが、事実的には偽(=ありえない):「頬髯の先まで冷たくなる」問題(GLASS1-15)

2011-05-22 09:26:30 | Weblog
 気絶から息を吹き返した白の王様が怯えて言う。「あまりに怖かったので頬髯の先まで冷たくなってしまうほどだった!」と。

 PS1:「怒髪天を衝く」に似た状況か?ここでは怒りでなく恐怖。「頬髯の先まで冷たくなる」ほどの恐怖だった。ところが事情は複雑・・・・

 白の女王様が応じる。「あなたには頬髯なんて全然ないじゃないですか!」と。

 PS2:髪がなかったら髪が天を衝くことができない。頬髯がなかったら頬髯の先まで冷たくなることはありえない。

 PS3:王様は本当に怖かったのだろうか?①本当に怖かった場合。怖いから、頬髯の先まで冷たくなるはず。現に王様の表現通り、怖かった。ところが頬髯がない。では、どうして自分にはない頬髯の先まで冷たくなると言えたのだろうか?②王様は本当は怖くなかった。なぜなら頬髯がないので頬髯の先まで冷たくなること、つまり怖くなることができないから。

 PS4:「怖い」=「頬髯の先まで冷たくなる」の等式が意味的に成立している。事実的には「頬髯」が存在しない。王様の言明は意味的に真である。(これが上記①のケース。)ところが王様には「頬髯」がないので事実的にはありえない、つまり偽である。(これが上記②のケース。)

 PS5:「晴れている=太陽が空に出ている」:これは意味的に真である。ところが事実的には今日は曇っていて「太陽」が存在しない。太陽がないから、「晴れている=太陽が空に出ている」の等式はありえない、つまり偽である。意味的に真であることと、その意味が事実的にありえない、つまり偽であることは区別する必要がある。

水とインクの共通点・相違点 (GLASS1-14)

2011-05-15 20:42:49 | Weblog
 アリスによってつままれ運ばれた王様はあまりに驚き、仰向けに倒れじっと動かない。アリスはあわて、彼にかける水を求め部屋中を探し回る。だが見つかったのはインクだけ。彼女はインクを持ち、王様にかけようともどる。そのとき王様はすでに息を吹き返していた。
 
 PS:水をかけるかわりに、インクをかけて息を吹き返させるのは、妥当か?両者の共通点:液体で冷たい。相違点:水は透明だがインクはものを青く染める。アリスは共通点だけ考えていた。相違点はいわば副作用でアリスは重大と判断しなかった。

鏡の国でアリスは魔術的な力そのものとして存在する(GLASS1-13)

2011-05-03 11:34:48 | Weblog
 鏡の国でアリスは驚く。チェスの駒が二人ずつ並んで歩く。小さなチェスの駒をアリスが四つんばいになって眺める。赤の王と女王、白の王と女王がいる。城壁の駒が二人、腕を組み歩く。アリスが何か言っても、また彼女が駒に顔を近づけても彼らは何の反応もしない。「彼らには私の言うことが聞こえないみたい。」「彼らには私が見えないみたい。」とアリスが言う。

 PS1:鏡の国に入り込んだアリスがチェスの駒たちと会う。彼らは生きている。鏡の国は小さなチェスの駒が生きている点で日常の現実と異なる。

 PS2:鏡の国の生きたチェスの駒からアリスが見えないし、彼女の声も聞こえない。彼女は無なのか?無ではない。チェスの駒を持ち上げたり、白の王様についた灰を払ってあげたりできる。アリスは見えない・聞こえない力そのものとして存在する。魔術的な力そのものである。


 アリスは白の女王をつまみ上げてテーブルの上に置く。女王が「噴火口が私を吹き上げました」と言う。女王が暖炉の火の側の炉格子の側面を登るのアリスが見て大変だと同情し助けた。
 次にアリスは白の王様をつまんでテーブルの上に運ぶ。途中、暖炉の灰にまみれた王様から、彼女が灰を払い落としてあげる。その時、王様はあまりに驚いて叫ぶこともできない。目と口ばかりがどんどん大きく開きどんどん丸くなるばかりだった。

 PS3:鏡の国の住人、チェスの駒たちの側からすると魔術的な力への反応が二つある。①現実の因果関係を適用して魔術を否定し説明する。Ex. 噴火口と説明した白の女王。②ただただ魔術の力を認め驚き畏怖する。Ex. 白の王様。

 なお白の王様と女王様の娘は「私のいとしいリリー姫!私のやんごとなきおてんば姫!My precious Lily! My imperial kitten! 」と女王様によって呼ばれる。王様は腹立たしいことがあったため「やんごとなきもあるものか! Imperial fiddlestick! 」と言う。