鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

“泣くこと”と“泣かないこと”を同時にすることは論理的にありえない(GLASS5-13)

2008-09-27 20:42:25 | Weblog
 「この森ではでも私は1人ぼっちです!」とアリスは言い涙を流す。白の女王は「そんな風に泣いたりしないでおくれ」と絶望して手を握り締め叫ぶ。
 PS1:白の女王はとっても気がいい人である!

 この後、しかし女王は不思議なことを言う。「自分がどんなに偉い女の子か考えなさい。自分がどんなに長い距離今日歩いたか考えなさい。今何時か考えなさい。何でもいいから何か考えて、とにかく泣くのはやめなさい!」
 PS2:白の女王はとにかくアリスに泣き止んでほしいのである。普通であれば彼女はアリスを慰めるだろう。あなたは1人ぼっちじゃない、私が友達になるわ等と。ところが女王はアリスを慰めもせず「何でもいいから何か考えなさい」というだけである。奇妙である。

 かくて泣いていたアリスが笑い出してしまう。そしてたずねる「女王様は何か考えると泣かずにすむんですか?」と。これに対して白の女王がきっぱり答える。「誰であれ一度に二つのことをすることはできない!」と。
 PS3:つまり“泣くこと”と“泣かないこと”を同時にすることは論理的にありえないと白の女王は言っている。かくて“泣くこと”をやめるためには何か“泣かないこと”をすればよい。“考えること”は“泣かないこと”のひとつだから「何でもいいから何か考える」ならば“泣くこと”をやめることができるのである。



嬉しいと思える出来事が起きれば嬉しいと思う:出来事と情念の連関の規則(GLASS5-12)

2008-09-27 11:31:50 | Weblog
やがてアリスはあたりが明るくなったのに気づく。「あの怪物のカラスは飛んで行っちゃったんだわ」と思う。そして「カラスがいなくなってとても嬉しいわ。もう夜になるのかと思ってたから」と彼女が言う。これを聞いて白の女王が感想を述べる。「私もなんとかして嬉しいと思うことができたらなあ!」と。
PS1:この白の女王の発言の意味はなんだろうか。彼女は嬉しいという体験をしたい。しかし彼女は嬉しいと思うことができないのである。では一般にどうしたら嬉しい気持ちになれるのか。嬉しいと思える出来事が起きれば嬉しいと思うはずである。ところが白の女王は奇妙な発言をする。

「そういう規則(※嬉しいと思うことができるようになれる規則)を思い出すことができない!」と白の女王が嘆く。
PS2:ここでいう規則とは何か?ある出来事がある一定の情念を引き起こすという規則である。嬉しいと思うためには、原因として嬉しいと思える出来事が起こり結果として嬉しさの情念が生じるという連関の規則を知っていなければ、つまり身についていなければならないと白の女王は思う。ところが彼女はその規則を身につけていないのである。出来事と情念の連関の規則が彼女にはない。白の女王にとっては出来事と情念が連関しないでバラバラに存在するのである。一方で出来事は出来事で勝手に起こり、他方で情念は情念でこちらはきっかけとなる出来事との連関なしに勝手に生じるのである。

かくて白の女王が言う。「お前はこの森に住んで、(※嬉しいと思える出来事が起きれば)いつでも好きなときに、(※出来事と情念の連関の規則を知っているから、つまりその規則が身についているから)嬉しいと思えるのだから、お前はとても幸福にちがいない!」と。

PS3:アリスの心の動きはこうである。まず情念がある「夜は暗いので嫌い」→次に一連の出来事が起こる:「もう夜になるのかと思った→ところが暗さの原因はカラスであるとわかった→そのカラスがいなくなった→もう暗くならない」→アリスは出来事と情念の連関の規則を知っているから、つまりその規則が身についているから→嫌いという情念を引き起こさない出来事が生じてアリスのうちに嬉しいという情念が発生する。


鏡像の世界である「鏡の国」では未来・現在・過去の順に出来事が起こる(GLASS5-11)

