宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『卵をめぐる祖父の戦争』デイヴィッド・ベニオフ(1970生)、2008年、ハヤカワ文庫

2012-01-31 07:42:50 | Weblog
 祖父(レフ)はナイフの使い手で18歳までにドイツ人を2人殺した。
 祖父母はロシアからの移民でNYに住み保険会社を経営。引退し1990年代の終わり、二人はフロリダに移住。
 私は脚本家、34歳。祖父から戦争の話を聞きテープにとる。
 1942年の最初の1週間(1月)の出来事。祖父が、祖母(ヴィカ)に出会い、親友(コーリャ)ができ、ドイツ人を2人殺す。

  1 金曜日(第1日目):ドイツ兵のナイフを略奪
 1941年6月、ドイツ軍がソ連に侵攻。レニングラードが包囲される。
 1942年1月、私(レフ)は17歳。消防団の団長として住んでいたアパート〈キーロフ〉の屋上で任務につく。落ちてくるドイツ兵の落下傘を発見。ドイツ兵のところに仲間4人で行く。ドイツ兵はすでに凍死。ドイツ兵からナイフを奪う。
 その後、軍に発見され私(レフ)は捕まる。夜間外出禁止令違反と略奪で銃殺になるはずだった。

  2 金曜日(第1日目)その2:刑務所に収容
 私(レフ)は、刑務所(〈十字〉)に収容される。私の足にはドイツ兵のナイフが隠して縛り付けたままだった。
 20歳の脱走兵、コーリャが同房に収容される。彼も翌朝、銃殺のはずだった。

  3 土曜日(第2日目):卵を木曜日までに見つければ銃殺しない 
 早朝、銃殺されず、私(レフ)とコーリャが、刑務所からソ連秘密警察のグレチコ大佐のもとに連行される。
 大佐が、「娘の結婚式のケーキのために、卵が1ダース必要だ。木曜日までに、卵を見つけてこい。見つけてくれば二人とも銃殺せず自由にする。」と言う。
 ドイツ軍の包囲のもとでレニングラード(ピーテル)には卵がない。
 私(レフ)はナイフの携行を許され、大佐が通行許可証を発行。

  4 土曜日(第2日目)その2:私(レフ)とコーリャは闇市がある(レニングラードの)センナヤ広場へ向かう

  5 土曜日(第2日目)その3:人肉を食べる夫婦
 センナヤ広場で「ピーテルには9月以来、卵はない」とわかる。
 「鶏を飼っている爺さんがいる」との噂を聞く。
 ある大男が「卵を持っている」というのでそのアパートに行くと、大男とその女房に殺されそうになる。彼らは人肉を食べていた。私(レフ)とコーリャはなんとか逃げた。

  6 土曜日(第2日目)その4:住んでいたアパート〈キーロフ〉にもどるが、それは前夜、ドイツ軍の砲撃で廃墟になっていた

  7 土曜日(第2日目)その5:この日の夜、脱走兵コーリャの女友達ソーニャ(食べ物がなく彼女は骨と皮)の家に泊まる

  8 日曜日(第3日目):鶏を1羽、手に入れる
 「鶏を飼っている爺さんがいる」との噂にもとづき爺さんのアパートを見つける。しかし爺さんは死んでいた。そばに少年がいて鶏1羽を抱えていた。私(レフ)とコーリャが鶏1羽を手に入れる。
 
  9 日曜日(第3日目)その2:卵を産ませるつもりの鶏は雄鶏

  10 月曜日(第4日目):ドイツ軍の前線の向こう側、ムガを目指す
 早朝、「ピーテル(レニングラード)には卵がない。ドイツ軍の前線の向こう側のムガへ行く。」と脱走兵コーリャが言う。ムガには集団家禽農場がある。

  11 月曜日(第4日目)その2:「森を行け。ドイツ野郎に道路はとられた。」
 ムガまでは50kmある。モスクワ線に沿って歩く。
 正午前、赤軍のレニングラード防衛陣地に着く。大佐の許可証を見て赤軍の軍曹が「パルチザンを組織するためだろう」と言う。そして「森を行け。ドイツ野郎に道路はとられた。」と付け加える。

  12 月曜日(第4日目)その3:レニングラード郊外にはドイツ軍の気配がない
 
  13 月曜日(第4日目)その4:将校の慰安のための少女4人
 夜が近づく。私(レフ)とコーリャ、二人とも外にいたら死ぬ。家を探す必要がある。
 雑種民族のロシア人は存在する価値がないとナチス。
 家が見つかり、女の子たちが4人いた。町中の男は全員射殺。他は逃げる。しかし容姿がきれいな少女は将校の慰安のため監禁される。

