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宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『殺人鬼フジコの衝動』真梨幸子(マリユキコ)(1964生)、2008年、新潮文庫

2011-12-03 08:47:07 | Weblog
  はしがき
 今、この「はしがき」(2008年)を書いているのは「殺人鬼フジコ」の娘・美也子(妹)。この小説を書いたのは、フジコのもう一人の娘・早季子(姉)。小説の原題は『蝋人形、おがくず人形』(2005年)。つまり中味がない、何の値打ちもない人形のような自分という意味。
 今回、この早季子(姉)の小説が『殺人鬼フジコの衝動』と改題され2008年、美也子(妹)によって出版された。
 以下、小説の内容に入る。早季子(姉)が書いた彼女の母、藤子(=フジコ)の物語。(もちろんフジコは美也子(妹)の母でもある。)

  1 「ブス」の藤子、ホステス上がりの母、おごるのが好きな父
 森沢藤子(=フジコ)は小5、11歳。藤子は自分を「ブス」な女の子と定義する。
 藤子の父は、金を相当稼ぎ、部下たちにおごるのが好き。母はシルクのネグリジェを着るし、高い化粧品を買う派手好きな見栄っ張り。
 しかし、母は、娘の藤子とその妹の給食費をださない。体操着は姉妹で1枚しかない。
 母には「ホステスあがりのアバズレ」、「パチンコ狂いの整形女」の噂。

  1-2 小5の藤子に対する同級生Kくんのいじめ
 藤子(=フジコ)はある日、妹の体育の時間に妹に体操着を渡す。その日、シュミーズを着てくるのを忘れていた藤子はブラウスだけなので、乳首と乳房が男子に見えてしまう。
 男子たちが「おっぱい、おっぱい」と囃す。
 担任はいじめでなく、じゃれあいと見る。
 怒りと恥ずかしさで藤子は水のみ場で、小水を漏らす。それをKくんが目撃。以後、Kくんは「私を脅迫し呼び出し、脚を開かせ陰部にものを詰め込む」。
 さらにKくんが付き合う中学生に呼ばれ、裸で四つんばいにされ、サッカーボールのように蹴りまわされ、肛門に棒を差し込まれる。テレビと漫画の影響。
 私は「おがくず人形」、「食べたって美味しくない」、「夢も希望も持たない」と藤子。

  1-3 藤子(小5)への両親からの虐待
 藤子(=フジコ)は家でも虐待される。母は化粧品に何万もかけるのに、藤子や妹には金をかけない。しかし藤子の母は、娘たちを着飾らせたいときは、例えばクリスマスに、フジコにシンデレラのドレス、妹に天使の装いをさせる。
 父と母はしばしば喧嘩。父が母を殴る。整形した母の鼻が陥没。母が逃げ去ると父が藤子を、気を失うまで蹴る。妹は母と一緒にうまく避難する。

  1-4 フジコの殺人①:Kくん(踏切事故死)
 学校では男子が入れ代わり立ち代わり藤子(=フジコ)をけりに来る。罰ゲームのように女子は遠巻きにして眺める。
 藤子がターゲットになったのは「チツジョ」による。ガンジガラメの馬鹿馬鹿しい「チツジョ」。人間が馬鹿だから。
 藤子は仮病で早退。遅刻してきたKくんに発見される。「ズル(仮病)と先生に言いつける」とKくん。逃げる私を追いかけてくる。
 踏み切り上下線とも電車が来る。藤子は踏み切りを渡りきる。追いかけてきたKくんが電車にはねられる。「あいつが死んだ!」と藤子。
 もちろん藤子は、Kくんを殺したかった。今、藤子は主観的にKくんを殺したと思う。

  2 藤子の一家が皆殺しされる(S46、1971年):藤子(小5、11歳)のみ助かる
 母親が殺される。父親も殺される。藤子(=フジコ)の妹も殺される。藤子も首を切られ意識を失う。「川崎市一家惨殺事件」。
 殺人者が藤子に言う。「お前も所詮、母親のようにしか生きられない。カルマ(業)だ。殺してあげる。」と。
 「お母さんのようにはならない」と藤子。

