鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

論理の世界と別にある現実の世界:騎士には理解不能(GLASS8-20)

2010-04-25 09:26:41 | Weblog
 白の騎士が再び「私は発明が得意である!」と自慢する。そして続ける。「私は門を越える新しい方法を発明中である」と。それについて彼が説明する。
 門を越える場合、「唯一の困難は脚にある。頭はすでに門より十分高い。そこでまず頭を門の最上部に置く。こうすれば頭は門より十分高い。次に私は頭の上に立つ stand on my head つまり逆立ちする。こうすれば脚が門より十分高い。かくて私は門を越える。」

 PS1:白の騎士は論理的である。“門を越える”とは“頭と脚の両方が門より十分高い”ことと等価である。彼の門を越える新しい方法は確かに“頭と脚の両方が門より十分高い”事態を生み出す。それは“門を越える”事態と等価である。騎士の論理に誤りはない。

 アリスが思慮深く答える。「それが実現したら when that was done (※“頭と脚の両方が門より十分高い”事態が生じたら)、あなたは門を越えると思う。」と。

 PS2:ここまでアリスは騎士の論理をたどる。しかし彼女は先へ行く。

 「でもそれは相当難しいと思いませんか?」とアリスが批評。

 PS3:アリスは論理の世界から現実の世界に移行する。門の上で逆立ちをして“頭と脚の両方が門より十分高い”事態を現実の世界で実現するのは、確かに相当難しい。騎士はアリスの指摘に戸惑う。彼は論理の世界と別に現実の世界があることを理解できない。騎士は弱気になる。かくて彼が言う。

 「私はそれをまだ(※現実の世界で)試みていない。だから確実には言えない。しかし少し難しいかもしれないと思う。 But I'm afraid it would be a little hard. 」と。

騎士は論理に注目し、アリスは感情に注目する(GLASS8-19)

2010-04-20 07:24:42 | Weblog
 「たくさんの練習をした!」と言いながら落馬ばかりする騎士。怒ったアリスが「あなたは車つきの木馬に乗るべきです!」と叫ぶ。

 PS1:アリスは騎士をバカにしている。ところが彼の反応は意外!

 「それは具合よく動くのか?」と騎士が興味深げにたずねる。「生きた馬よりずっと具合がいいです!」とアリスは答えるが、我慢できずに笑ってしまう。

 PS2:騎士は論理の世界に生きる。アリスの言明は、彼女の感情に関し何も述べていない。騎士は言明の内容にだけ反応する。「あなたは車つきの木馬に乗るべきです!」「それは具合よく動くのか?」「生きた馬よりずっと具合がいいです!」この論理展開に変なところはない。騎士は論理に注目し、アリスは感情に注目する。騎士は自分がバカにされたことに気づかない。

 騎士がつぶやく。「木馬を1匹手に入れよう。いや1匹か2匹、または数匹!」と。

騎士の「たくさんの練習」:何度落ちても練習が続く(GLASS8-18)

2010-04-10 19:38:59 | Weblog
 「たくさんの練習」の話の行き違いからアリスと白の騎士はしばらく黙って歩くほかなかった。すると突然、白の騎士が「乗馬の秘訣は・・・・」と右手を振りながら大声で言い始める。ここで彼は真っ逆さまにアりスの前に落ちる。アリスは彼を助け起こしながら「骨を折ってませんか?」と心配してたずねる。
 「どうと言うことはない」と騎士が答える。そして「乗馬の秘訣はバランスを上手に取ることだ。このように・・・・」と言い彼は手綱を離し両腕を左右に広げる。再び彼は落馬し仰向けに馬の真下に倒れ込む。アリスが彼を助け起こす間、彼は「たくさんの練習!」「たくさんの練習!」と繰り返し続ける。
 「あまりに馬鹿げてるわ!」とアリスは今度ばかりは癇癪を起こした。

 PS:騎士からすれば「たくさんの練習」には意味的に「落馬しないこと」は含まれないから、何度落ちてもよいのであり彼の練習が続く。アリスにとっては「たくさんの練習」は意味的に「落馬しないこと」を含むから、何度も落馬する騎士を見て彼女は当然にも癇癪を起こす。

「たくさんの練習」の2つの意味:「落馬しないこと」を含むor含まない(GLASS8-17)

2010-04-04 19:25:42 | Weblog
 5回目の落馬をした騎士を助け起こしながらアリスが「あなたは乗馬のたくさんの練習 much practice をしなかったのだ」と言う。騎士はとても驚きまたその発言に少し立腹したように見えた。「何でお前はそんなことを言うのだ?」と彼がたずねる。このとき彼は鞍に這い登りアリスの髪を片手でつかみ反対側に落ちないようにしていた。
 
 PS1:騎士が馬から落ちるのは乗馬のたくさんの練習をしなかったからだとアリスが思うのは当然である。しかし彼は全くアリスに同意しない。なぜだろうか?
 
 アリスが答える。「たくさんの練習をすればそんなに何度も落馬しないからです」と。これに対して騎士が重々しく言う。「たくさんの練習をした。たくさんの練習!」と。
 
 PS2:この食い違いはどこから生じるのか?アリスは乗馬の「たくさんの練習」という言葉には「落馬しないこと」という意味が含まれると思う。ところが騎士は「たくさんの練習」という言葉に「落馬しないこと」という意味を含ませない。この場合、騎士が間違っているわけでない。騎士は何度も何度も乗馬の練習をしたのだ。彼が言うように「たくさんの練習をした。たくさんの練習!」である。アリスと騎士では「たくさんの練習 much practice 」という言葉に持たせる意味が異なるのである。