「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」 サントリー美術館

サントリー美術館
「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」
9/19〜11/11



サントリー美術館で開催中の「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」の報道内覧会に参加してきました。

花見の名所として知られる、京都・伏見の醍醐寺には、真言密教の聖地として、密教に関する数多くの美術品が伝わってきました。


重要文化財「如意輪観音坐像」 平安時代・10世紀 *全期間展示

思わず一目惚れしてしまいました。冒頭にあるのは、醍醐寺を開いた聖宝が草庵を結んで祀った「如意輪観音坐像」で、長らく特別な信仰を集めてきました。頭を僅かに右へ傾け、右手を頬に添えては、思惟の相を示していて、実に優美に座っていました。まるで全身から力を抜いてリラックスしているようで、どこか寛いでいるような姿に見えるかもしれません。


国宝「五大尊像」 鎌倉時代・12~13世紀 *展示期間:9/19~10/15

驚くほど迫力のある仏画が待ち構えていました。それが不動明王を中心に、東西南北の四天王を加えた「五大尊像」で、いずれも赤々と燃え上がる炎の光背を従え、忿怒の形相を表していました。火炎の赤や、着衣の截金の紋様が、かなり良く残っていて、おおよそ鎌倉時代の古い作品とは思えませんでした。


国宝「五大尊像」 鎌倉時代・12~13世紀 *展示期間:9/19~10/15

鮮やかな細部の色彩はもとより、手足を振り上げながら、四方へと伸ばす四天王の動きのある表現も見どころで、実在感もあり、その力感に思わず後ずさりしてしまうかのようでした。


重要文化財「五大明王像」 平安時代・10世紀 *全期間展示

この五大明王を立体化した、木彫の「五大明王像」も力作でした。やはり手足の豊かな動勢表現を特徴としていて、特に「軍荼利明王」などは、それこそ見る者を威嚇するように、前へ飛びかかるようなポーズを見せていました。なお、当初の5躯が揃う五大明王としては、京都の当時講堂像に次ぐ古作とされています。


重要文化財「不動明王坐像」 快慶作 鎌倉時代・建仁3(1203)年 *全期間展示

快慶の「不動明王坐像」も優れた仏像で、真に迫る忿怒の相でありながら、どことなく高い気位を漂わせていました。快慶は醍醐寺と関係も深く、三宝院本尊の弥勒菩薩坐像のほか、記録では下醍醐の五道大臣などを造仏したと伝えられています。

さらに仏像の優品はこれだけに留まりません。上醍醐薬師堂の本尊である「薬師如来および両脇侍像」もハイライトの1つでした。醍醐寺を創建した聖宝によって造り始められた作品で、堂々たる体躯をした中尊は、端正でかつ重厚感がありました。また両脇の像は、奈良時代の作品を意識したとも言われていて、ともに10世紀を代表する仏像として知られています。


国宝「薬師如来および両脇侍像」 平安時代・10世紀 *全期間展示

「薬師如来および両脇侍像」は、ちょうど4階から3階へと至る階段の吹き抜けに展示されていて、仏像の上から見下ろすように鑑賞出来るのも、興味深く感じられるかもしれません。下に降りて見上げると、像高約1メートル70センチよりも大きく映り、その威容に改めて感服するものがありました。少なくとも私自身、サントリー美術館でこれほど大きな仏像を見たのは、初めてだったかもしれません。


重要文化財「三宝院障壁画 竹林花鳥図(勅使の間)」 *展示期間:9/19~10/15

障壁画や屏風絵にも見応えがある作品が少なくありません。うち三宝院の「竹林花鳥図」は、右に太い竹を配し、左に鳥がいる水辺の光景を描いた障壁画で、長谷川派の特色が見られると指摘されています。また同じく障壁画の「柳草花図」は、一面に柳と葉が広がっていて、枝は曲がり、葉も左へとなびいていました。緩やかに吹く、風の気配を感じ取れるのではないでしょうか。


「松桜幔幕図屏風」 生駒等寿筆 江戸時代・17世紀 *全期間展示

生駒等寿の「松桜幔幕図屏風」は、秀吉の家紋である五七桐紋の幔幕が横へ連なっていて、左手には上から花をつけた桜の木が枝を伸ばしていました。言うまでもなく、秀吉の「醍醐の花見」を意識して描いたことは間違いありません。