  3 藤子(小5)、叔母の茂子に引き取られる
 森沢藤子(=フジコ)は、事件後、母親の妹・茂子に引き取られる。茂子はQ教団の信者。
 小5の藤子は新しい小学校に転校。藤子は一家惨殺事件のあと記憶を一部、失う。首には傷跡。
 藤子は両親の折檻にびくつく日々から解放される。茂子はかわいそうな藤子を保護する。自分の家に大切に住まわせる。叔父が「金、大丈夫なのか?」と尋ねると、茂子は「保険金がおりたから大丈夫!」と答える。
 
  3-2 藤子はクーコのグループに属す:転校した小学校にて
 藤子(=フジコ)は、クラスでクーコのグループの一員となる。クーコが次々と、物を藤子に要求する。ティーン雑誌、肉まん、アイドルのLPレコード。
 「おかちめんこだから、人に嫌われていじめ抜かれてはいけない。」と藤子。どうしようもない怒りを感じるが耐える。
 藤子が具合悪くなり、LPレコードをクーコにたまたま渡せなくなったとき以来、藤子はグループから追い出される。

  3-3 フジコの殺人②:コサカさんを絞殺
 藤子(=フジコ)はカンニングをした。それを委員長のコサカさんに見られる。後で「カンニングはだめよ」とコサカさんから言われる。
 藤子が日直のとき、クラスで飼っているカナリアの首が切断されていることを、藤子が発見する。自分のせいにされるといけないと思う。その時、黄色いマフラーをしたコサカさんがこちらを見ていた。
 分からないように藤子はカナリアを切り刻みゴミ捨て場に捨てる。ところが用務員に発見される。
 クーコがカナリアの餌に殺虫剤を混ぜたと先生から呼ばれる。クーコがやったとのうわさが広まる。
 ところが「先生のところへ行って謝ろう」とコサカさんが藤子に言う。藤子は思う。「カンニングは、前の日に休んでいてテストがあるのを知らなかったからだ。」「カナリアだって、すでに死んでいた。」「謝りに行ったりしたら、また、自分はひどい虐めにあう。」藤子は恐怖する。
 「その正しいことが人を追い詰めるんだ。」と藤子。
 石炭置き場で、藤子は黄色いマフラーでコサカさんを絞殺する。
 (ただしフジコの娘・美也子の「あとがき」のによれば、学校のカナリアを殺したのはコサカさんだった。)
 コサカさんの事件は通り魔の犯行とされる。
 藤子は自ら希望し「クラス代表」になり告別式でコサカさんへの「お別れの手紙」を読む。
 
  3-4 雑誌記者の推理
 しつこい雑誌記者が川崎市一家惨殺事件について「本当に何も覚えていないのか」と藤子(=フジコ)を疑う。また小坂恵美殺人事件についても藤子が犯人ではないかと疑う。
 (ただしフジコの娘・美也子の「あとがき」によれば、この雑誌記者は、惨殺事件の犯人が、コサカさんの母、小坂初代(Q教団の信者)であり、計画・扇動したのが叔母・茂子(Q教団の信者)であると考えていた。雑誌記者は後に、殺される。)

  4 「生徒代表」森沢藤子:中3、卒業式
 中3、卒業式、森沢藤子(=フジコ)は「生徒代表」で卒業生の言葉を読む。いろんな文章を継ぎはぎしただけなのに校長は目を潤ませる。「大人ってちょろい」と藤子は思う。
 藤子を預かる叔母・茂子が、喜ぶ。

  4-2 絶好調のフジコ:中1-3年
 フジコはクーコたちの仲間から離れ、小6の時、優等生の仲間になる。
 中1の時、文芸部へ。読書感想文で県の特別賞。「あの事件の生き残り」と注目され全国紙に載る。人の感想文の寄せ集め。本を読んでない。「大人ってちょろい」とフジコ。「器量も頭も良くなくても、要領が良ければ生きていける」と思う。
 中2でフジコは生徒会議長。クーコは悪い噂で、ひとりぼっち。
 コサカさんへの「お別れの手紙」(小5)以来、フジコの人生、好転。
 「中学で“いい子”になるのは簡単だけど、フルイにかけられた者が集まった高校では、存在が薄くなる。」と叔母・茂子(Q教団の信者)が言う。「あなたのお母さんは高校でただの人になって、悪い男とつきあってダメになった。」「男が、女の人生を狂わす。」

