PS1:不思議な議論である。王様は “nobody”を実体化するから、使者ヘイアが「誰も追い越さなかった (I passed) nobody. 」と答えたとき、王様は「使者はいない人“nobody”を追い越した」と理解する。(GLASS7-3参照)だから王様は「いない人“nobody”はお前より遅く歩くのだ」と発言したのである。
ところが “nobody”を実体化しないなら、そしてこれが普通だが、王様は「誰もお前より遅く歩かない(=お前が一番遅く歩く)」と言っている。そもそも使者は「誰も追い越さなかった Nobody 」のだから、「自分より前を歩く者は誰もいなかった」=「自分(使者)が一番速く歩く」と言いたかったはずである。ところが王様は「お前が一番遅く歩く」と言った。かくて使者ヘイアが怒る。
「全力を尽くしました。誰も私よりずっと速く歩くことはないと確信します! Nobody walks much faster than I do. 」と彼はムッとして言う。
PS2:王様のように “nobody”を実体化すれば「使者が一番遅く歩く」が、“nobody”を常識的に「誰も・・・・ない」と解釈すれば「使者が一番速く歩く」のである。
王様が決然と再び言う。「いない人“nobody”はお前より速く歩くことはない(=お前より速く歩かない者はいない=お前が一番遅く歩く) He can't do that. 」と。「もしいない人“nobody”がお前より速く歩いたら、いない人“nobody”がお前より先にここに着くはずだ」と。
PS3:これは王様にとってありえないことである。なぜなら先に着いたのは使者ヘイアであって「いない人“nobody”」ではないからである。
しかし“nobody”を常識的に「誰も・・・・ない」と解釈する者からすれば、「誰もお前より速く歩かない」=「誰もお前より先にここに着かない」との意味になる。これは現実そのものである(つまり使者ヘイアが先に着く)。しかし王様にとってはありえないことである。 “nobody”という語を実体化して解釈すると現実が逆転する。現実がありえない出来事となる。