鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

身体と精神は異なる実体か?(GLASS8-25)

2010-05-31 21:07:58 | Weblog
 落馬して騎士はくぼみに落ち逆様で足の裏が見えるだけ。アリスは彼が怪我したのではないかと心配する。しかし「どんな種類 all kinds of でも同じだ!」と彼はこれまでのように話し続ける。
 アリスが「頭が逆様なのにどうしてあなたは落ち着いて話ができるのですか?」とたずねながら、脚を持って彼をくぼみから引き出す。

 PS1:アリスは身体が精神に影響すると考える。頭が逆様(身体状況)だったら落ち着いて話はできない(精神活動)と彼女は考える。

 騎士はその質問に驚いたようだった。「私の身体 my body がどこにあろうと何か問題があるのか?私の精神 my mind は働き続ける。むしろ実は、頭が下向きになるほど新しい発明が多くなるのだ!」と彼が言う。

 PS2:騎士は、身体から独立に精神が機能すると考える。身体と精神は異なる実体である。しかし両者は日常の現実では相関することが明らかである。アリスは常識の子だから両者が異なる実体などと考えない。

“fastness”:たくさんあるのかひとつだけなのか?(GLASS8-24)

2010-05-29 08:59:51 | Weblog
 アリスが「違う種類 a different kind の“ピシャっと fastness ”です」と言うと、白の騎士は興奮して「“ピシャっと fastness ”はどんな種類 all kinds of でも同じだ!」と反論する。このとき馬上の騎士が興奮して両手を手綱から離し振りあげたので彼は真っ逆様に落馬する。

 PS1:“fastness”に関して、記号 (“ピシャっと fastness”)とその意味(“詰まって”・“速い”)に分けて考えるなら、アリスは意味の差異に注目する。確かに「違う種類の“ピシャっと”」がある。しかし記号に注目するなら記号“ピシャっと”はいつも同一であり「どんな種類」も“ピシャっと”である。
 原文は次の通り。
 アリス: There's a different kind of fastness.
白の騎士: It was all kinds of fastness.
 
 PS2:“fastness”は「意味」としてはたくさんあるが、「記号」としてはひとつだけである。では記号と意味が融合した“fastness”そのものは、たくさんあるのか、ひとつだけなのか?二人はこれについて議論している。記号と意味が融合しているかぎり、アリスの主張も騎士の主張も正しい。

稲妻のようにピシャっと詰まって fast いた(GLASS8-23)

2010-05-16 13:58:00 | Weblog
 落馬して細長い兜の中に落ちた時、白の騎士は「兜から出るのに何時間もかかった」と言う。理由を彼が説明する。「私はほんとにピシャっと詰まって fast いたから。それはちょうど稲妻と同じだった!」と。
 
 PS:私は稲妻のようにピシャっと詰まって fast いたとは変だが、稲妻もピシャっと速い fast のだから、どちらも“ピシャっと fast ”で同じである。これにはもちろんアリスが異議を申し立てる。
 
 「でもそれは違う種類の“ピシャっと fastness ”です」とアリスが言った。

兜の中に落ちる&中に人が入っている兜をかぶる(GLASS8-22)

2010-05-09 11:23:58 | Weblog
 棒砂糖のような細長い兜をかぶって落馬するとどうなるか?白の騎士が言う。「兜の中に落ちてしまう危険がある。実際、そういうことが一回あった!」と。

 PS1:落馬したとき兜の中に落ちるとは奇妙。兜をかぶったときに兜が頭からずり落ちて体を覆わないのだから、きっと兜の内部に何か留める部分があったはず。落馬したはずみにその留め具がこわれ騎士は兜の中に落ちたと思われる。人が一人入るほどの兜は重いはずだが、それを頭の上に載せるとは鏡の国の騎士は頑丈である。

 騎士が続ける。「最悪だったのは兜から抜け出る前に別の白の騎士が来て、私が入っている兜をかぶった。彼はその兜を自分のものと思った!」と。

 PS2:再び奇妙な発言。中に人が入っている兜は相当重いのにその兜をかぶることができるとは、鏡の国の騎士は力持ちである。

 白の騎士があまりに真面目なためアリスは笑うわけにいかない。彼女は笑いをこらえるのが大変で震えて言う。「あなたは頭の上にいて、その騎士を怪我させなかったんですか?」と。

 PS3:何と馬鹿げた会話!アリスは礼儀正しい女の子である。彼女は騎士の心を傷つけないように話に論理的に対応する。

 騎士がとても真面目に答える。「もちろん私は彼の頭を蹴飛ばすしかなかった。そうしたら彼は兜を脱いだ!」と。

 PS4:鏡の国では普通の日常の世界で起きないことが平気で起こる。人が兜の中に落ちる&中に人が入っている兜をかぶる。

落馬の二つの定義:体の一部or全部が地面に達する(GLASS8-21)

2010-05-01 23:19:53 | Weblog
 白の騎士は発明中の「門を越える新しい方法」にアリスが疑問を呈したので機嫌をそこねる。そこでアリスが話題を変える。「何て変わった兜かしら!これもあなたの発明ですか?」とたずねる。兜が馬の鞍にかかっていた。騎士は自慢気に兜を眺めながら言う。「これよりもっと良い兜を発明したことがある。棒砂糖のような兜だ!」と。
 
 PS1:棒砂糖 sugarloafは円錐形である。騎士は円錐形の兜を発明した。

 騎士が言う。「私がその兜をかぶっていた時には馬から落ちてもその棒砂糖のような長い兜がすぐ地面に着いた。だからほんの少しの距離 a very little way 落ちるだけですんだ」と。

 PS2:騎士にとって落馬の定義は兜などを含めた体が鞍から離れその一部が地面に達することである。しかし普通は落馬とは体の全部が地面に達することである。アリスは常識人だから体の全部が地面に達して落馬と定義する。だから落馬の距離は棒砂糖のような長い兜をかぶっていようといまいと同じである。アリスは笑いたいのだが真面目に話す騎士に困る。