  4-3 高1のフジコ(16歳)、裕也(22歳)に結婚してほしいと言う
 中学2年の時、国立大学法学部3年の辻山裕也と出会う。資産家の息子。司法試験を狙う。フジコは裕也の彼女になる。裕也とフジコは会うたびに、セックスする。
 フジコがY女子高校に、特待生で入学。高1のフジコ(16歳)、裕也(22歳)に結婚してほしいと言う。

  4-4 フジコ、かわいくてお金もあるF学園の大月杏奈と友達になる
 高1の夏休み、フジコはデパートのアルバイト先で、大月杏奈と友達になる。杏奈はかわいくて、あこがれのF学園に在籍。
 フジコは叔母・茂子の家が窮屈で、杏奈のアパートの快適な部屋で、しばしば息抜きする。ただし犬の順位付けのように、フジコはいつも自ら進んで「従」となった。
 Q教団の信者の叔母・茂子は、フジコに「無闇に妬んだり恨んだり、あなたのお母さんのようにしちゃダメよ」と言う。

  4-5 杏奈が裕也とつきあう:フジコが二人を別れさせる
 裕也は大学4年の9月、大学をやめる。フジコの方は、「結婚するなら裕也くんと決めてる」と裕也に言う。
 フジコは、裕也に杏奈を紹介する。ところが、その後、杏奈と裕也がつきあい、セックスもしていたとフジコが知る。
 フジコが裕也を問いつめると、裕也がフジコなんかに「縛られたくない」、「うんざりだ」と言う。
 フジコは「ずっと友情のため、見下されることに甘んじていたのに、馬鹿にしないでよ!」と杏奈を憎む。「あんたに見下される女じゃない!人を殺したことだってある!」とフジコは思う。
 杏奈から「裕也と別れた」と、フジコに手紙が来る。杏奈は東京の大学に行くため予備校に通う。

  4-6 フジコ(高1)の殺人③:杏奈の首を絞め「とどめ」を刺す
 裕也が杏奈の首を絞める。杏奈が「別れる」、「もう会わない」と言ったからとのこと。「杏奈と結婚するつもりだったのに!」と裕也。
 「私は永遠に負け犬!」とフジコ、杏奈を憎む。
 まだ息があった杏奈の首を、あらためてフジコがしめる。「私がとどめを刺した」とフジコが裕也に言う。

  4-7 杏奈の死体をフジコがミンチにし下水に流す&フジコは妊娠している
 動揺する裕也。「ばれなきゃいいのよ!」とフジコ。
 さらに「もう私を裏切らないと約束して。私が裕也くんを守る!」「約束、破ったら自首して、裕也くんのことも全部、警察に話す。」とフジコ。
 「今月で私、16歳。結婚して!」「結婚して東京に行き、裕也くんの実家で親子3人、幸せに暮らす。」フジコが裕也に言う。
 フジコは妊娠している。フジコは「子どもを産む」と言う。
 「死体を切り刻んで捨てればわからない」と杏奈の死体をフジコがミンチにし、下水に流す。手伝わされた裕也は何度も吐く。
 「人の男を取ったから裁かれる。チツジョ!」とフジコ。

  5 フジコ(高1)、高校を中退し東京へ行く
 資産家のはずの裕也の家は今や破産し、新宿から電車で1時間以上離れた郊外の市営団地が住まい。
 笑う気になれないフジコ(今や19歳)を、「暗い嫁だ」と義父が責める。妊娠中、フジコは前歯がぽろりと1本落ちて、今は抜けたまま。
 美波(ミナミ)ちゃん(フジコ17歳の時の子)が泣くと、夜勤で昼寝る義父が「うるさい」と言う。
 「本当に裕也の子なの?」と義母。「うっせー、くそばばあ」とフジコが思う。
 義母は裕也に金を渡し、裕也はパチンコへ。「お前の好きにしろ」と裕也はフジコに言い、話にのらない。
 「このままでは駄目になる」とフジコ。荒れた肌、こけた頬、折れたままの前歯。

