鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

日常的現実の立場:鏡の国にいるのは反アリスでなくアリスである(GLASS5-17)

2008-10-13 19:27:49 | Weblog

 羊の店についてテニエルによる挿絵がある。棚に“お茶2シリング”と書いた掲示が描かれている。ところがそれは左右が逆の鏡文字である。これについてどう解釈すべきだろうか? 鏡の国では字はすべて鏡文字に書くはずである。なぜなら鏡の国なのだから。しかし鏡の国の住人は彼自身が左右逆だから鏡文字は普通の文字に見えるはずである。実際、他の挿絵では文字は普通に書かれている。例えば「第9章女王アリス」にある挿絵ではドアに左右逆ではない普通の文字で QUEEN ALICE とある。 ではなぜ羊の店の“お茶2シリング”の掲示の文字は左右逆なのだろうか?羊の立場ならその文字は左右逆ではなく普通に書かれているはずである。ところが文字は左右逆に書かれているからこの挿絵は日常的現実の住人の立場に立っている。 ここから2つの可能性が考えられる。ひとつは、この挿絵を描いた日常的現実の挿絵画家テニエルの立場から見た店の様子である。もうひとつは、鏡の国いるアリスが鏡の国の住人になりきっていない、つまり反アリスでないために、彼女に見える世界である。反アリス(鏡の国に属する)でないアリス(日常的現実に属する)の立場から店を見れば、文字は左右逆の鏡文字になるのである。 後者の可能性をとればこの挿絵にいるアリスは鏡の国に属する反アリスでなく日常的現実に属するアリスである。アリスは鏡の国にいるのにそこの住人ではなくあくまで余所者である。

イラスト: ヒツジのお店

 


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