2008-09-21 23:05:25 | Weblog
  白の女王が突然叫びだす。「指から血が出てる。痛い、痛い、痛いー」と。アリスが「針を指にさしたのですか?」とたずねる。「まだ刺していない。しかし直に刺すだろう」と白の女王。これから針を指に刺すから今、血が出てるなんてありえないとアリスは笑ってしまう。
 「いつ針を刺すと思うんですか?」と彼女がたずねる。「ショールがほどけてもう一度留めようとするときだ!」と女王が言う。するとショールを留めていたブローチがはずれショールがほどける。ブローチをつかんで留めようとしたとき女王は針を指にさす。だが女王は痛いと叫ばない。「なぜ今、痛いと叫ばないんですか?」とアリスが質問する。「叫ぶことはもうすっかり済んでしまったから」と女王が答える。
 すでにGLASS5-9で見たように現実の世界では、針を指に刺す→血が出て痛い→叫ぶの順、つまり過去・現在・未来の順に出来事が起こる。しかし鏡像の世界である「鏡の国」では未来・現在・過去の順に、つまり叫ぶ→血が出て痛い→針を指に刺すの順に出来事が起こるのである。


犯罪ありの刑罰よりも、「犯罪なし」の刑罰のほうがプラスは大きい(GLASS5-10)

2008-09-15 22:12:18 | Weblog
「犯罪なし」と犯罪ありを比較するなら「犯罪なし」こそ“ますます結構”である。しかし「犯罪なし」の刑罰は誤りであるとアリスは思う。だから彼女が言う。「(「犯罪なし」なのに)その人が刑罰を受けるのは“ますます結構” all the better とは言えません」と。
ところがこれに対し白の女王は異なる主張をする。女王は悪いことをマイナス、良いことをプラスとして計算する。「刑罰を受ければ人は良くなる!」つまり良いこと(=プラス)が増えると白の女王が言う。犯罪あり(=マイナス)で刑罰を受ける(=プラスが増える)よりも、犯罪なし(=マイナスがない)で刑罰を受けたほうがプラスは大きい。「罰を受けるようなことを先にしていないほうが“ますます結構”ではないか!」と白の女王が叫ぶ。「犯罪なし」の刑罰はアリスにとっては誤りだが、女王にとっては良いこと(=プラス)が増えるので“ますます結構”なのである。
「どこかに誤解があるわ」とアリスが思う。

アリス:「犯罪なし」の刑罰は誤り、白の女王:「犯罪なし」は犯罪ありより良い(GLASS5-9)

2008-09-15 21:36:07 | Weblog

現実の世界では出来事は過去・現在・未来の順に起こる。鏡像の世界である「鏡の国」では未来・現在・過去の順に出来事が起こる(ことがある)。例えば現実の世界では出来事は犯罪→裁判→刑罰の順に起こる。ところが鏡の国では先に未来の刑罰が執行され、続いて刑罰を決めた裁判、そして裁判をもたらした犯罪が起こる(ことがありうる):刑罰→裁判→犯罪の順。未来の刑罰が先になされて「その後でもし犯罪がなされなかったら?」とアリスが疑義を呈する。「犯罪がなされないならますます結構」と白の女王が言う。 PS: 刑罰の根拠は犯罪である。アリスは「犯罪なし」の刑罰に根拠があるのかと問うて、「犯罪なし」の刑罰は誤りだと主張する。これに対して白の女王は「犯罪なし」と犯罪ありを比較して、「犯罪なし」こそ結構だと述べる。 この白の女王の発言についてはアリスもそれはその通りだと思う。「犯罪なし」と犯罪ありを比較し「犯罪なし」こそ結構だとすることに反論はできない。「無論ますます結構でしょうね」とアリスが言う。

イラスト: 再来週の伝令は牢屋の中


これから起こることを思い出すor時間が過去に向かって進むor後戻りしながら生きる(GLASS5-8)

2008-09-14 00:33:24 | Weblog
エヴリ・アザー・デイの説明についてアリスが「とっても頭がこんがらがってしまいます!」と困ると白の女王が親切に言う。「それは後戻りしながら(=過去に向かって)生きている living backwards ことの影響である」と。さらに「そのせいで誰でも最初、目が回る」と付け加える。
PS1: 現実の世界では時間が未来に向かって進むのに対し、鏡の国では時間が逆に流れる(ことがある)。時間の向きは出来事の順序でわかるはずである。現実の世界の出来事の順序が“時間が未来に向かって進む”と呼ばれる順序である。これと逆の順序であれば“時間が過去に向かって進む”のである。