  14 月曜日(第4日目)その5:アインザッツ・グルッペン(特別行動部隊)
 アインザッツ・グルッペン(特別行動部隊)は共産主義者・ジプシー・知識人・ユダヤ人の殺害を任務とする。女の子4人はその将校たちの慰安婦である。
 彼女が逃げない理由:かつて逃げた14歳の少女ゾーヤは押さえつけられ、少佐アーベントロートによって、生きたまま鋸で足を切断され殺された。
 アインザッツ・グルッペンのこの地域の指揮官が少佐アーベントロートで。

  15 月曜日(第4日目)その6:パルチザンが襲撃しアインザッツ・グルッペンの将校6人を殺害

  16 月曜日(第4日目)その7:パルチザンは少佐アーベントロートを追う
 パルチザンのリーダーはコルサコフ、女射撃手がヴィカ。彼らは少佐アーベントロートを追っている。
 
  17 月曜日(第4日目)その8:ドイツ軍1人が殺されたらロシア人30人を殺す
 村々が焼かれ、180人のロシア人非戦闘員がドイツ軍に殺される。
 パルチザンたちが言う。「ドイツ軍は、兵士1人が殺されたら、ロシア人30人を殺す。しかし最後にファシストは悟る。そうしても戦争には勝てない。」と。

  18 月曜日(第4日目)その9:パルチザンたちが、その夜、猟師小屋で寝る

  19 火曜日(第5日目):ドイツ軍がパルチザンを攻撃
 ドイツ軍が猟師小屋を攻撃する。パルチザンはマルコフと女射撃手ヴィカだけ、また私(レフ)とコーリャが助かる。
 4人はドイツ軍が歩かせていた捕虜の列に紛れる。ところがマルコフが、捕虜の一人に「パルチザンだ」と告発され、ドイツ兵に射殺される。

  20 火曜日(第5日目)その2:文字の読める捕虜を皆殺し
 アインザッツ・コマンド(武装親衛隊)の将校が捕虜たちに、読み書きができるかたずね、ドイツ兵が機関銃で文字の読める捕虜を皆殺しにする。
 私(レフ)とコーリャ、またヴィカは文字が読めないふりをして助かる。

  21 火曜日(第5日目)その3:捕虜35人が小さな小屋で寝る

  22 水曜日(第6日目):親衛隊少佐にチェスで挑戦する
 マルコフを裏切った男(捕虜)がのどを切られて殺された。おそらくヴィカがやった。
 アインザッツ・グルッペン(特別行動部隊)のアーベントロート少佐を私(レフ)とコーリャ、またヴィカが発見する。
 コーリャが「少佐に伝えてくれ。」とドイツ兵に言う。
 「チェスの強い15歳の少年(レフ)がいる。クイーンなしでアーベントロート親衛隊少佐に勝てる。勝ったら3人を解放し卵1ダースをくれ!」と。

  23 水曜日(第6日目)その2:アーベントロート親衛隊少佐を殺し、卵12個を奪う
 わし(レフ)は靴にナイフを隠し、ヴィかは胸にナイフを隠す。
 アーベントロート少佐とのチェスの試合にわし(レフ)は勝つ。
 わし(レフ)はアーベントロート少佐とドイツ兵をナイフで殺す。その時、左手の指2本を失う。またヴィカが射殺されそうなところを救う。
 わし(レフ)とコーリャ、またヴィカの3人が卵12個を奪って逃走。

  24 水曜日(第6日目)その3:わし(レフ)とコーリャは、ヴィカと別れる
 ヴィカは秘密警察の一員。パルチザンには秘密警察が一人はいる。
 ヴィカがわし(レフ)に、「命を救ってくれて、ありがとう」と言った。そして、わしの姓名を聞いた。「レフ・ベニオフ」とわしは教える。
 わし(レフ)とコーリャを残し、ヴィカは去る。

  25 木曜日(第7日目):コーリャは死ぬ
 わし(レフ)とコーリャはピーテル(レニングラード)までもどる。ところが敵と間違えられ赤軍にコーリャは撃たれ出血多量で死ぬ。
 
  26 木曜日(第7日目)その2:卵12個をわし(レフ)はソ連秘密警察のグレチコ大佐に届け、銃殺を免れ自由となる

  27 その後:1942年1月&1945年8月
 2年後、1942年1月、600日に渡るレニングラード包囲戦が終わる。
 わし(レフ)は20歳になり軍に入る。ドイツが降伏。
 1945年8月、ヴィカが、わし(レフ)の家にやってきた。
 その後、祖父レフと祖母ヴィカが結婚する。

 《評者の感想》
 ほとんど架空の物語である。
 しかし生き残った者の物語だから、どんなに周りが死んでも生き残る。そうであるなら本当の物語。
 残虐なナチス親衛隊。ナチスによる非戦闘員の虐殺。人種主義理論がもたらす凄惨さ。
 他方、ソ連人あるいはロシア人パルチザンの戦いの論理も、冷酷。
 ナチスの人種理論は滅ぼさなければならない。野蛮なナチス・ドイツを倒さねばならない。戦争は、勝たねばならない。そう思わせるに至る。
 全体の印象として、映画のシナリオのような小説。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする