宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『天使の眠り』岸田るり子(1961生)、2006年、徳間文庫

2012-01-22 08:58:15 | Weblog
   第1章 再会:宗一(ソウイチ)と亜木帆一二三(アキホヒフミ)
    1 13年前、札幌
 京都のN医大の助手、秋沢宗一(ソウイチ)。同じ研究室の研修医の結婚式披露宴会場で、彼は亜木帆一二三(アキホヒフミ)と13年ぶりに会う。
 宗一は23歳(大学院1年)のとき、札幌で子連れの一二三(当時30歳)と3ヵ月同棲した。一二三の前夫はアイルランド人、イアン・バンクス・タナカ。一二三とイアンの娘が田中江真(当時2歳)。イアンは他界。
 一二三は宗一との3ヵ月の同棲後、突然、いなくなる。
 宗一は当時、13年前、札幌で安いアパートに住む。隣の部屋に三人の中国人の女が住む。水商売のようだった。
    2 今、京都
 今、宗一には大原時子という恋人がいる。
 今の一二三は、昔の一二三と名前は同じだが、顔が全く別人である。江真は今、15歳、中学3年。今の一二三が、宗一(ソウイチ)を、昔の一二三のように間違って「しゅうさん」と呼んだ。
    3 宗一の母
 宗一の母は、宗一が3歳の時、好きな男のため宗一を捨て家を出た。宗一は母を恨む。

   第2章 孤独:向井さん
    1 今の一二三が、娘の江真を向井さんに週1度、預ける
 京都で江真は、今の一二三(母、看護師)より20歳くらい年長の向井さんの家に、よく行く。母の今の一二三は看護師で忙しいので、向井さんを雇い、保育園には昔から向井さんが江真を迎えに来る。
 土曜日は、母の今の一二三は化粧して夜遊びに出かけるので、江真は、向井さんの家に泊まる。向井さんはネットでアクセサリーを売って一人暮らす。年に数回、フランスにアクセサリーを仕入れに行く。
    2 江真、いじめられる
 江真は白人の血が入っていて、いじめられる。中2の時、「色素欠損人間」でうつる病気だといじめられる。
    3 今の一二三:夫が二人殺される
 母の今の一二三は、2度結婚したが、二人の夫とも殺された。母には今もいい年の恋人がいる。

   第3章 追跡:宗一が今の一二三を調査する
    1 今の一二三と昔の一二三は別人
 京都で、宗一は、今の一二三が、昔の一二三と全く別人なので、ストーカーのように追跡する。
    2 札幌:中国人のレイカ
 札幌で、昔、13年前、中国人のレイカ(13歳だった)が猫を飼う。江真(2歳)が猫を見たいと言うので、宗一、一二三も一緒に、アパートのレイカの部屋に猫を見に行く。
 その後、昔の一二三が宗一に「私の家で一緒に住まないか?」と誘う。その結果、宗一、一二三、江真は一緒に住む。3ヵ月の同棲後、一二三、江真は突然、いなくなる。
    3 今の一二三:京都中心部に50坪の家、駐車場、数軒のアパートを持つ
 今の一二三は、13年前の一二三と別な顔だが、髪型と趣味は同じ。また昔の一二三と同じドレスやコートを着ている。今の一二三は松山病院に勤める(看護師)。また京都中心部に50坪の家を持ち駐車場とアパートもある。
    4 今の一二三の前夫、佐伯が殺される:1億円の保険金
 今の一二三の前夫、佐伯(MR技師、40歳)は籍を入れた半年後、メスで頚動脈を切られ殺される。一二三に1億円の保険金が入る。妻の一二三は同時刻、遠隔地にいて、完全なアリバイがあった。犯人は見つからず。
    5 今の一二三の前々夫、植村が殺される:財産を相続
 今の一二三の前々夫、植村は籍を入れた直後、強盗殺人で殺される。この時も、一二三には完全なアリバイがあった。植村の財産を相続し、一二三は、京都中心部に50坪の家、駐車場、数軒のアパートを手に入れる。犯人はみつからず。