「後戻りしながら生きるなんて聞いたことありません!」とアリスが大変驚く。白の女王が応じて言う。「しかしそれにはとても便利な点がある。記憶が過去と未来の両方向に働くのだ」と。これについてアリスが批評する。「私の記憶は一方向、過去の方向にだけ働きます」、また「まだ起こらないものを思い出すことはできません」と。
PS2: 現実の世界では記憶が過去の方向にのみ働く。つまり起こったことだけを思い出す。起こったことの次に起きていることがあり、さらにこれから起こることが続く。これが現実の世界の出来事の順序である。“時間が未来に向かって進む”のだ。
PS3: 鏡の国では記憶が未来の方向にも働く。だからこれから起こることを思い出すことができる。鏡の国の出来事の順序は(ある場合には)次の通りである。最初にこれから起こることがあり、次に今起きていることがあり、その次に起こったことが続く。これが“時間が過去に向かって進む”ことの意味であり鏡の国ではこうしたことが起きる。

白の女王が鏡の国に特徴的な“時間が過去に向かって進む”(= 「後戻りしながら生きる」)ことの具体的な例をアリスに教える。「鏡の国では未来を思い出すことができるので、今、まず牢屋で罰を受けている、次に来週の水曜日以後裁判が始まる、そして最後に罪を犯す」と。


エヴリ・アザー・デイ :「今日でない別の日毎に」or「2日目ごとに」(GLASS5-7)

2008-09-06 22:09:31 | Weblog
アリスは白の女王の髪の中に絡まったブラシを取り出し女王のボサボサの髪をきれいに直してあげる。そして「女王様は侍女を雇うべきです!」と言う。「お前を喜んで侍女に雇おう!」と女王が答え「給金は1日2ペンス、そしてエヴリ・アザー・デイ(※1日おき)に every other day ジャム」と条件を付け加える。アリスは笑ってしまい「私は侍女になるつもりはありません。それにジャムは好きではないんです」と言う。「とっても良いジャムだ」と白の女王。「でもとにかく今日はジャムはいりません」とアリス。
PS1:アリスはなぜ笑ったのだろう?ジャムを食べさせるから侍女になりなさいという白の女王の提案がおかしかったのだろう。

さて「今日はジャムはいりません」とのアリスの発言に対して白の女王がコメントする。「お前がジャムを仮に今日ほしいと言っても実はお前はジャムを食べられはしない」と。そしてその理由を言う。「給金のルールはジャム明日 jam tomorrow 、ジャム昨日 jam yesterday である。決してジャム今日 jam today ではない。」
PS2:白の女王の給金のルールによればジャムはエヴリ・アザー・デイ every other day である。今日は別の日other dayでなくその当日だから、別の日は昨日か明日である。ジャムは別の日other day に出るから、食べることができるのは昨日か明日であって、今日は食べることができない。白の女王のエヴリ・アザー・デイとは「今日でない別の日毎に」の意味である。

アリスが白の女王に反論する。「時を置いてくりかえし sometimes ジャム今日jam today になるはずです」と。
PS3:アリスはエヴリ・アザー・デイを“ every second day ”の意味に理解している。今日が1日目でジャムを食べられなくても2日目はジャムを食べることができる。続いて新たな1日目・2日目となりこの新たな2日目には再びジャムを食べられる。以下これが続く。アリスにとってエヴリ・アザー・デイとは「2日目ごとに」=「1日おきに」の意味である。だからジャム今日 jam today が時を置いて繰り返し2日目ごとにやってくるのである。

だが白の女王はアリスの見解を取らない。そして言う。「ジャム今日 jam today になるなんてありえない。あるのはジャム毎別の日 jam every other day である。今日は(当日であって)別の日 other day ではない」と。
PS4: まとめればエヴリ・アザー・デイ every other day は白の女王にとっては「今日でない別の日毎に」の意味であるが常識家のアリスにとっては当然にも「2日目ごとに」=「1日おきに」の意味である。