鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

《「呼ばれ方」と「それ自身」》×《「歌」と「歌の名前」》(GLASS8-28)

2010-06-27 20:00:10 | Weblog
 「歌を歌おう!」と言った騎士がアリスに説明する。「歌の名前は‘鱈の目’と呼ばれる」と。「それが歌の名前ですね」とアリスが言う。「分かってない」と騎士が言う。「それは歌の名前でなく、歌の名前が何と呼ばれるかである。」そして彼が続ける。「歌の名前そのものは‘年を重ねた男’である。」
 
 PS1:ここで騎士はどう考えているのか?、彼は「呼ばれ方」と「それ自身」を区別する。歌の名前は「呼ばれ方」が‘鱈の目’、「それ自身」が‘年を重ねた男’である。

 「ではそれが、歌が何て呼ばれるかですね」とアリスが確認する。騎士が「全然違う」と答える。そして言う。「歌は‘方法と手段’と呼ばれる」と。

 PS2:騎士は「歌」と「歌の名前」を区別する。「歌の名前」の呼ばれ方は‘鱈の目’だが、「歌」の呼ばれ方は‘方法と手段’である。

 アリスがついに「歌は何なんですか?」と完全に当惑してたずねる。騎士が答える。「歌そのものは‘門の上に座ってる’である。曲は私の発明だ」と。

 PS3:前述のように騎士は「呼ばれ方」と「それ自身」を区別する。歌は「呼ばれ方」が‘方法と手段’、「それ自身」が‘門の上に座ってる’である。
 
 PS4:まとめよう。騎士は一方で「呼ばれ方」と「それ自身」を区別する。他方で「歌」と「歌の名前」を区別する。
 「歌の名前」:「呼ばれ方」は‘鱈の目’、  「それ自身」は‘年を重ねた男’
 「歌」   :「呼ばれ方」は‘方法と手段’、「それ自身」は‘門の上に座ってる’
 
 PS5:熊のプーさん(ウィニー・ザ・プー)の例を考えよう。
 「熊の名前」:「呼ばれ方」は‘プー’、   「それ自身」は‘ウィニー’
 「熊」   :「呼ばれ方」は‘甘党’、   「それ自身」は‘蜂蜜が好きな熊’
 ストーリーを考えてみる:「熊と会おう」と騎士が言って説明する。「熊の名前は‘プー’と呼ばれる」と。「それが熊の名前ですね」とアリスが言う。騎士が「分かっていない」と言って訂正する。「熊の名前そのものは‘ウィニー’である。」ここまでは熊の名前の話である。騎士が続ける。「熊そのものは‘甘党’と呼ばれる」と。そして「呼ばれ方でなく熊そのものは‘蜂蜜が好きな熊’である」と。
 かくて熊は‘蜂蜜が好きな熊’で‘甘党’と呼ばれ、熊の名前は‘ウィニー’で‘プー’と呼ばれる。

 PS6:騎士の話に戻ろう。歌は‘門の上に座ってる’で‘方法と手段’と呼ばれ、歌の名前は‘年を重ねた男’で‘鱈の目’と呼ばれる。

「又は・・・・」:多様性or残余(GLASS8-27)

2010-06-20 18:21:49 | Weblog
 プディングのことを考えてきょとんとするアリスに、騎士は心配して「お前は悲しそうだ。お前を慰めるために歌を歌おう!」と言う。
 「私がその歌を歌うの聞いて誰もが涙を流す、又は・・・・」と彼が続ける。「又は何ですか?」とアリスがたずねる。というのは騎士は突然言うのをやめたから。
 「又は涙を流さない!」と彼が答えた。

 PS:「又は・・・・」という言葉でアリスは、歌を聞いて涙を流す人、又は髪をかきむしる人、又は胸をたたく人、又は下を向き黙る人、そのように様々の人がいる思ったに違いない。この「又は」は多様性を示す。
 ところが騎士の「又は・・・・」は残余だけを示す。歌を聞いて「涙を流す」人か又はその残余である「涙を流さない」人のいずれかだけがいると騎士は言う。
 この場合、全員が「涙を流す」のでない限り、「涙を流す」人がいるという命題と、「涙を流す、又は涙を流さない」人がいるという命題は意味的に等価である。

『料理』でないプディングは新種のプディングor『色』でない赤は新種の赤(GLASS8-26)

2010-06-07 00:36:25 | Weblog
 「私の発明で最も巧みだったのは肉料理の間に新種のプディングを発明したことだ」と騎士が言う。これに対し「次の料理として間に合うようにプディングを作ってもらうためですか?」とアリスが質問する。「だとしたらそれは早業でしたね、本当に!」と彼女の感想。

 PS1:肉料理が出されている間に、しかも次の料理として間に合うように新種のプディングを発明したのだとすれば、確かに早業である。プディングの調理時間を考慮すれば相当の早業で発明したはずである。アリスの言うとおりである。

 騎士が「その新種のプディングを発明は『次の』料理のためではない」と言う。
 
 PS2:ここで騎士は何が言いたいのか?順序が成立するためには並ぶものが同一の種類である必要がある。1個目、2個目、3個目・・・・と順序を数えるとき数えられるのは同一のもの、ここでは「料理」でなくてはならない。そのプディングがもし料理と呼びうる種類でなかったら『次の』料理と呼ぶわけにいかないからである。肉料理が出て、次に例えば「吸い取り紙・火薬・封ろうの混合物」が皿に盛られて出てきてもそれは料理ではない。騎士のプディングはおそらく料理ではなかったのである。かくて彼が言う。

 「プディングは確かに次の『料理』でなかった。」

 PS3:騎士が発明したのは食べられる『料理』と名づけうる種類に属さなかったのである。だがアリスには騎士が言っている意味がわからない。アリスは普通の女の子だからプディングと呼ばれるものが『料理』でないとは予想もつかない。
 
 アリスが「では作ってもらうのは次の日ですね。一度のディナーに2度のプディング料理というわけにはいかないでしょうから」と言う。

 PS4:騎士が“次の『料理』”でないと言うので、では“次の『日』”に食べるのかなとアリスは思ったのである。ところが騎士が発明したものは、彼がプディングと名づけたものだが、それは『料理』でないだけでなく、もちろん『日』でもない。

 騎士が「それは『次の』日ではない」と言う。

 PS5:この発言は先ほどと同じ思考回路である。順序が成立するためには並ぶものが同一の種類である必要がある。プディングが「日」と呼びうる種類でなかったら『次の』日と呼ぶわけにいかないと騎士は考える。彼がプディングと名づけるものは「日」ではない。かくて彼が言う。

 「プディングは確かに次の『日』でもない!」と騎士が言う。

 PS6:では騎士がプディングと名づけたものはいかなるものなのか?それは『料理』でないプディングである。だから確かに新種のプディングである。もちろんそれは『日』でもない。(それはあたかも『色』でない赤である。この赤は色でないから確かに新種の赤である。)

 騎士がしょげたようにうなだれ、声はどんどん小さくなりながら言う。「その新種のプディングは過去に料理されたことがない!それが未来に料理されるだろうとも思えない。しかしそれは発明としては極めて巧みだった。」

 PS7:騎士にとっては新種のプディングは『料理』でないから、彼の発言は当然である。ところがアリスは普通の女の子だからプディングは『料理』であると思っている。かくて彼女は次のように振舞う。

 騎士がしょげているのでアリスは彼を元気付けるため「どんな材料でプディングを作ろうとしたんですか?」とたずねた。騎士が答える。「まずは吸い取り紙。これだけでは美味しくない。それから火薬。そして封ろうを混ぜる!」と。

 PS8:騎士がプディングと名づけたものは明らかに『料理』でない。しかし新種のプディングであることは確かである。それにしても日常的に『料理』に属すプディングと言う言葉を、『料理』に属さない「吸い取り紙・火薬・封ろうの混合物」を指すものをとして使い新種のプディングとそれを呼ぶとは不思議である。(例えば『色』に属す赤という言葉を、『色』に属さない「吸い取り紙・火薬・封ろうの混合物」を指すものをとして使い新種の赤と呼んでよいのだろうか?)

 アリスはこのプディングのことを考えて、きょとんとするばかりだった。