鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

ジャバウォク物語③:激渦の vorpal=vortical+principal(GLASS1-20)

2011-06-25 10:28:18 | Weblog
 詩の第3聯は次の通り。
 
 息子は激渦の剣を携帯; He took his vorpal sword in hand;
 長年、彼は異界の敵を探索― Long time the manxome foe he sought―
 かくて彼はタムタムの木の傍らで休憩 So rested he by the Tumtum tree,
 そして暫時たたずみ思索。 And stood awhile on thought.

 PS1:英詩の“sought”と“thought”、和訳は「探索」と「思索」が脚韻を踏む。

 PS2:vorpal は造語。鞄語である。verbal(口頭の)+gospel(福音)という説がある。キャロル自身は「vorpalな剣が何かなんて説明できない」と言う。しかしvortical(渦の)+principal(首位の)と考えてもよい。「激渦の」と訳してみた。

 PS3:manxomeはmanx(マン島の、マン島民)らしいの意味の造語。マン島はグレートブリテン島とアイルランドの間にある。独自の言語、マン島ゲール語を使用。ケルトの伝統を持つ。manxomeは「異界の」と訳した。

 PS4:Tumtumは木をくりぬいたバルバドス島のドラム。音の形容に由来する語と思われる。

ジャバウォク物語②:怒り詰め frumious=furious+fume (GLASS1-19)

2011-06-18 21:54:52 | Weblog
 詩の第2聯は次の通り。
 
 「ジャバウォクに油断するな、わが長男!“Beware the Jabbawock, my son!
 かみつく顎、ひっつかむ爪! The jaws that bite, the claws that catch!
 ジャブジャブ鳥に油断するな、そして避難 Beware the Jubjub bird, and shun
 バンダースナッチが怒り詰め!」 The frumious Bandersnatch!”

 PS1:英詩の“son”と“shun”、和訳は「長男」と「避難」が脚韻を踏む。
    英詩の“catch”と“Bandersnatch”、和訳は「爪」と「詰め」が脚韻を踏む。

 PS2:frumious(怒り詰め)は鞄語で、怒った furious と立ちのぼる fume の合成。バンダースナッチは7章にも出てくる怪獣。

ジャバウォク物語 Jabbawocky(GLASS1-18)

2011-06-12 21:13:49 | Weblog
 テーブルの上に本があることにアリスが気づく。彼女には読めない。「変な言葉で書いてある」と彼女がつぶやく。しばらくして彼女はわかる。「鏡の本 a Looking-glass book だわ!鏡に映せば言葉は普通になる。」と。

 PS1:鏡の国は鏡文字が使われる。なお日常世界と比べ、鏡文字は左右は逆だが上下は逆ではない。(この問題については第1章を見よ。)
 
 それは詩だった。アリスが読む。
 題は『ジャバウォク物語 Jabbawocky 』である。第1聯は次の通り。

     Jabbawocky
  Twas brillig, and the slithy toves
 Did gire and gimble in the wabe:
 All mimsy were the borogoves
  And the mome raths outgrabe.

 PS2:この第1聯は鞄語 portomanteau word が多く使われていて意味が分かりにくい。詳しくは、ハンプティ・ダンプティが第6章で説明する。ここでは鞄語をそのままにして訳す。

    ジャバウォク物語 Jabbawocky
 時間は brillig だった、そして slithy なトーヴたち
 the wabe のなかで gire し gimble する:
 全く mimthy なのは the borogoves たち
 そして the mome raths が outgrabe する。

 PS3:この第1聯の意味はまだわからなくてよい。アリス自身、「理解するのがとっても難しい」とすぐ後で言っている。第6章のハンプティ・ダンプティの説明を待つ。
 ここで結論としての訳を先取りして紹介しよう。

 あぶり時の午後4時だった、そしてねばやかなトーヴたち
 時計の周りの芝生の土地でジャイロスコープ的に回り、きり的に穴あけする:
 全く悲惨貧弱なのはボロゴウヴ鳥たち
 そして家から離れ道に迷った緑の豚が吼えさえずりくしゃみする。

 英詩の“toves”と“borogoves”、和訳は「トーヴたち」と「ボロゴウヴ鳥たち」が脚韻を踏む。
 英詩の“wabe”と“outgrabe”、和訳は「穴あけする」と「くしゃみする」が脚韻を踏む。



巨大なものが入る小さなポケット・自動筆記する鉛筆・バランスが悪い白の騎士(GLASS1-17)

2011-06-05 14:51:17 | Weblog
 白の王様がポケットから巨大な手帳を取り出し書き始める。アリスは王様には姿が見えないので、肩先に出た鉛筆の端を持ち、王様に代わって書き始めた。

 PS1:これはアリスの単なるいたずら。一方で小さなチェスの王様、他方で巨大な手帳と巨大な鉛筆。それを見て、アリスにいたずら心が起きた。

 PS2:しかし奇妙なことが二つある。①手帳はアリスが字を書けるほどだからかなり巨大なはず。王様はチェスの駒の大きさ。小さな王様の服にこのように巨大な手帳が入るポケットがあるはずがない。また②巨大な鉛筆はどこにあったのか?ポケットの中だったら、①と同様でそれほど大きなポケットはありえない。巨大なものが入る小さなポケットが鏡の国にある。

 王様は困ってしまう。暫く無言で鉛筆と格闘する。しかしアリスの方が力が強い。ついに王様が女王に向かって言う。「もっと細い鉛筆が手にはいらないと困る。これは少し扱いにくい。この鉛筆は私が書こうとしないようなことばかり書く。」

 PS3:鉛筆が自動筆記する。王様はしかし自動筆記する鉛筆を不思議と思ってはいない。ただ困っているだけである。鏡の国には自動筆記する鉛筆が不思議でなく普通にある。

 PS4:おそらく鉛筆はすべて自動筆記する。鉛筆が細いと力が弱く、鉛筆の自動筆記の力を抑えて、王様は鉛筆を自分の意図どおりに動かし書くことができる。太い鉛筆は自動筆記力が強い。

 「どのようにですか?」と女王が言い手帳を調べる。「これは、あなたの感情についてのメモではないわ」と女王が言う。

 PS5:女王は先に「その時の怖さについて、あなたがメモを取る」必要があると主張した。怖さの感情を王様はメモすべきである。ところが手帳に書かれたのは王様の感情ではない。

 アリスが手帳に書いたメモは次の通り。「白の騎士が火掻き棒をまたいで滑り降りる。彼のバランスはひどく悪い。」

 PS6:なぜアリスは王様の手帳にこんなことを書いたのか?アリスは動き回るチェスの駒を観察し、この光景を見て記録しておきたいと思ったのかもしれない。事実、第8章では、馬に乗るのがひどく下手で何度も落馬する白の騎士が登場する。彼は火掻き棒をまたいで、ひどくバランス悪く滑り降りるこの白の騎士だったのだろう。