「金天目および金天目台」 安土桃山時代・16世紀 *全期間展示

その秀吉が、醍醐寺第80代座主の義演に送った、黄金の天目茶碗も目を引きました。義演が秀吉の病気平癒のために、加持祈祷を行った褒美とされていて、秀吉の黄金趣味の一端を伺うことも出来ました。なお義演は、戦乱で荒廃した醍醐寺の復興に尽力した人物で、同寺に伝わる古文書類などを書写して整理しました。

最後に展示替えの情報です。会期に8つに分かれていますが、主に前後期を境にして作品が入れ替わります。

「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」(出品リスト
前期:9月19日(水)〜10月15日(月)
後期:10月17日(水)〜11月11日(日)

リストを見ても明らかなように、入れ替えが多く、ほぼ前後期を合わせて1つの展覧会と言っても良いかもしれません。


またこの後、巡回予定の九州国立博物館のみに公開される作品も存在します。その一方で、サントリー美術館のみの出展作品もあります。*九州国立博物館の会期:2019年1月29日(火)〜3月24日(日)


「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」会場風景(サントリー美術館)

ケースなしの露出展示も少なくなく、より臨場感のある形で鑑賞することが出来ました。これほど醍醐寺の諸仏を近くで見られる機会など、現地に出向いても叶わないかもしれません。


11月11日まで開催されています。おすすめします。

「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:9月19日(水)〜11月11日(日)
休館:火曜日。但し11月6日は開館。
時間:10:00~18:00
 *金・土および9月23日(日・祝)、10月7日(日)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。作品は全て京都・醍醐寺蔵。
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「原安三郎コレクション 小原古邨展」 茅ヶ崎市美術館

茅ヶ崎市美術館
「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」
9/9~11/4



茅ヶ崎市美術館で開催中の「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」を見てきました。

1877年(明治10年)に金沢に生まれた小原古邨は、海外への輸出を踏まえた版下絵を描き、花鳥風月を表した木版花鳥画を制作しては、特に海外で人気を博しました。

その小原古邨の木版画が茅ヶ崎に大集結しました。総出展数はゆうに230点(前後期で全点入れ替え)にも及び、その全てが実業家で、広重や北斎などのコレクターとしても知られた原安三郎のコレクションでした。なお原の浮世絵コレクションは、2016年に全国を巡回した「原安三郎コレクション 広重ビビッド」でも一部が公開されました。いずれも状態が良い作品ばかりで、鮮やかな色彩は、まだ記憶に新しい方も多いかもしれません。


小原古邨「桜に烏」 明治後期

まさに春夏秋冬、春から展示がはじまりました。「桜に烏」は、おそらく夜の闇の中、桜の枝にとまって羽根を休める烏を表した作品で、写真では分かりにくいものの、墨の濃淡を用い、羽根の質感を細かに再現していました。


小原古邨「枝垂れ桜に燕」(部分) 明治後期

華やかなのが、「枝垂れ桜に燕」で、まだ蕾の目立つ枝垂れの枝に、2羽の燕がとまっていました。そして燕が人懐っこく見えるのも興味深いところで、まるで笑うようにこちらを見ていました。


小原古邨「芥子に金糸雀」(部分) 明治後期

夏では「芥子に金糸雀」が風雅ではないでしょうか。瑞々しい紫の色の芥子に黄色のカナリアがとまっていて、芥子の花の蕊や、葉脈、それに茎のとげなどもリアルに描いていました。またカナリアは鳴いているのか、嘴を開いていました。こうした植物における写実性も、古邨の魅力と言えるかもしれません。


小原古邨「百合に黒揚羽」(部分) 明治後期

「百合に黒揚羽」も魅惑的な一枚で、うっすらと黄色を帯びた百合に、黒い揚羽蝶が蜜を吸いにやって来ていました。やはり百合の花には透明感があり、木版というよりも、まるで絵画を前にしたような質感も感じられました。


小原古邨「燕と蜂」 明治後期

構図に動きを伴うのも、古邨の特徴であるかもしれません。一例が「燕と蜂」で、一匹の蜂を、二羽の燕がほぼ垂直に飛来して仕留めようとする姿を描いています。この数秒後に、蜂は捕らえられてしまうのかもしれません。一瞬の出来事を画面に表現していました。