  5-2 フジコ(19歳):保険勧誘員となりアルバイトでホステス
 フジコ(19歳)はハローワークに求職に行くが、中卒・無資格では何の仕事も見つからない。
 保険勧誘員の小野田静香が、アパートへの引越し費用も保険料も出すからと言うので、フジコ、裕也の保険契約をし、自分はG生保に入社。
 フジコと裕也、美波(ミナミ)は、新しいアパートに引っ越す。
 フジコの保険勧誘員の給料は保険料の立替、ノベルティ(Ex. チケットの束)などで消える。フジコはホステスのアルバイトをする。
 裕也は働かない。金をフジコに無心する。美波の面倒は見る。裕也はギターを弾き始める。
 裕也はいらいらし「自首したい」と言う。ヒモみたいな男でも自首されたら大変とフジコ。
 保険の外交で歩き回る外は、暑い。裕也はクーラーの部屋。美波もクーラーの部屋。何で「私だけ働くの?」とフジコ。
 裕也の泣き言。「お前が邪魔しなけりゃ、杏奈といられた。」「杏奈が身を引いた。」と言う。さらに「一方的に父親にされた。」「子守でくたくた!」と裕也。
 「もう美波の子守をしなくていい!」とフジコは、2歳の美波を押入れに閉じ込める。

  5-3 所詮、この世は“顔”:フジコ
 裕也に、フジコは「ブサイク」と言われる。新人で美人の保険外交員は簡単に契約を取る。「所詮、この世は“顔”」とフジコは思う。
 「整形をすればキレイになれる」と言われる。

  5-4 美波が押入れで衰弱する
 菓子パンとおにぎりで押入れの中に入れっぱなしの美波の頭に虫がわく。美波が泣く。皮膚ごと毛が抜ける。
 「美波がずっと、ぐずってる」と裕也。「美波のことは、放っておいて!」とフジコ。押入れから出て来ようとする美波をフジコは殴り、口をガムテープでふさぐ。
 フジコは自分を虐待していた母親と違うのだということを証明するために、美波にキレイな服を着せる。しかし美波は軽く、背中がところどころ腐り始めている。
 フジコはホステスのアルバイトでさらに金を稼ぐため、ヘンシツシャの客に繰り返し「放尿」を見せ、毎回、何万円か受け取る。
 
  5-5 フジコ(19歳)の殺人④:裕也を死んだ杏奈のところに行かせる
 「耐えられない自首する」と裕也。そして「杏奈、ごめんな」と裕也。
 「杏奈のところ(死者の世界)に行けばいいでしょう」とフジコ。裕也を殺す。切り刻んでゴミ袋、4つに入れ捨てる。
 裕也は失踪したと、フジコが周囲に言う。

  5-6 フジコ(19歳)の殺人⑤:美波が押入れで死ぬ
 「ブスだからお母さんのようになってしまった」とフジコ。二重まぶたになる手術をする。
 手術を受け、1週間ぶりに押入れを空けると美波は死んで腐っている。フジコは美波を切り刻みポリ袋に入れる。
 フジコはアパートを引き払う。

  6 フジコ(20歳)の殺人:⑥鼻を「作り物」と言った客、⑦社長、⑧トオル
 フジコはホステスで稼ぐ。フジコの殺意が最近は簡単に点火する。
 客がフジコの鼻を見て「なんだ作り物か!」と言ったので、フジコがストッキングで男を絞殺。
 トオルにだまされジュース1杯で10万円を請求され売春させられる。トオルは「輪姦されて殺されるよりましだろう」と言う。
 トオルが、支払いを渋った客を脅すが、逆襲されトオルが逃げる。そのすきに再びフジコにのしかかってきた客。息が臭い。フジコの殺意が点灯する。ストッキングで男を絞殺。この男は社長で100万円を持っていた。フジコは、目と鼻をすでに整形している。「後は頬と顎。100万円あれば、それができる」とフジコが喜ぶ。
 フジコが、自分を騙したトオルも殺す。
 フジコが3人ともミンチにして捨てる。

  6-2 美容外科で整形:フジコ(20歳)
 フジコは美容外科で整形する。「今度こそ幸せになります」とフジコ。「人生は薔薇色のお菓子のよう」と歌う。

  7 フジコ(26歳):青年実業家・英樹と結婚
 『銀座の蝶たち』というテレビ番組に出るほど“藤子ちゃん”は美人ホステス。
 裕也の失踪から7年。失踪宣告が出る。
 フジコは青年実業家の英樹と結婚する。フジコはお姫様扱い。
 「人生は薔薇色のお菓子のよう」とフジコ。
 
