鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

鏡の国の住人であるヤギの常識:ABCか切符売り場への行き方か(GLASS3-11)

2008-03-30 09:58:06 | Weblog
紳士の隣の座席にはヤギが目を閉じ座っていた。列車内でヤギが大きな声で言う。「この小さな子は切符売り場への行きかたつまりどの方向に行くかぐらい分かっているべきだ。たとえABCが分からなくても!」と。この発言も例の紳士の発言と同じく常識に反する。「小さな子どもでもABCぐらい分かっているべきだ。たとえ切符売り場への行きかたが分からなくても!」と言うのが普通なのに考え方が逆である。ヤギも鏡の国の住人であり常識が日常世界の逆になっている。

子どもに関する鏡の国での常識(GLASS3-10)

2008-03-30 09:34:15 | Weblog
 列車の中でアリスの前の席に座っていた紳士は白い紙で出来た服を着ていた。なぜ紙の服なのか不思議。挿絵に描かれたこの紳士がディズレーリに似ていて政治家が「白書」をよく出すので彼が「白い紙」の服を着ているとの説明も可能である。しかしそれは注釈者の立場であり、アリスの目から見ると紙の服はやはり謎で彼は奇妙な乗客である。さてこの紳士が言う。「こんな小さな子どもはどこに行くかつまりどの方向に行くかぐらい分かっているべきだ。たとえ自分の名前が分からなくても!」と。これは常識に反する発言である。「小さな子どもでも自分の名前ぐらい分かっているべきだ。たとえどこに行くか分からなくても!」と言うのが普通なのに紳士の発言は逆である。鏡の国の常識は日常世界の常識と逆かもしれない。

車掌は切符を見に来たはずなのになぜ見ずに立ち去ったのか(GLASS3-9)

2008-03-30 00:04:53 | Weblog

 車掌が窓から最初「切符を見せなさい!」とアリスに命じ、そのあと他の乗客たちがコーラスのように言ったり考えたりしている間、車掌はアリスをまず①望遠鏡で、次に②顕微鏡で、そして③オペラグラスで見ていた。最後についに車掌が言った。「お前は間違った方向に旅行しているのだ!」と。それから彼は窓をピシャッと閉めて行ってしまった。こうしてアリスは結局、切符がないまま列車に乗れることになる。ではそもそも車掌は何のためにきたのか?車掌はアリスに「切符を見せなさい!」と最初、命じたのに、切符を見ないまま彼は行ってしまった。変な車掌である。

イラスト: 列車の中で


今夜、私は1000ポンドの夢を見る(GLASS3-8)

2008-03-29 23:33:35 | Weblog
「言葉は1語1000ポンドの価値がある!」という命題。ここから少なくとも二つのことが考えられる。まず①それは「何かしゃべると1語につき1000ポンド払わなければならない」ということである。この場合、何もしゃべらないのが一番。なぜならしゃべらなければ全然お金がなくても大丈夫だから。しゃべったら大変。1語につき1000ポンドもお金がかかるから。もう一つ考えられるのは②言葉「1語」が1000ポンドとはその「1語の意味」が1000ポンドだということである。例えば夢の中で1語に相当する意味を考えたらその夢は1000ポンド分の価値があるということである。確かに夢は言葉ではない。しかし夢が1語分の意味を持ち1000ポンドの価値を持つことがありうる。かくてアリスが言う。「今夜、私は1000ポンドの夢を見るわ。きっとそうよ」と。

外部的なシルシ(声など)でなく形のない思想が同時性のシルシとなる:考えのコーラス(GLASS3-7)

2008-03-23 09:42:34 | Weblog
 「何か言うとすぐ皆がそろって私を責めるんだからもう何も言わない!」とアリスは考えた。考えただけなので今度は乗客たちの声がコーラスのように何か言うことはなかった。ところがアリスが驚いたことに乗客たちがコーラスのように考えた thought in chorus 。(実はここで「コーラスのように考える」とはどういう事態か説明できないとアリスが告白する。アリスは出来事の生起がわかったがその説明ができないのである。)乗客たちは「まるっきり何も言わないほうがいい。言葉は1語1000ポンドの価値があるから!」とコーラスで考えた。
 さて論点が二つある。①もし1語1000ポンドもするなら何も言わないほうがいいとはどういう意味か?これはすぐわかる。たとえばスーパーでその日トマト1個1000円なら買わない方がいいのと同じようなことだろう。
 もう一つの論点、②「コーラスのように考える」とはどういう意味か?これは難問。声のコーラスなら外部的な声が同時性のシルシとなって複数の乗客たちのコーラスを可能にする。ところが考えのコーラスには同時性を確認させる外部的なシルシがない。どうやって複数の乗客たちは考えが同時的に生じている=コーラスをなしているとわかるのか?
 彼らが同じことを考えることはあるがそれが同時に考えられるかはまた別問題である。彼らが同一の考えを抱いたとしてその同時性を可能にするものは何か?日常的には心の世界は外部的なシルシ(声など)なしに相互にであうことがない。しかし鏡の国では心の世界(考えなどが)が外部的な媒介(声など)なしに相互に出会えるのかもしれない。乗客たちの間に同時性を確認させる思想が発生してそれによって考えのコーラスがきっと可能になるのだ。アリスは日常世界の構造しか知らないから「コーラスのように考える」とはどういう事態か説明できない。アリスの告白は当然である。鏡の国では外部的なシルシ(声など)でなく形のない思想が発生しそれが複数の乗客たちに同時性のシルシとして認識され考えのコーラスが起こるなどアリスには思いつかない。複数の乗客たち(主観)の間に同時性を確認させる外部的・客観的でない思想形象が発生しそれによって考えのコーラスが可能になる。鏡の国は不思議である。

