缶詰blog

世界中の缶詰を食べまくるぞ!

缶詰のある風景『蛇』

2008-12-21 13:07:00 | 連載もの 缶詰のある風景

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 ストーブの上では、鍋の水が豆缶のまわりで、はげしく沸騰していた。フィリップス博士は大きなピンセットで豆缶を引きあげ、缶をあけて、豆をガラス皿にうつした。食べているあいだも彼はテーブルの上のヒトデを見まもっていた。ヒトデの突き出た腕のあいだから乳色の液体のしずくがにじみ出ていた。彼は急いで豆をうのみにした。
 ジョン・スタインベック『蛇』訳/大久保康雄

 不穏な予感を感じさせるこの光景、スタインベックの短編『蛇』の中の一文である。
 しかし読みすすむうちに、突如として奇異な女性が登場する。
 この女性が博士に依頼する内容は、どこか人をぞっとさせるものだ。そのことを考えると、博士の実験行為は残酷とはいえ、純粋に学問的な欲求に基づいたものなのだと妙に納得してしまう。ちょいと不思議な小説ではある。
 そこで本日は“豆缶”にご登場願うことになった。
 知人からいただいた英国土産、ハインツのベイクド・ビーンズなのだ。



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 イージーなプルタブを引っぱって開缶。
 このぬるっとした、いかにも糖度の高そうなトマトソース。缶詰好きの読者諸賢には見慣れたものでありましょう。
 英国ハインツ社製とはいえ、ハインツはもともと米国創業の会社。となれば、そこの缶詰商品のトマトソースが甘いのはこれ、いうを待たない。米国製の缶詰の大半は、とにかく甘いのだ。
(ハインツのケチャップは決して甘い味付けではないのだけど)



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 さっ、小説の風景を再現してみよう。
 缶詰の紙ラベルを取りさって、鍋で煮立てる。
 いつも思うのだけど、ラベルを取ったあとの缶の佇まいが実に美しい。地のステンレスが輝いている。



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 かくのごとし。
 作中では「豆をガラス皿にうつした」となっているが、お話の舞台は実験室。
 ということはこんな気取った皿ではなく、何か実験でも使用するような皿を使ったのかもしれない。
 ともあれ、スプーンでひと匙すくって、いただいてみよう。
 むっ。やはり、いつものお味。
 すなわちハインツのケチャップに砂糖をまぶし、黒胡椒を足したような風味である。
 この味は同社の代表作「ポーク・アンド・ビーンズ」缶にも共通している。“アメリカの味”といってもいいと思う。
 この豆缶は、屋内で食べるのは似合わない。
 野外に持ち出し、焚き火で直に温めて、好みの調味料を振りかけて食べるのがもっとも適していると思う。
 冴えた月が昇り、さらに冷えこみの増した川岸。
 焚き火にあたっているすねや顔だけが熱く、背中が石のように冷たい。
 炭火のわきに置いた豆缶が、ふつふつと煮えたぎっている。枝で引き寄せ、ケチャップとタバスコを振りかける。皮の手袋でつかんで、大きな木の匙ですくって、一口...。
 そうなのだ。こうした甘い缶詰も、野外では実に美味いものなのだ。合掌。




 内容量:200g
 原材料名:豆(51%)、トマト(33%)、水、砂糖、塩、調整とうもろこし粉、酢、スパイス類、ハーブ類
 原産国:英国