鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

アリスは境界人であり「不思議の国」と「日常の世界」を行き来する(WONDERLAND1‐2)

2013-05-01 22:02:05 | Weblog
 ところが、兎が実際、ベストのポケットから時計を取り出し、それを眺め、急いで走っていくのを見たとき、アリスは、急に立ち上がる。理由は、ベストを着た兎、あるいはベストから取り出す時計を持った兎なんてものは、見たことが一度もないことに、アリスは突然、気づいたから。

 ◎コメント:「ベストを着た兎」などいない。「時計を持った兎」などいない。そうアリスが思ったのは、なぜか?アリスは、初め、「兎がものを言う」ことを全く自然に思った。この時、アリスは、完璧に「不思議の国」の住人だった。ところがアリスは、突然、日常の世界に跳躍する。「日常の世界」では、兎はものを言わないし、ベストを着ないし、時計を持たない。アリスは「境界人」であり「日常の世界」の現実と、「不思議の国」の現実を行き来する。

 好奇心で燃え上がるアリスは、畑を横切って走り、兎を追いかける。かくて、兎が垣根の下の大きな兎穴に飛び降りるのを、アリスは見届ける。
 
 ◎「不思議の国」が不思議な理由(2):アリスが「不思議の国」の住人でない限りでのみ、「不思議の国」は不思議となる。彼女が不思議の国の住人なら、兎がしゃべることも、兎がベストを着ることも、兎が時計を持つことも、すべて当然で自明であって、不思議と思われることは決してない。「境界人」としてのアリスが、「日常の世界」の現実から、「不思議の国」を見ると、そこは不思議な世界となる。アリスが「不思議の国」の現実の住人へと移住すれば、「不思議の国」の不思議さは消失し、ただ自明で当然で常識的な世界のみが出現する。