教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

ほんの紹介『夕凪の街 桜の国』

2007年05月06日 | 本と映画の紹介
こうの史代著 双葉社 800円

表紙を開いて目次をめくると、「広島のある日本のあるこの世界を 愛するすべての人へ」という著者のメッセージが目に入ります。この本は広島の原爆被爆を題材にした漫画です。広島を描いた漫画では『はだしのゲン』という名作がありますが、この『夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国』は、被爆した広島がほとんど描かれていない作品です。わずか100ページ足らずの冊子が、『夕凪の街』『桜の国1』『桜の国2』の3部に分かれ、複雑にからみながら成り立っています。

物語は、あの日から十年たった1955年(昭和30年)の広島で始まります。原爆で父と姉と妹を失った皆実(みなみ)は、母親と二人で戦後の生活を始めます。皆実には自分に好意を寄せている同僚の打越がいます。しかし皆実には「自分が幸せになってはいけない」という思いがあります。その思いは被爆の記憶と強く結びついているのです。(映画『父と暮らせば』の主人公も同じ思いをしていた)

勇気をだして皆実は自分がこの世に生きていて良いのかと打越に相談します。「生きとってくれてありがとう」という返事をもらった皆実は、打越の好意を素直に受け入れようと思うのです。しかしその矢先に皆実は倒れます。ちょうどあの日から2ヶ月後、全身に紫色のしみをつくって逝(い)ってしまった姉と同じように。

・・・嬉しい? 十年経ったけど原爆を落とした人は私を見て「やった!またひとり殺せた」とちゃんと思うてくれとる?・・・

そんな言葉を頭によぎらせながら皆実は短い生涯を終えます。そして話は1980年代の東京を舞台とした2部へ、そして3部では現在の東京と広島を結びながら展開されます。話の展開は過去から現在への直線的なものではなく、度々回想シーンが挿入され、その回想シーンや何気ない街の景色の中に「今」を理解するためのヒントが隠されています。そして過去と現在を行き来しながらいくつかの「謎」が明かされ、被爆の問題が遠い過去のことでなく、現在に続いている問題でもあることを静かに訴える作品になっています。

職員室で何人かの先生に読んでもらいました。「号泣した」というものから「何?これ?」まで様々な感想がありました。小学生の皆さんには難しいかもしれませんが、中学生の皆さんには是非チャレンジしてもらいたい作品です。一回読んでもわからないかもしれませんが、二度三度と読み返してみると、一度目には見過ごしていたヒントに気づくことと思います。

3年ほど前の出版で、新刊では手に入れにくいかもしれませんが、私は古本市場でお安く買いました。