鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

“非お誕生日プレゼント”:論理的には存在するが日常的には存在しない (GLASS6-17)

2009-02-19 00:38:06 | Weblog
「このネクタイは白の王様と女王様がくださったものだ。ほら、見なさい!」とハンプティ・ダンプティが言う。「本当ですか?」とアリスが応える。さらに彼が続ける。「彼らはネクタイを非誕生日プレゼントとしてくださったのだ。」アリスはキョトンとして「もう一度言ってくれますか?」と言う。
 PS1:アリスがキョトンとするのも当然である。非誕生日プレゼントなど誰だって聞くのは初めてだろうから。

 アリスは非誕生日プレゼントとはどういう意味か知りたかった。ハンプティ・ダンプティが「それは誕生日でない日にもらうプレゼントだ」と説明する。アリスは意味がわかったが、少し考えて「私はお誕生日プレゼントが一番好きだわ!」と言う。
 PS2:お誕生日プレゼント birthday presents があれば、非お誕生日プレゼント un-birthday presents があっても論理的にはおかしくない。ただ日常的には人々が“非お誕生日プレゼント”と呼ぶようなものはない。アリスは日常の世界に生きるから彼女が知っているのは“お誕生日プレゼント”と呼ばれるものである。そしてそれは人々が名づけるさまざまなものの中でアリスにとっては一番好きなものである。

ネクタイとベルトを区別できない愚かさor卵型の体形に言及することの失礼(GLASS6-16)

2009-02-12 00:03:58 | Weblog
年齢の話はもう充分だわ、そして替わりばんこに話題を選べるなら今度は自分の番だわとアリスが思う。彼女は突然、ハンプティ・ダンプティに向かって言う。「なんて素敵なベルトをあなたはしてるんでしょう!」と。しかし彼女はあらためて良く考え言い直す。「せめて素敵なネクタイって言うべきだったわ・・・・いえ、その、ベルトと思って・・・・ごめんなさい!」と。彼女が狼狽して付け加えたのは彼がひどく腹をたてていると見えたからである。アリスは「どこが首でどこがウエストかがわかれば、良かったのに!」と独り言を言う。

 PS1:ハンプティ・ダンプティは卵の形である。だから自分の体形に言及されて彼は怒ったのだとアリスは思った。

 実際、ハンプティ・ダンプティはひどく怒っていて、最初黙っていたが2、3分してついに、うなりながら言う。「最高に腹が立つ、人がネクタイとベルトの区別もつかないとは!」と。

 PS2:ここには議論のずれがある。アリスが問題にしているのはハンプティ・ダンプティの卵型の体形である。ところが当の彼が問題にしているのはネクタイとベルトを区別できないという子どもの愚かさである。ネクタイとベルトは誰が見ても全く別物である。なぜ区別がアリスにできないのか彼には全く理解できず彼女のあまりの愚かさに怒ったのである。ところがアリスは卵型の体形のことを指摘されて彼が怒ったのだと思った。かくて彼女が言う。

 「私はとっても無知でした!」と。彼女がとてもかしこまって言ったので彼は機嫌を直す。そして「それはネクタイだ、子どもよ。お前が言うとおり素敵なものだ!」と彼が言う。

 PS3:最後まで議論はかみ合わない。アリスは卵型の体形のことをいって失礼だったと謝った。ところがハンプティ・ダンプティは彼女がネクタイとベルトの区別もつかない自分の愚かさを謝ったと思った。だがアリスが謝ったことに変わりはないので、彼は怒るのをやめたのである。


1人では年を取るのをやめられないが2人でならやめることができる!(GLASS6-15)

2009-02-07 23:07:28 | Weblog
ハンプティ・ダンプティが「お前は7歳で年を取るのをやめておけばよかったのだ」と言ったのでアリスが怒る。「年を取るべきか取らないべきかについてあなたに尋ねるなんて馬鹿げてる!」と。彼は「お前は誇り高いな!」とまたも変なことを言う。アリスは一層腹を立て「人は年を取るしかないのです! One can't help growing older! 」と怒る。

 PS1:年を取るのをやめるなんてできないとアリスが怒るのは当然だろう。アリスが正しい。人間一般に関して言えば、年を取るのをやめることができるというハンプティ・ダンプティは間違っている。だがこの話には続きがある。
 
 ハンプティ・ダンプティが言う。「1人ではたぶん年を取るのはやめられない One can't, perhaps 」と。しかし彼が付け加える。「二人なら年を取るのをやめることができる two can 。ちゃんと誰かに助けてもらえばお前は7歳で年を取るのをやめることができたかもしれない」と。

 PS2:ハンプティ・ダンプティの発言は論理的におかしくない。アリスは“One can't help growing older !”と言ったのだから、この発言と“二人なら年を取るのはやめることができる! Two can! ”は論理的に両立可能である。ここでは著者キャロルが “one”の二つの異なる意味、「人一般」と「人1人(ヒトリ)」を意図的に混同させ楽しんでいる。

「7歳6ヶ月」は、「7歳」であるのか or ないのか?(GLASS6-14)

2009-02-07 10:07:05 | Weblog
「7歳6ヶ月!」とアリスの年齢についてハンプティ・ダンプティが考え込みながら復唱する。そして彼が言う。「不快で落ち着きが悪い uncomfortable 種類の年齢だ。お前がもし私に忠告を求めていたら『7歳でやめておけ』と言ってやったのに。だがもう遅すぎる。」と。

 PS1:ハンプティ・ダンプティは我儘な主張をしている。「7歳6ヶ月」は彼にとって中途半端な年齢であり不快で落ち着きが悪いのである。「7歳」と整数でアリスが答えれば彼は機嫌がよかったのだ。

 PS2:ところがハンプティ・ダンプティはもっと不思議なことを言っている。つまり「だがもう遅すぎる。」との彼の発言は何を意味しているのか。これは「7歳6ヶ月」を「7歳」と整数で言えばよいというような問題ではない。彼は年齢の答え方を問題にしているのではない。彼にとってはそもそも①「7歳6ヶ月」はあくまで「7歳6ヶ月」だから「7歳」と呼んではいけないのである。しかしさらに②ハンプティ・ダンプティの見解では、一般に、年を取るのをやめる Leave off at seven ことができるのである。だから「7歳」で年をとることをやめることによってのみ「7歳」であり続けることができる。ところが、すでに「7歳6ヶ月」になってしまったので「もう遅すぎる」のである。

 PS3:だが年を取るのをやめることなどできるのか?これがアリスとハンプティ・ダンプティとの間で議論となる。(次節参照)