大阪府教育委員会が主催した情報教育研修会の中で、携帯電話が青少年に与えた影響についてのお話がありました。講師は群馬大学社会情報学部大学院の下田博次教授です。講演の趣旨が、東京都消費者センターが発行する『私たちは消費者』に掲載されていました。同センターの了解をいただき3回にわたって『かけはし』に転載させていただきます。衝撃的な内容も含みますが、貴重な内容ですのでご一読下さい。
携帯電話で広がった十代の性非行、その対策①《1.携帯電話で広がった援助交際》
90年代中頃より、米国で問題になったコンタクトと呼ばれるインターネットのメディア機能がある。メディアといえば通常は、伝える技術あるいは力を思い浮かべるが、コンタクトは「人と人を結び付けるメディアの力」を意味する。それも見知らぬ人間同士を結び付け、関係付けるメディアの力なのだ。インターネットを生み出した米国では、このコンタクトのメディア機能が未成年の子供たちにおよぼす悪影響について関心が広がった。
米国のメディアは家庭に向けて「子供部屋のパソコンから、貴方のお子さんに悪い大人の魔の手が伸びていますよ。インターネットのコンタクトにご注意」という警鐘をならしているのだ。日本でも同じようにインターネットの負の力が子供におよんでいる。それも親の管理がパソコンより難しい携帯電話(インターネット接続型ウェブフォン)から、子供たちにコンタクト機能を利用した魔の手が伸びている。しかしこの現実について効果的な解説や警鐘を鳴らすマスコミ報道は、皆無にちかい。ニュースとして、ただ事件だけが断片的に報道されているに過ぎない。
今やインターネット端末と化したパーソナル・メディア携帯電話(ウェブフォン)は、いわゆる援助交際のための出会い情報をはじめ非行や犯罪に直接、間接にかかわる多様な情報を子供たちに向けて直接発信するようになってきたのである。それを知れば携帯電話を、便利で面白い装置などともてはやすだけではすまないはずだ。実際にインターネット接続型の携帯電話が市場に現れた1999年という早い時点で、総務庁が行った高校生のパーソナル・メディア利用実態調査でも、携帯電話の厄介な側面がわかっていた。
「青少年と携帯電話等に関する調査研究報告書」と題された総務庁の、その調査報告書は、携帯電話(ウェブフォン)を持ち始めた高校生(携帯所有群)と未だ所有していない高校生(非所有群)とを比較して、およそ次のような報告をしていた。
「新型携帯の所有群は非所有群に比べ、茶髪やピアスなど若者文化やセックス、テレクラ、万引き、バイク盗など非行・逸脱行為の経験が高い。新型携帯の所有群は所有のメリットを異性関係の拡大にみている。携帯を与えた親は、子供の生活慣習が大きく変化するとともに子供の行動や友人関係が見えなくなる。あるいは浪費癖がつくようになる等不安を持つようになる。」
ある意味、新型電話機にいち早く飛びついた高校生たちは、便利で面白い携帯電話のメディア特性をズバリ見抜いていたのだ。一方、親や大人は最新の技術を実現した便利な通話メディアという認識だった。つまり単なるテクノロジー礼賛の域を出なかった。このことは2002年に私が地元群馬の放送局で、携帯所有の第1期生とも言うべき大学生や高校生らと「インターネット、携帯の流行を考える番組」を制作したときにはっきり確かめられた。
たぶん全国でもはじめての試みと思うが、私の研究室では昨年4月より1年間、地元のFM放送局(FM群馬)の依頼を受け、大学生、高校生によるラジオ番組制作を続けた。スポンサーは群馬県青少年こども課で、目的はインターネット時代の少年非行対策である。 IT時代の子育ては単にお説教ではすまない。子供自身が、現代メディア環境のリスクを客観的に捉え直し「して良いことと悪いことを自覚」させるようにするほうがよい。上からの押し付け倫理や道徳ではなく、主体的なメディア教育が日本でもいよいよ必要になってくる。 そういう考えで始まった番組(ティーンズ・エクスプレス)では、大学生や高校生たちが放送スタッフとなり同世代のネット利用実態について意欲的な掘り出しを始め、仕掛人の私自身がときに圧倒される取材をもやってのけた。
たとえばそのひとつが、昨年夏にJR高崎駅前で行った援助交際実態取材だった。この取材では短時間に次々と援交経験者の声が採れて驚いた。その一連の取材では、いわゆる援交の目的や方法などが具体的に浮かび上がり、放送された一部の少女たちの生の声が地域社会に衝撃を与えた。
放送できなかった部分にも、考えるベき材料は詰まっていた。例えば女子高の生徒たちが携帯電話を使った売春サークルを作り先輩から後輩にノウハウが引き継がれるという実態もわかった。また我々が接触した援交少女たちの一人に、家出中の子がいた。彼女は友達の家に泊まりながら生活費を稼ぐ目的で援助交際をしていたのだ。最近プチ家出という言葉がよく聞かれるが、家出と少女売春のつながりに私は初めて注目させられた。しかし大人は知らないだけで、このケースは珍しくもないようだ。群馬県では、その後に家出少女による移動売春とも言うべき事件が起きた。この少女は家出して行く先々での宿泊代や食事代を稼ぐために携帯電話から出会い系サイトにアクセスし売春相手を見つけていた。調べにあたり彼女は「携帯なら何処に行っても、すぐ簡単に相手が見つかる」と語っている。携帯電話を持たせた親の方は、勿論そんな使われ方をされているとは知らなかった。 親は持たせて安心な移動電話機とみているが、子供たちはコンタクトができる便利なコンピュータ装置と正確にとらえて使っている。子供たちにとって携帯電話は援交に必須のツールとなったのである。(続く)