1分の時間、1インチの土地、1吹きの煙いずれも1000ポンドの価値がある(GLASS3-6)

2008-03-22 21:45:51 | Weblog
 アリスが最初の小川を飛び越えたとたんに場面が列車の内部に転換。アリスは列車の座席に座っている。車掌が窓から「切符を見せなさい!」と命じる。他の乗客たちが声をそろえてコーラスみたいに言う。「車掌を待たせるな!彼の時間は1分1000ポンドの価値があるから!」と。アリスが「切符売り場がなかったから買えなかった」と答えるとまたしても乗客たちのコーラス。「切符売り場をつくる余地なし。その土地は1インチ1000ポンドの価値があるから!」。車掌が「弁解はしない。機関士から切符を買うべきだった!」と言う。するとまた乗客たちのコーラス。「機関士は汽車を運転する人。汽車の煙だけでも1吹き1000ポンドの価値がある!」車掌の時間が1分1000ポンド、土地が1インチ1000ポンドとなぜ乗客たちが言ったか意味は明らか。しかし汽車の煙が1吹き1000ポンドとは何を意味するのか?当時、汽車がとっても高価だったということだろうか?

これだけ言い訳があればいいだろう(GLASS3-5)

2008-03-16 22:30:27 | Weblog
 アリスの言い訳がまだ続く。象と巨大な花のところに最初は行くつもりだったのを突然やめたのでアリスは言い訳をさがす必要があった。「象のところには後で行くから今はいいわ。それに何て言ったって早く3の目 the Third Square に行きたいし」とアリス。これだけ言い訳があればいいだろうとアリスは丘を象の方向とは反対側に降り最初の小川をジャンプして越える。アリスは本来潔い性格なので自分が一度決めたことを突然取りやめ変更するにはたくさんの言い訳が必要だ。言い訳①:象を追い払うだけ大きな棒は持って行けないから。言い訳②:花たちと話が出来たら面白いとも思うがでも棒がないから象にいじめられると心配。言い訳③:象のところにはまた後で行く機会もある。言い訳④:今はまず3の目に進みたいから。よく4つもアリスは言い訳を考えたものである。

花たちが散歩どうでしたって聞いてくれたら面白い(GLASS3-4)

2008-03-16 22:06:28 | Weblog
 アリスは「あの大きな花たちのところに行ったら面白いだろうな」とも思う。「きっと花たちが『散歩どうでした?』って聞くだろうから」と彼女は考える。「その時は『とってもいい散歩だったわ!』と答えるわ」とアリスは想像し同時にいつものようにツンとしてみせる。「でも埃っぽかったし暑かった。それに象たちが私が追い払う棒を持ってないからってしつこく煩わせたのよ!」ここまで言ってアリスはやっぱり象のところに行かないとあらためて再確認する。アリスはすぐ気が変わる。一度は象のところに行こうと思った。次に巨大は花たちのそばに行きたいと思うが棒を持たずに行くと蜜を吸う象にからかわれたり悩まされたりすると気づいてやっぱり行かないと決めるのだ。

アリスが蜜を吸う象のところに行かないのは追い払う枝がないため(GLASS3-3)

2008-03-11 23:14:56 | Weblog
 アリスは蜜を吸う象のところに行こうと一瞬思う。しかしやめる。あまり突然やめたのでみっともない気がしてアリスは言い訳を自分にする。「象たちを追い払うのにちょうどよい大きさの枝なんて見つかりっこない。普通の蜜蜂を追い払う枝ならすぐ見つかるけど!」と。これは確かに当たっている。そんな大きな枝などない。それは枝ではなくてほとんど大木そのものである。象を追い払うには大木でなくては役立たないがそんなに大きくて重いものはアリスにそもそも持てない。だからアリスは蜜を吸う象のところに行くのをやめる。普段アリスは蜜蜂のところに行くとき蜜蜂を追い払う枝をもって行くのだが今回はそのように出来ないので彼女は蜜を吸う象のところに行かないのである。これがアリスが見出した言い訳である。論理的だが不思議な言い訳。



象が蜜を集める巨大な花々(GLASS3-2)

2008-03-09 19:40:00 | Weblog
 1マイル離れているのに蜜蜂のように見える生き物っていったい何なのだろうとアリスはしばらく見ながら考える。それらのうちの一匹をよく観察する。花々の間をそれは忙しく動き回る。くちばしを花に突っ込む。「普通の蜜蜂みたいだわ」とアリス。しかし直にわかった。それはなんと象だった。アリスは息を飲むほどびっくりした。鏡の国では象が花に鼻を突っ込んで蜜蜂のように蜜を集める。だが新たな疑問が生じる。考えてみればこれは普通の花では不可能である。象が鼻を花に突っ込んでいるのだから。一体どんな花なのか?アリスはさらに観察する。そして終に気づいて驚く。「ものすごく巨大な花なんだわ!」と。それらの花々は象が鼻を突っ込んで蜜を集めることができるほど巨大である。「まるでコテッジの屋根を取ってそれに茎をつけたみたいな花。きっとたくさんの蜜が採れるわ」とアリスは思う。鏡の国には巨大な花があるのだ。