  8 フジコ(33歳):旦那・英樹の会社が倒産し落ちぶれる
 フジコは落ちぶれる。旦那・英樹の会社が倒産した。それなのにフジコは未だに見栄を張り、マンションに住み化粧品を買う。
 化粧品のセールスウーマンは小坂初代(Q教団の信者)でコサカさんの母親。
 大叔母・茂子(Q教団の信者)もやってくる。
 フジコはいつも、自分を折檻する母親が「死ねばよい」と思っていた。だから一家惨殺事件の犯人は自分で、自分が父親・母親・妹を殺したのではないかとフジコは不安になる。「誰も責めやしないわ。忘れましょう」と茂子がフジコに言う。

  8-2 フジコ(33歳)の殺人⑨:美容のための30万円がほしいため
 フジコ、「30万円あればメンテして、整形した鼻、しわ、しみ、たるみを消せる」と思う。
 フジコ、美容院に行く。30万円がほしいため、美容師を絞殺して強盗。しかし5万円しかなかった。
 
  8-3 フジコ:早季子(小4)への虐待
 父親・英樹は金が大してないのに、部下に気前がいい。
 母親・フジコは見栄っ張り。上の娘・早季子(小4)は給食費が払えない。非難の眼差しが気に入らないとフジコが皮ベルトで早季子をたたく。早季子は、なかなか痛いといわない。フジコは早季子を憎む。
 ところが「痛い」と早季子が言うと、かわいそうになり、フジコは「お姫様のようなきれいな服」を買い早季子に着せる。

  8-4 フジコ(33歳)の殺人⑩:ブティックで服45万円がほしいため
 フジコ、ブティックで服を45万円買う。夜、閉店直前。店員が一人と分かると、フジコは払う金がないので店員を絞殺。

  8-5 フジコ(33歳)の殺人⑪:主婦を絞殺、財布を奪う
 かつてフジコにたかって飲み食いした主婦たちの一人に金を貸してほしいと頼む。「私におごらせておいて、そのお返しはないの?」とフジコ。「あなたが勝手におごっただけじゃない!」と主婦。「給食費を払いたい」とフジコ。「整形崩れの厚化粧の化け物」と主婦が言う。フジコは激怒し主婦を絞殺、財布を奪う。

  8-6 フジコ(33歳)の殺人⑫:夫・英樹を殺害
 フジコの夫・英樹が「職場に警察が来た。お前、人を殺したのか?」と言う。
 フジコは思う。「私を幸せにするって言ったのに、今は生活費も渡さない。だから人を殺すしかなかった。あんたや、みんなや、世間が私を追いつめた。」と。
 「私を責めるやつは死ねばいい!」とフジコが置き時計で英樹の頭を殴り殺害。

  あとがき-1 母・フジコから包丁で首を切られる&Kくんの踏切事故死:早季子(小4)
 早季子(小4)は家に帰ったとき、母・フジコから包丁で首を切られ殺されそうになる。フジコは非難の眼差しを自分に向ける早季子(小4)を普段から嫌い虐待していた。
 この日、早季子は自分をいじめるKくん(※フジコの時の踏み切り事故死のKくんと別人)に追いかけられていた。Kくんは踏切で電車にはねられ死ぬ。
 その直後、早季子は母から包丁で襲われた。
 
  あとがき-2  Q教団の広告塔となる=「仮の人格」で自分を支える:早季子(小4)
 早季子は大叔母・茂子(Q教団の信者、母親フジコの妹)に引き取られる。Q教団の宗教が早季子の破壊寸前の心を救う。
 悪い見本=「反面教師」である母親・フジコを、姉・早季子は、直視する。「お母さんと同じ道を歩まないように、お母さんが歩んだ道を知っておく必要がある」と早季子。
 早季子は「殺人鬼フジコ」の娘としてQ教団の広告塔となる。Q教団による彼女の体験談の講演は、大盛況。
 フジコについての小説を書くよう早季子に要請したのは、Q教団。
 早季子もは「人形」、自分がなく「仮の人格」で自分を支える「おがくず人形」。
 