小原古邨「雨中の桐に雀」(部分) 明治後期

秋の「雨中の桐に雀」に惹かれました。黒い線で示された雨の中、桐に雀が3羽とまっていて、いずれも丸っこく、まるでぬいぐるみのように可愛らしく見えました。古邨は確かに「西洋画風の写実性」(解説より)を伴っていますが、必ずしも写実一辺倒ではありませんでした。


小原古邨「大鷹と温め鳥」(部分) 明治後期

冬では何と言っても「大鷹と温め鳥」が忘れられません。雪を抱いた木の上に一羽の鷹がいて、その羽の合間にもう一羽の小さな鳥がいました。これは鷹などの猛禽類が小鳥を捕え、寒い一晩を足で温めるという「温め鳥」を表していて、鷹匠などに伝わる伝承でもあるそうです。微笑ましい姿を見せていました。


小原古邨「枝垂れ桜に雉」(部分) 明治後期

ともかく古邨の描く鳥や動物は、どれも愛おしく、時に懐っこいものばかりでした。また花の中の毛虫を啄もうとする鳥や、水面越しにうっすらと映る鳥など、場面、言い換えれば構図にも工夫がありました。


小原古邨「崖上の鹿」(部分) 明治後期

原安三郎の古邨コレクションが一括して紹介されることはもとより、そもそもこれほどのスケールで古邨画が公開されたこと自体、初めてだそうです。お気に入りの一枚を見つけるのには、さほど時間もかかりませんでした。


小原古邨「撫子に鷭(ばん)」(部分) 明治後期

展示替えの情報です。はじめにも触れましたが、前後期で作品は全て入れ替わりました。

「原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」 
前期:9月9日(日)~10月8日(月・祝)
後期:10月11日(木)~11月4日(日)

10月11日より後期展示に入りました。なお前期のチケットを提示すると、後期の観覧料が200円引きになります。(本エントリは、全て前期展示の出展作品について書いています。)


小原古邨「鳴子に雀」(部分) 明治後期

10月7日には、NHKEテレの「日曜美術館」でも特集が放送されました。翌週の14日には再放送も予定されています。

Eテレ日曜美術館「生き物のいのちを描く~知られざる絵師 小原古邨~」
放送日:10月7日(日)午前9時00分~午前9時45分
再放送:10月14日(日)午後8時00分~午後8時45分
http://www4.nhk.or.jp/nichibi/


小原古邨「桜吹雪に子猿」(部分) 明治後期

国内ではあまり知られて来なかった古邨ですが、今回の展覧会を切っ掛けに、再評価の機運も高まるかもしれません。私にとってもまた一人、心惹かれる版画家に出会いました。



会場の茅ヶ崎市美術館は、JR線の茅ヶ崎駅南口より歩いて7~8分ほどの「高砂緑地」の内に位置します。松林が生い茂る独特な景観をなしていて、この緑地こそ、かつて原安三郎の別荘地でもありました。


古邨のニュアンスに富んだ色調は写真では収まりませんが、全ての作品の撮影も出来ました。(スマホのシャッター音、フラッシュ、長時間の撮影は不可。)

「小さな命のきらめく瞬間 小原古邨の小宇宙/青月社」

11月4日まで開催されています。おすすめします。*写真はいずれも中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション)

「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」 茅ヶ崎市美術館@chigasakimuseum
会期:2018年9月9日(日) ~11月4日(日)
 *前期:9月9日(日)~10月8日(月・祝)後期:10月11日(木)~11月4日(日)
 *前期・後期で全点入れ替え
休館:月曜日(ただし9月10日、17日、24日、10月8日は開館)、9月18日(火)、25日(火)、10月9日(火)、10日(水)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(600)円、大学生500(400)円。
 *高校生以下、市内在住65歳以上は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45
交通:JR線茅ヶ崎駅南口より徒歩約8分。
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「狩野芳崖と四天王」 泉屋博古館分館

泉屋博古館分館
「狩野芳崖と四天王―近代日本画、もうひとつの水脈」
9/15~10/28



泉屋博古館分館で開催中の「狩野芳崖と四天王―近代日本画、もうひとつの水脈」を見てきました。

近代日本画の父と言われる狩野芳崖には、晩年に師事された4人の高弟がいました。

その一人が、福井に生まれ、岡倉天心の甥である岡倉秋水でした。秋水は、図画教育に従事し、師を顕彰するために遺墨展を開催しては、作品の鑑定も行いました。「慈母観音図」は、まさに芳崖作の写しで、装身具の部分などはより立体的に表されていました。

