鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

アリスと赤の女王は違うことを考えているが、赤の女王は同一のことを考えていると思う(GLASS9-10)

2012-08-11 10:27:37 | Weblog
 白の女王が、アリスに関して言う。「この子は、何かを否定したいが、何を否定するのかわからないだけなのだ」と。

 コメント1:白の女王は心優しいので、アリスの気持ちを思いやった。それにしても、アリスは何を否定したのか?複雑なので、まとめよう。アリスは3つのことを否定した。
 ①「私はただ『もし』と言っただけです!」とアリス。(赤の女王が「アリスが自分のことを「女王である」と勝手に言った」と非難したことに対する否定。)(GLASS9-7)
 ②「私はそういう意味で言ったのでは、ありません。 」とアリス。(「『もし』以上のことをアリスは言った」と赤の女王が論難したことへの否定。)(GLASS9-8)
 ③「私は打ち消すのに、手なんか使いません!」とアリス。(「子ども(という語)は意味を持つ!」ということについて、赤の女王が「たとえ両手で試みたとしても、お前(アリス)はそれを打ち消せない。 」と言ったことに対する否定。)(GLASS9-9) 

 「いやな、意地悪い性質!」A nasty, vicious temper! と赤の女王が言う。こうして気まずい沈黙が訪れる。

 コメント2:赤の女王の発言は辛らつだが、どうして、こうなるのか?アリスと赤の女王は、実は違うことを考えているのに、赤の女王は、お互いが同一のことを考えていると思う。アリスは赤の女王の発言を否定していない。アリスは赤の女王が考えて「いない」ことについて見解を述べるだけ。ところが赤の女王は、アリスは赤の女王が考えて「いる」ことについて見解を述べ、したがって、アリスが赤の女王の発言を否定すると思う。ここにも、行き違いがある。

※旧稿(2008-01-10)
何かを打ち消したいが何を打ち消すのかわからない(GLASS9-10)
 白の女王がアリスの気持ちを解釈する。「アリスは何かを打ち消したいが何を打ち消すのかわからないのだ」と。これはよくあること。しかし赤の女王の発言は辛らつ。「いやな、意地悪い性質!」A nasty, vicious temper! こうして気まずい沈黙が訪れるがこれは当然だろう。

客観的な現実世界に対する二つの主観的態度:直説法と仮定法(GLASS9-9) 

2012-08-02 07:08:39 | Weblog
 赤の女王が、「たとえ両手で試みたとしても、お前はそれを打ち消せない。 You couldn't deny that, even if you tried both hands. 」と言う。
 
 コメント1:ここで「打ち消せない」と赤の女王が主張する内容(=「それ」)は、「冗談(という語)さえ意味を持つ。子どもは冗談より重要である。『私(つまり子ども)という語は意味を持たない』というアリスの見解は間違いで、子ども(という語)は意味を持つ!」ということである。
 
 コメント2:すでに見たように、「私はそういう意味で言ったのでは、ありません。 I didn't mean― 」とのアリスの発言を、赤の女王は「私(つまり子ども)という語は意味を持つのが当然である I (= a child) should have meant. 」のに、アリスが「子ども(という語)は意味を持たない! I didn't mean! 」と言ったと解釈する。

アリスが「私は打ち消すのに、手なんか使いません! I don't deny things with my hands. 」と否認。 

 コメント3:アリスはここで、直説法で答える。先の赤の女王の発言は仮定法である。事態の構造はどうなっているのか?一方で、客観的な現実世界がある。他方で、これに対する主観的な態度(法 MOOD )がある。アリスは客観的な現実世界に対し、あるがままに事実として取り扱う態度をとる(直説法)。他方で、赤の女王は客観的な現実世界に対し、非事実的なアプローチから取り扱うという態度をとる(仮定法)。ここで客観的な現実世界とは、アリスの「 I didn't mean. 」の発言をめぐる赤の女王とアリスのやり取りの全体である。

 「誰もお前が打ち消すなどとは言わなかった Nobody said that you did. 」と赤の女王。さらに彼女が言う。「試みたとしてもお前は打ち消せないと言っただけだ。I said you couldn't if you tried. 」と。

 コメント4:確かに赤の女王は非事実的なアプローチ(仮定法)で、客観的な現実世界、つまりアリスの「 I didn't mean. 」の発言をめぐる赤の女王とアリスのやり取りの全体に迫る。アリスは客観的な現実世界に対し、あるがままに事実として取り扱う態度をとる(直説法)。赤の女王は、仮定法の態度をとる( you couldn't deny )ので、アリスの直説法の態度( I don't deny )が気に入らない。ここで議論になっているのは、いわば、言葉遊びのレベルである。

 コメント5:アリスの発言についての補足。アリスは、直説法の態度をとるともに、彼女の主観的関心は「打ち消すのに手を使うかどうか」に向けられている。赤の女王は、「手を使うかどうか」に関し、何の主観的関心も示さない。

 コメント6:アリスは「打ち消す」のか、「打ち消せない」(or「打ち消さない」)のか?①アリスの「 I didn't mean. 」の発言に対し、これを赤の女王的に「私つまり子ども(という語)は意味を持たない! I didn't mean! 」と解釈すれば、アリスは「打ち消す」。アリス的に「私はそういう意味で言ったのでは、ありません。 I didn't mean― 」と解釈すれば、アリスは「子ども(という語)は意味を持つ」ことを当然にも「打ち消さない」し、「打ち消せない」はず。さらに②アリスに固有の主観的関心からすれば、彼女は、「手」を使っては「打ち消さない」。

 コメント7:仮定法について補足。仮定法は非事実について語るが、話者が向かっているのは、仮定の世界でなく、客観的な現実世界である。「たとえ両手で試みたとしても、お前はそれを打ち消せない。」という赤の女王の仮定法の言明は、客観的な現実世界でアリスが、「打ち消すことを試みていない」事実についての、非事実的な仕方での言及である。赤の女王の仮定法の言明は、客観的な現実世界に向かっている。赤の女王は、主観的な態度(法 MOOD )として仮定法を採用し、かくて非事実を語る(「試みたとしても・・・・」)という仕方で、客観的な現実世界に対峙する。

※旧稿(2008-01-09)
「打ち消した」のか「打ち消せない」ままなのか(GLASS9-9)
 子供が冗談より大切だということに関し「たとえ両手で試みたとしてもお前はそれを打ち消せない。」と赤の女王が言う。するとアリスが「打ち消したりしてない!」と否認。赤の女王が「誰もお前が打ち消したなどと言っていない。」、「試みたとしてもお前は打ち消せないと言っただけだ。」と反論する。ここにも言葉遊びがある。アリスは「打ち消した」のか、「打ち消せない」ままなのか。