携帯電話で広がった十代の性非行、その対策①《1.携帯電話で広がった援助交際》
90年代中頃より、米国で問題になったコンタクトと呼ばれるインターネットのメディア機能がある。メディアといえば通常は、伝える技術あるいは力を思い浮かべるが、コンタクトは「人と人を結び付けるメディアの力」を意味する。それも見知らぬ人間同士を結び付け、関係付けるメディアの力なのだ。インターネットを生み出した米国では、このコンタクトのメディア機能が未成年の子供たちにおよぼす悪影響について関心が広がった。
米国のメディアは家庭に向けて「子供部屋のパソコンから、貴方のお子さんに悪い大人の魔の手が伸びていますよ。インターネットのコンタクトにご注意」という警鐘をならしているのだ。日本でも同じようにインターネットの負の力が子供におよんでいる。それも親の管理がパソコンより難しい携帯電話(インターネット接続型ウェブフォン)から、子供たちにコンタクト機能を利用した魔の手が伸びている。しかしこの現実について効果的な解説や警鐘を鳴らすマスコミ報道は、皆無にちかい。ニュースとして、ただ事件だけが断片的に報道されているに過ぎない。
今やインターネット端末と化したパーソナル・メディア携帯電話(ウェブフォン)は、いわゆる援助交際のための出会い情報をはじめ非行や犯罪に直接、間接にかかわる多様な情報を子供たちに向けて直接発信するようになってきたのである。それを知れば携帯電話を、便利で面白い装置などともてはやすだけではすまないはずだ。実際にインターネット接続型の携帯電話が市場に現れた1999年という早い時点で、総務庁が行った高校生のパーソナル・メディア利用実態調査でも、携帯電話の厄介な側面がわかっていた。
「青少年と携帯電話等に関する調査研究報告書」と題された総務庁の、その調査報告書は、携帯電話(ウェブフォン)を持ち始めた高校生(携帯所有群)と未だ所有していない高校生(非所有群)とを比較して、およそ次のような報告をしていた。
「新型携帯の所有群は非所有群に比べ、茶髪やピアスなど若者文化やセックス、テレクラ、万引き、バイク盗など非行・逸脱行為の経験が高い。新型携帯の所有群は所有のメリットを異性関係の拡大にみている。携帯を与えた親は、子供の生活慣習が大きく変化するとともに子供の行動や友人関係が見えなくなる。あるいは浪費癖がつくようになる等不安を持つようになる。」
ある意味、新型電話機にいち早く飛びついた高校生たちは、便利で面白い携帯電話のメディア特性をズバリ見抜いていたのだ。一方、親や大人は最新の技術を実現した便利な通話メディアという認識だった。つまり単なるテクノロジー礼賛の域を出なかった。このことは2002年に私が地元群馬の放送局で、携帯所有の第1期生とも言うべき大学生や高校生らと「インターネット、携帯の流行を考える番組」を制作したときにはっきり確かめられた。
たぶん全国でもはじめての試みと思うが、私の研究室では昨年4月より1年間、地元のFM放送局(FM群馬)の依頼を受け、大学生、高校生によるラジオ番組制作を続けた。スポンサーは群馬県青少年こども課で、目的はインターネット時代の少年非行対策である。 IT時代の子育ては単にお説教ではすまない。子供自身が、現代メディア環境のリスクを客観的に捉え直し「して良いことと悪いことを自覚」させるようにするほうがよい。上からの押し付け倫理や道徳ではなく、主体的なメディア教育が日本でもいよいよ必要になってくる。 そういう考えで始まった番組(ティーンズ・エクスプレス)では、大学生や高校生たちが放送スタッフとなり同世代のネット利用実態について意欲的な掘り出しを始め、仕掛人の私自身がときに圧倒される取材をもやってのけた。
たとえばそのひとつが、昨年夏にJR高崎駅前で行った援助交際実態取材だった。この取材では短時間に次々と援交経験者の声が採れて驚いた。その一連の取材では、いわゆる援交の目的や方法などが具体的に浮かび上がり、放送された一部の少女たちの生の声が地域社会に衝撃を与えた。
放送できなかった部分にも、考えるベき材料は詰まっていた。例えば女子高の生徒たちが携帯電話を使った売春サークルを作り先輩から後輩にノウハウが引き継がれるという実態もわかった。また我々が接触した援交少女たちの一人に、家出中の子がいた。彼女は友達の家に泊まりながら生活費を稼ぐ目的で援助交際をしていたのだ。最近プチ家出という言葉がよく聞かれるが、家出と少女売春のつながりに私は初めて注目させられた。しかし大人は知らないだけで、このケースは珍しくもないようだ。群馬県では、その後に家出少女による移動売春とも言うべき事件が起きた。この少女は家出して行く先々での宿泊代や食事代を稼ぐために携帯電話から出会い系サイトにアクセスし売春相手を見つけていた。調べにあたり彼女は「携帯なら何処に行っても、すぐ簡単に相手が見つかる」と語っている。携帯電話を持たせた親の方は、勿論そんな使われ方をされているとは知らなかった。 親は持たせて安心な移動電話機とみているが、子供たちはコンタクトができる便利なコンピュータ装置と正確にとらえて使っている。子供たちにとって携帯電話は援交に必須のツールとなったのである。(続く)