そして二人目が、岐阜の大垣に生まれ、東京美術学校に入門するも、自らを「仏画師」と称しては、全国の寺院を歩いた高屋肖哲でした。生涯を通して観音像を描き、高野山にも参籠しました。おそらく旅先で描いたのか、山を細かにスケッチした「妙義山地取図」も印象に残りました。

続くのが、関宿藩士の子で、東京美術学校の助教授も務めた本多天城でした。大正以降はあまり名を残さなかったものの、一時は文展に入選するなどして活動し、山水画を得意しました。


本多天城「山水」 明治35年 川越市立美術館 *通期展示

その本多に力作がありました。まさに「山水」で、高い松林の向こうで、霞に覆われてそびえ立つ山々の姿を、鳥瞰的に描いていました。手前の松は細かい線で表している一方、後景の山々は朧げに示されていて、その対比も効果的に映りました。渓谷には白く波打つ水も流れていて、人里離れた渓谷を、雄大に表現していました。

福井に生まれ、東京美術学校に入学するも、後半生を本草学の研究に傾倒した岡不崩も、芳崖の門下の一人でした。学者でもあった岡は、多くの著作も残し、植物画としても正確さを持つ花鳥画を得意としました。



その力量は「群蝶図」からしても明らかでした。色とりどりの草花が並ぶ中、多くの蝶が舞っていて、いずれの植物も写実的でした。他にも「朝顔図説と培養法」における朝顔のスケッチも魅惑的で、実のところ私自身、芳崖の四天王のうちで最も惹かれたのが岡でした。


狩野芳崖「伏龍羅漢図」 明治18年 福井県立美術館 *前期展示

一方で、師の芳崖の作品も、点数こそ少ないものの、力作が揃っていました。うち「神仙愛獅図」は、西洋の聖人のような人物が、獅子を前に座る光景を描いていました。また「獅子図」も充実していて、芳崖はイタリアの曲芸団が来日した際、神田で実際に見たライオンをスケッチして制作しました。ほかにも橋本雅邦の作品も出展されていて、水辺の前で、彼方を見やるように西行が立つ「西行法師図」にも惹かれました。夕景を示すのか、画面はややオレンジ色に染まっていて、金砂子によって明かりも表現されていました。


菱田春草「春色」 明治38年 豊田市美術館 *前期展示

ラストを飾るのが、雅邦の四天王である、横山大観、下村観山、菱田春草、西郷弧月で、同じく日本美術院の画家の木村武山の作品とともに展示されていました。春草の「海辺朝陽」は、朦朧体の様式をとっていて、朝陽に包まれた海辺の景色を、淡い光と色彩で包み込むように描いていました。その茫洋たる景色は判然とせず、どこか抽象性を帯びていると言っても良いかもしれません。



会期の情報です。前後期で相当数の作品が入れ替わります。

「狩野芳崖と四天王―近代日本画、もうひとつの水脈」(出品リスト
前期: 9月15日(土)~10月8日(月・祝)
後期:10月10日(水)~10月28日(日)


既に後期展示に入りました。狩野芳崖の三大名画、「悲母観音」、 「不動明王」、「仁王捉鬼図」も出揃いました。

いかんせんスペースに限界がありますが、知られざる芳崖の門下の画家を紹介する好企画ではないでしょうか。



10月28日まで開催されています。

「狩野芳崖と四天王―近代日本画、もうひとつの水脈」 泉屋博古館分館@SenOkuTokyo
会期:9月15日(土)~10月28日(日)
休館:月曜日。但し9/17、9/24、10/8は開館。9/18、9/25、10/9は休館。
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
料金:一般800(640)円、学生600(480)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
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「フェルメール展」 上野の森美術館

上野の森美術館
「フェルメール展」
2018/10/5〜2019/2/3



日本美術展史上最大のフェルメールの展覧会が、上野の森美術館ではじまりました。

それがまさに「フェルメール展」で、「牛乳を注ぐ女」、「マルタとマリアの家のキリスト」、「手紙を書く婦人と召使い」、「ワイングラス」、「手紙を書く女」、「赤い帽子の娘」、「リュートを調弦する女」、「真珠の首飾りの女」、「取り持ち女」を合わせ、計9点のフェルメールの絵画がやって来ます。(但し「赤い帽子の娘」は12月20日まで展示。「取り持ち女」は2019年1月9日より公開。)

