鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

異なる現実に異なる言葉を充てず、日常的現実の言葉を、そのまま使う(WONDERLAND1‐6)

2013-06-29 12:41:52 | Weblog
 アリスは、兎の穴を、ゆっくり落ちていきながら、穴の側面の戸棚から、ビンを取る。それにはオレンジ・ママレードとラベルが貼ってあった。

 ◎「不思議の国」が不思議な理由(6):①兎の穴の側面の戸棚に、なぜオレンジ・ママレードのビンがあるのか?また、②アリスは、なぜ多くの物の中からオレンジ・ママレードのビンを選んで取ったのか?
 ①については、日常の現実においても、戸棚にオレンジ・ママレードはあるだろうから、「戸棚」との関係では、オレンジ・ママレードの存在は不思議でない。しかし「兎の穴」との関係では、オレンジ・ママレードがそこにあるのは、不思議である。
 「不思議の国」が不思議な理由は、ここでは、「兎の穴」に、オレンジ・ママレードがあることである。つまり不思議な理由(5)で述べたように、同一の言葉(「兎の穴」)が、日常的現実の場合と同一の内容を指し示さないことにある。
 これは言い換えれば、異なる現実には本来、異なる言葉を充てなければならないのに、「日常的現実」の言葉を、そのまま「不思議の国」の異なる内容の出来事に対して使うことから、「不思議の国」が不思議となる。
 なお、②については、アリスがオレンジ・ママレードのビンを選んで取ったのは、彼女がそれを好きだからで、特に不思議ことはない。

同一の言葉(「兎の穴」)が、同一の内容を指し示さない(WONDERLAND1‐5)

2013-06-25 23:02:42 | Weblog
 アリスは、井戸のような兎の穴を、ゆっくり落ちていく。彼女は、次に何が起こるだろうか考える。彼女は、最初、下を見て、落ちていく先に何があるか知ろうとした。しかし真っ暗で何もみえない。そこで次に、彼女は兎の穴の側面を見る。

 ◎コメント3:アリスは、井戸のような兎の穴を、「ゆっくり」落ちているから、その井戸の側面がどのような状態か見分けることができる。

 アリスは、気づく。井戸の側面は、戸だなと本棚で全部、埋まっている。あちこちに地図や絵が、画鋲でとめられている。

 ◎「不思議の国」が不思議な理由(5):井戸のような兎の穴の側面が、戸だなと本棚で全部、埋まっていて、不思議である。しかも画鋲でとめられた地図や絵がたくさんあるのも不思議。日常の現実では、兎の穴の側面は、ただむき出しの土があるだけである。では、何が不思議なのか?不思議の国では、日常的現実と異なり、「兎の穴」の側面が、戸棚・本棚・絵・地図で埋まっていることがありうるのである。言い換えれば、「兎の穴」という同じ言葉が指し示す内容が、日常的現実と「不思議の国」で大きくずれる。つまり、この場合、「不思議の国」が不思議なのは、同一の言葉(「兎の穴」)が、日常的現実の場合と同一の内容を指し示さないからである。

垂直な穴を「ゆっくり」落ちる!(WONDERLAND1‐4)

2013-06-16 17:06:34 | Weblog
 兎の穴は、途中までトンネルのようにまっすぐだが、やがて傾きが急になり、突然井戸のようにストーンと落ちる。井戸があまりに深いせいか、あるいは、アリスが非常にゆっくり落ちているせいか、落ちていきながら、彼女には、時間がたくさんあった。

 ◎コメント1:落ちていきながら、時間がたくさんある、つまり長い時間落ち続けるとは、井戸があまりに深いか、あるいは、ゆっくり落ちているからだというのは、正しい推論。 続く話の展開が、事態を決定する。
 
 時間がたくさんあったので、アリスは周りをゆっくり見回した。

 ◎コメント2:「井戸が深い」ため長く落ち続ける場合は、スピードがどんどん速くなり、周りを見回す余裕などない。とすればアリスが長い時間落ち続ける理由は、彼女が「ゆっくり」落ちているからである。

 ◎「不思議の国」が不思議な理由(4):井戸のように垂直な穴を、アリスは、「ゆっくり」落ちる。日常の現実では、垂直な穴を「ゆっくり」落ちることはない。この点で「不思議の国」は、不思議である。

アリスの好奇心が、「不思議の国」の物語の展開を可能にする(WONDERLAND1‐3)

2013-06-09 22:23:15 | Weblog
 次の瞬間、アリスは、兎に続いて穴に飛び込む。彼女は、一体全体どのようにして再び外に出るかなど、全く考えていなかった。
 
 ◎「不思議の国」が不思議な理由(3): アリスの好奇心こそが、「不思議の国」の不思議さの展開を支える。彼女は常識の徒だが、時に、アリスの行動は、安全をめざす常識でなく、危険をいとわない好奇心によって支配される。アリスにおける好奇心の強さが、「不思議の国」で彼女が恐怖・委縮しない原動力となる。「不思議の国」で不思議さの経験が持続するのは、アリスの好奇心のゆえである。彼女の好奇心が、「不思議の国」の物語の展開を可能にした。