  あとがき-3 フジコ(33歳):1993年、逮捕
 フジコ(33歳)は1993年、逮捕された。逮捕から7年後、2000年にフジコ(40歳)に死刑判決。フジコの死刑執行が2003年。
 死刑執行の年、早季子はQ教団から依頼された小説を書くと決意。
 翌年、早季子は自殺未遂。その後遺症に苦しみながらも2005年、早季子はフジコについての小説『蝋人形、おがくず人形』を書き終わる。
 しかし早季子は小説をQ教団に渡さず、妹の美也子に渡す。彼女は、フジコが首を切られた一家惨殺事件にQ教団が関与したと気付いたため。
 今回、2008年、美也子が早季子の小説を出版する。『殺人鬼フジコの衝動』に題名を変えた。

  あとがき-4 周囲が望む人格(=仮面)を演じる:フジコ
 フジコは両親に虐待され、学校でいじめられ、自分を支える根拠がなかった。中身は空っぽ。彼女が言うとおり。周囲だけを気にして周囲が望む人格(=仮面)を演じる。そのようにして自分を支えるしかなかった。
 フジコは「人形」、自分がなく「仮の人格」で自分を支える「おがくず人形」。
 しかも彼女は美人でなかった。自分を「ブス」だと自己嫌悪していた。

  あとがき-5 一家惨殺事件の謎解き:フジコの娘(=早季子の3歳下の妹)・美也子の推理
   (1) 犯人は小坂初代(フジコの同級生のコサカさんの母親):Q教団の信者
 犯人はおそらく化粧品のセールスウーマン、小坂初代(フジコの同級生のコサカさんの母親)。初代は、藤子の父親と不倫。三角関係のもつれから藤子の一家を皆殺しにしようとした。ちなみに小坂和代は、以前に愛人の殺害で7年間服役。

   (2) 計画者はフジコの妹・茂子:Q教団の信者
 藤子の母親の妹・茂子はQ教団の信者。茂子が近所に住む小坂初代をQ教団に勧誘。化粧品のセールス先として、藤子の母親を紹介したのは、おそらく茂子。
 Q教団の信者・茂子は藤子の母親(茂子の姉)の自堕落を責める。藤子に自堕落になるな、母親のようになるなと言い続ける。
 藤子の両親の死によって、茂子は3000万円の生命保険金を受け取る。茂子が受取人になっていた。生命保険金の大部分をQ教団に寄付する。
 川崎市一家惨殺事件の計画者は茂子、そそのかされ実行したのが小坂初代。

   (3)  雑誌記者が殺される:Q教団の組織的犯行
 一家惨殺事件を追求していた雑誌記者がQ教団によって殺される。

   (4) フジコの娘・早季子:Q教団に殺される
 このフジコの物語『殺人鬼フジコの衝動』(原題『蝋人形、おがくず人形』)を書いたフジコの娘・早季子が小説を書いた後すぐに死ぬ:2005年。Q教団に殺された。

   (5) フジコの娘・美也子(早季子の妹):Q教団に殺される
 2008年に出版された姉・早季子の小説『蝋人形、おがくず人形』(=『殺人鬼フジコの衝動』)で、「あとがき」に、茂子と初代に会って問いただしたいと描いた美也子(早季子の妹)も1ヵ月後、Q教団に殺される。

   (6) 学校のカナリア殺しの犯人:コサカさん
 なお化粧品のセールスウーマン、小坂初代は娘・恵美(フジコの同級生のコサカさん)を日常的に虐待していた。そのフラストレーションから恵美(コサカさん)は小動物を普段から嬲り殺すなど虐待。学校のカナリアを殺したのも恵美(コサカさん)だった。

  《評者の感想》
   1 両親からの虐待・同級生からのイジメ:フジコの殺人①
 フジコはかわいそう。両親から虐待される。
 しかもその虐待が、同級生にイジメの切っ掛けを与える。体操着がなかったためフジコの乳房・乳首が見えてしまう。
 さらに小水を漏らしたのを同級生のKに見られ、以後、性的虐待をKから受ける。
 Kが死んで彼女は救われたと思う。これはあきらかに踏切事故死。フジコに責任はない。しかし、フジコが主観的に自分の責任と思う点がいじらしい。

   2 藤子の一家が皆殺しされる:フジコは「自分が犯人でないか」と不安になる
 藤子の一家が皆殺しされる。藤子(小5、11歳)も首を切られる。
 フジコは記憶を一部失う。しかし事件の衝撃から、フジコは「自分がやったのではないか」と不安になる。
 かわいそうなフジコ!彼女は自分を虐待する両親を憎んでいたので、自分がやったのではないかと不安になった。