   第4章 疑惑:娘、江真が疑問を持つ
 江真は、先日の結婚式披露宴で、母(=今の一二三)が、「しゅうさん」(宗一)と会って以来、上の空なのはなぜだろうかと思う。
 向井さんが、「『(父、イアンの)特別な遺伝子を引き継ぎたくて江真を産んだ』と、あなたのお母さんは言ってたわ」と江真に言う。

   第5章 二つのアリバイ:植村、佐伯、両殺人事件とも一二三にアリバイがある
 13年前、昔の一二三は、「イアンが産むなと言ったのに娘、江真を産んでしまった」と宗一に告白した。
 今の一二三の前々夫、植村は、9年前、1996年、殺された。(今、2005年)2年前、前夫、佐伯が殺された。二つの事件とも今の一二三にアリバイがある。
 43歳の一二三は今、松山病院の経理事務の常磐田さんとつきあう。

   第6章 ルーツ:江真の祖父(プリオン研究者)がイアンを養子にした
 今の一二三が、江真を連れて、札幌の祖父に会いに行く。
 江真の祖父、田中里太郎は元相里大教授でプリオン研究の第1人者。アイルランドから父、イアンがやってきて祖父のもとで研究。研究を続けるためイアンが日本に滞在が出来るよう、祖父がイアンを養子とする。
 イアンが昔の一二三(看護師)と結婚。江真が産まれる。
 今、祖母は死に、祖父は目が悪い。(※今の一二三が昔の一二三と別の顔(別人)でも祖父にはわからない。)

   第7章 致死性不眠症:イアンの病気
    1 イアンは自分の発病を防ぐため来日
 イアンは致死性家族性不眠症だった。プリオンが原因の病気で遺伝する。イアンの父はこの病気で若くして死ぬ。江真の祖父、田中里太郎はこの病気の権威だった。
 イアンは自分の発病を防ぐため来日し、祖父の元で研究した。
    2 中国人少女レイカは13年前、宗一が好きだった
 13年前、アパートのとなりの部屋の中国人少女レイカ(※今の一二三)は、宗一が好きだった。
 今の一二三(※昔のレイカ)が、「常磐田と別れた」と宗一に言う。「何もかも気乗りがしなくなった」とのこと。

   第8章 遺伝子:江真の遺伝病
 江真は向井さん(※実は昔の一二三、江真の母)と大文字山に登る。
 江真が「お母さん(※実は今の一二三=レイカ)が常磐田さんと別れた」と向井さんに言う。
 また「お母さん(※今の一二三=レイカ)が『かわいそうな子!』と私を夜、さすって泣く」と伝える。(※今の一二三(=レイカ)は、江真の祖父、田中里太郎と会って、江真の遺伝病(=致死性不眠症)を知ったため。)

   第9章 真実 
    1 レイカを利用した5億円獲得計画:昔の一二三(=今の向井さん)
 昔の一二三は愛すべき正直なイアンを愛した。イアンは「産むな」といたが、一二三は江真を産んだ。まだイアンは元気だったし、遺伝病など大丈夫だと思ったから。しかし直に、イアンは致死性家族性不眠症で死んだ。
 一二三は死のうと思ったが江真のために生き残る。
 フランスのモンペリエの研究所が、致死性家族性不眠症のメカニズムの解明に成功したと、昔の一二三が知る。一二三はフランスに渡り、研究所から新薬の開発に5億円必要と伝えられる。
 昔の一二三は、江真を救うため5億円を獲得しなければならないと思う。
 これが、13年前、札幌で、宗一と昔の一二三が出会ったときの状況。
 昔の一二三は中国人レイカの存在を宗一から知り、レイカを利用した5億円獲得計画を立てる。

    2 レイカが今の一二三になる&昔の一二三が向井さんとなる
 ①宗一をレイカから引き離すため、宗一に昔の一二三が声をかけ同棲する。
 ②昔の一二三が、レイカが置かれた状況を知るためレイカと密かに会う。レイカは密入国者で借金返済のため中国マフィアの「蛇頭」から売春を強制させられている。
 レイカは逃げたいと思っている。
 ③一二三が江真とともに、レイカを連れ名古屋に飛行機で逃げる。
 レイカが今の一二三になる。レイカは一二三として病院に勤める(看護師)。江真は2歳だったので、レイカ(=今の一二三)を母と思う。
 昔の一二三は、名古屋に住み、たまたま病院に来た他人(向井)の保険証で住民登録票を写し、そこで原付免許を取り身分証明書を得る。住民票を戻し、保険証を病院に戻す。昔の一二三が向井さんとなる。
 ④計画の実行のため昔の一二三(=向井さん)とレイカ(=今の一二三)が京都に引っ越す。