   3 一家惨殺事件:Q教団の信者、フジコの叔母・茂子の陰謀
 一家惨殺事件の実行者は小坂初代で、フジコの父親との不倫による三角関係のもつれ。
 Q教団の信者でフジコの叔母・茂子が、生命保険3000万円ほしさに小坂初代(Q教団の信者)をそそのかした可能性がある。生命保険金の大部分はQ教団に寄付された。

   4 コサカさんを殺さないなら、フジコは家出するか、自殺するしかなかった:フジコの殺人②
 コサカさんの事件は複雑。
 「謝りに行ったりしたら、また、自分はひどい苛めにあう。」とのフジコの恐怖は当然。「その正しいことが人を追い詰めるんだ。」とのフジコの怒りも当然。
 しかも、後に分かるが、学校のカナリアを殺したのはコサカさんなのに、彼女はそれを隠す。コサカさんが、フジコを追い詰めた。
 石炭置き場で、藤子は黄色いマフラーでコサカさんを絞殺する。
 悲劇としか言いようがない。
   4-2
 もしフジコがコサカさんを絞殺しなかったら彼女は行き場がない。まず、帰るべき家がない。家では両親から殴られ虐待されるだけ。また学校には行けない。激しい虐めにあうだけ。現実的選択としては、フジコは家出するか、自殺するしかない。自殺しなければ警察、児童相談所に保護されるしかない。
   4-3
 常識的に考えると、小学生がマフラーで簡単に人を殺せるだろうか疑問である。
 よって、ここから先は蓋然性の小さい作り話。

   5 杏奈殺しは殺人鬼的な嫉妬・怒り・ひがみ:フジコ(高1)の殺人③
 高1のフジコ(16歳)が裕也(22歳)に「結婚してほしい」と言うのは短絡的だがありうる。
 フジコ(高1)が杏奈の首を絞めとどめを刺した時、フジコの動機は嫉妬。さらに自分がブスなので、美人の杏奈を立てたのに、その気遣いが裏切られたことへの怒り。杏奈はこの事情を知らないので、フジコのひがみ。
 嫉妬・怒り・ひがみが、殺人にまで至るのは、やはり殺人鬼的。

   6 裕也を殺した動機は殺人鬼的な嫉妬:フジコ(19歳)の殺人④
 フジコは「殺人を、自首してばらす」と裕也を脅し、結婚する。脅されて結婚した裕也とうま行くはずがない。二人は喧嘩ばかりする。
 裕也は杏奈と結婚したかった。フジコがその邪魔をした。裕也が杏奈のことばかり言うので、嫉妬からフジコが裕也を殺す。
 普通、嫉妬だけで人を殺さないから、フジコは殺人鬼的である。

   7 フジコの価値観・倫理観:女は“顔”&殺人・窃盗も「わからなければ、いい」
 「所詮、女は、この世は“顔”」とフジコは思う。彼女は美容整形する。彼女を支えるのは「美人」であることだけ。
 また「わからなければ、いいのよ」と殺人・窃盗をするフジコ。

   8 フジコと裕也の無知、不仲、裕也の非協力が原因で娘・美波が押入れで死ぬ:フジコ(19歳)の殺人⑤
 保険外交員とホステスで金を稼ぐフジコ。裕也はただのひも。
 2歳の美波は菓子パンとおにぎりで押入れの中に入れっぱなし。美波が泣くと、フジコは殴り、口をガムテープでふさぐ。
 「ブスだからお母さんのようになった」とフジコ。二重まぶたになる手術をする。手術を受け、1週間ぶりに押入れを空けると美波が衰弱死し腐っている。フジコは美波を切り刻みポリ袋に入れる。フジコはアパートを引き払う。
 フジコは幼児虐待をしているとの認識がある。しかし彼女はどうしていいかわからない。夫は協力しない。
 父母の無知、父母の不仲、夫の非協力が子どもへの虐待・死を招いた。

   9 フジコの殺意が簡単に点火する:フジコ(20歳)の殺人⑥⑦⑧
 フジコはホステスで稼ぐ。フジコの殺意が最近は簡単に点火する。
 フジコの鼻を見て「なんだ作り物か!」と言った客を絞殺。フジコにのしかかってきた客の息が臭いので絞殺。フジコ をだまして無理矢理売春させたトオルを絞殺。
 普通、こんなに簡単に人を殺さないし、物理的にも殺せない。作り話

   10 落ちぶれたフジコは見栄・生活のため金がいる:フジコ(33歳)の殺人⑨⑩⑪
 フジコは整形手術で驚くほどきれいになり、青年実業家・英樹と結婚。お姫様のような生活。ところが旦那・英樹の会社が倒産し落ちぶれる。それなのにフジコは未だに見栄を張り、マンションに住み化粧品を買う。
 美容ための30万円がほしいため、美容師を強盗殺人。
 ブティックで服45万円がほしいため強盗殺人。
 かつてフジコにたかって飲み食いした主婦たちの一人に「給食費を払いたい」ので金を貸してほしいと頼むが、断られる。さらに「整形崩れの厚化粧の化け物」と言われ、フジコは激怒し主婦を絞殺。財布を奪う。
 普通、こんなに簡単に人を殺さない。作り話。ただし主婦の言葉にフジコが激怒するのは当然。

   11 夫・英樹を殺害しなければならなかった悲劇:フジコ(33歳)の殺人⑫
 フジコによる夫・英樹の殺害は、フジコの人生のいわば総括。
  (a)
 夫に向けて言う。「私を幸せにするって言ったのに、今は生活費も渡さない。」そうフジコが夫を責める気持ちは、同情して良いと思う。
 フジコは運に恵まれない。青年実業家・英樹の会社が倒産しなければ、たとえ、英樹が仮に浮気をしようと、フジコは見栄も張れたし美容にもお金を掛け、友人たちにおごって気前よく一生を過ごせたかもしれない。
 英樹の会社が倒産し、フジコは不運でかわいそう。
  (b)
 「だから人を殺すしかなかった。」とフジコが言うのは、しかし飛躍。見栄・生活のため金がほしいからといって、殺人が正当化されない。
  (c)
 フジコは英樹に言う。「あんたや、みんなや、世間が私を追いつめた。」これは半分は確かに、正しい。
 実際、フジコの運命は苛酷だった。両親による児童期のひどい虐待。小学校での同級生によるひどい虐めと性的虐待。さらに両親と妹が刃物で惨殺され自分は記憶を一部喪失し、フジコの精神が危機にある。
 フジコが、人の顔色をうかがい人に要求される「仮面」を演じ、自分を支えるのは当然。
 不幸の原因を自分が「ブス」であるためとし、ただひたすら、「美人」になること、つまり美容整形を受けることで、この不幸から逃れようとするフジコの気持ちも、当然。
 しかし人を殺す権利は、フジコにない。
 だが彼女は殺した。フジコの「衝動」が原因。作り話的なところもあるが、フジコが「衝動」ゆえに殺人鬼的となることは、あり得る。
  (d)
 最後のフジコの殺人は、何という悲劇!「私を責めるやつは死ねばいい!」とフジコが置き時計で英樹の頭を殴り、殺害。フジコを一度、世界で最も幸せにしてくれたかつての青年実業家を、フジコは自分の手で殺した。

   12 Q教団信者の茂子は、自己欺瞞的に狂っている
 フジコに悲劇をもたらした一家惨殺事件。その計画者はフジコの母親の妹・茂子だった。そもそも彼女は姉(=フジコの母親)を倫理的に批判していた。
 茂子は、Q教団への3000万円の寄付のため、保険金殺人という計画を立てた。異常な犯罪。茂子はQ教団のために献身的に働くが、自分の行為の犯罪的意味がわからない。茂子は、Q教団信者として、自己欺瞞的に狂っている。
 さらにQ教団が組織的に、フジコの娘・早季子を宣伝のため利用する。「殺人鬼フジコ」の娘の宣伝的価値が、Q教団によって活用される
 一家惨殺事件の計画者が茂子だと知ったフジコの娘・早季子、さらに、その妹・美也子が、ともにQ教団に、殺される(推定)。
 雑誌記者の死、フジコの娘・早季子、さらに、その妹・美也子の死に、Q教団が組織的に関わったと推定できる。茂子一人では、このように的確に殺人できないから。
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