    3 レイカ(=今の一二三)が誘惑し、向井さん(=昔の一二三)が殺害する
 ①レイカ(=今の一二三)は、借金の返済と中国の母親への仕送りのため、お金がほしい。
 昔の一二三(=向井さん)は、江真の致死性不眠症の発病を防ぐ新薬開発のため、5億円が必要。
 ②京都に移り計画が実行される。レイカ(=今の一二三)が前夫、佐伯と前々夫、植村を誘惑し、昔の一二三(=向井さん)が殺害する。レイカ(=今の一二三)には完全なアリバイがある。
 レイカはとうてい好きになれないような嫌な男なら、籍を入れた後、男が殺されても平気だと言う。植村は吝嗇な老人で周りからの嫌われ者。植村は京都中心部に50坪の家、駐車場、数軒のアパートを所有。
 佐伯はMR技師で幼女への性的虐待が好きな暗い独身者。レイカの懇請で、佐伯は1億円の保険に入る。
 殺人後、植村の財産相続、佐伯の保険金で大金が入る。それを昔の一二三(=向井さん)とレイカ(=今の一二三)で分ける。
 ③しかし5億円にはまだ足りない。
 昔の一二三(=向井さん)がレイカに3番目の目標へ取りかかるよう指示。レイカ(=今の一二三)が松山病院の経理事務の常磐田を誘惑。

    4 昔の一二三(=今の向井さん)の激怒
 ①計画は順調だった。ところが今の一二三(=レイカ)の前に宗一が現れる。レイカは昔から宗一が好きだった。レイカは殺人の共犯がいやになり、常磐田と別れてしまう。
 ②これを知って昔の一二三(=向井さん)が激怒する。
 昔の一二三(=向井さん)がメスを持って、宗一を殺すため、出かける。レイカとセックス後、寝ている宗一を襲う。しかし宗一に気づかれる。
 宗一は格闘する。宗一が勝ち、彼は、変わり果てた姿の昔の一二三(=今の向井さん)を知り驚く。昔の一二三は今、43歳で、肥って老け化粧もしていない
 ③「イアンが死んだとき、私はもう死んでいた。江真を助けるためだけに、私はながらえた。でももうおしまいだわ!」と昔の一二三(=向井さん)が言った。

   第10章 無償の愛:江真は、ついに向井さんが本当の母親と知らない
 結局、向井さん(=昔の一二三)は自殺した。手首をメスで切った。
 彼女が遺書で言う。「江真ちゃんと過ごせた時間が一番幸せだった。あなたの寝顔、とてもきれいです。」と。天使の眠り!
 江真は、ついに向井さんが本当の母親と知らない。でも向井さんを思い出し時々、泣く。
 レイカは駐車場とアパートを売り、全額をフランスの研究所に寄付。やがて致死性家族性不眠症の新薬が開発されるだろう。そうなれば江真は早死にしないですむ。
 レイカ(=今の一二三)は、13年前から好きだった宗一と一緒になる。

 《評者の感想》
   1
 自分の娘、江真を救うために殺人をして良いものだろうか?向井さん(=昔の一二三)は責任をとって自殺するほかなかった。
   2
 吝嗇で周りからの嫌われ者は殺されてよいのか?彼(植村)には、殺される理由が全くない。
 幼女への性的虐待が好きな暗い独身者は殺されてよいのか?幼女への性的虐待は厳しく罰せられるべきである。しかし彼(佐伯)が殺されてよいかは別問題である。
   3
 向井さん(=昔の一二三)が娘、江真を思う愛は崇高だと思う。ただ5億円獲得計画のための殺人は正当化されない。
   4
 レイカがこのあと宗一と幸福になれればいいと思う。ただしレイカには殺人の共犯の罪があるが情状酌量されるだろうか?またレイカは密入国者なので強制送還されるかもしれない。レイカは人道的に処されるべきだと思う。
   5
 江真は新薬で発病せず長生きし幸せになってほしい。

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