またフェルメールだけに留まらず、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヘラルト・ダウなど、同時代のオランダの絵画も40点ほど同時に展示されていました。


ハブリエル・メツー「手紙を読む女」 1664〜1666年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

一連のオランダ絵画が想像以上に充実していました。中でも白眉は、メツーの「手紙を読む女」と「手紙を書く男」でした。画家の絶頂期に描いた対の絵画で、ともに恋文をやり取りする様子を表していました。「手紙を読む女」には鮮やかな光が差し込んでいて、背後の白い壁や女性の衣服を美しく引き立てていました。また、手前には、一頭の子犬が背を伸ばしていて、その先には使用人と思しき女性が、壁の海景画を見やっていました。一部がカーテンに隠れていて、全体像を見ることが出来ないものの、大波に飲まれそうな船が描かれていて、この先の「愛の苦難」(解説より)を暗示していると言われています。

もう一方の「手紙を書く男」では、ブロンドの豊かな髪を垂らし、上等な衣服を身につけた若い男性が、恋文をペンで記していました。全体の収まり良い構図はもとより、細部も秀逸で、特にテーブルのクロスの模様、そして同じくテーブル上にある金属製の器を、実に精緻に表していました。器のメタリックな質感すら伝わるようで、率直なところ、今回の展覧会で最も引かれたのが、「手紙を書く男」でした。


ピーテル・デ・ホーホ「人の居る裏庭」 1663〜1665年頃 アムステルダム国立美術館

庭で恋人が座る姿を描いたホーホーの「人の居る裏庭」も魅惑的で、建物のレンガの豊かな質感は、フェルメールの「小路」を連想させるものがありました。さらにダウの「本を読む老女」では、暗がりの中、一心不乱に本を読む老いた女性の顔や手の皺、そして聖書の文字などが、極めて細密に描かれていました。


ヘラルト・ダウ「本を読む老女」 1631〜32年頃 アムステルダム国立美術館

ほかにもレンブラント周辺の画家による「洗礼者ヨハネの斬首」、エマニュエル・デ・ウィッテの「ゴシック様式のプロテスタントの教会」、ヤン・ウェーニクスの「野うさぎと狩りの獲物」も強く印象に残りました。中でも「ゴシック様式のプロテスタントの教会」では、教会内部を満たす光に透明感があり、「野うさぎと狩りの獲物」では、兎のふさふさとした毛が極めて写実的に示されていました。これまでにもフェルメール関連の展覧会が開催され、同時期のオランダの絵画も紹介されてきましたが、今回は点数こそ少ないものの、力作揃いではないでしょうか。「フェルメール展」の見どころは、何も全てフェルメールにあるわけではありません。


ヨハネス・フェルメール「マルタとマリアの家のキリスト」 1654〜1655年頃 スコットランド・ナショナル・ギャラリー

フェルメールの8点の絵画は、暗がりの1室、「フェルメール・ルーム」に並んで公開されていました。入口から向かって右に「マルタとマリアの家のキリスト」、左に「牛乳を注ぐ女」があり、正面の壁には右から「ワイングラス」、「リュートを調弦する女」、「真珠の首飾りの女」、「手紙を書く女」、「手紙を書く婦人と召使い」、「赤い帽子の娘」の順に並んでいました。これほどの数のフェルメール作品を目の当たりにすること自体、初めてだっただけに、まずは展示空間そのものに圧倒されました。


ヨハネス・フェルメール「ワイングラス」 1661〜1662年頃 ベルリン国立美術館

8点を見比べて、最も引かれたのは、日本初公開でもある「ワイングラス」でした。白いデカンタを手にした紳士が、女性にワインを勧めていて、おそらくは恋の駆け引きの場面を描いたとされています。男性の表情は何やら誇らしげで、物事を優位に進めているように見える一方、女性の表情はグラスで隠されていて分からず、両者の行く末はどうなるか分かりません。

ステンドグラスの透明感、そして色彩感が際立っているものの、室内はかなり薄暗く、例えば先のメツーの光とはかなり異なっていました。こうした淡い光の表現こそ、フェルメールの得意としたところかもしれません。また構図に苦心したのか、右後方の床にやや歪みが見られるものの、先のステンドグラスや手前の木彫りのある椅子、テーブル上の厚手の絨毯などは細かに描かれていて、重厚感も感じられました。


ほかのフェルメールでは、「牛乳を注ぐ女」が際立っていました。「フェルメール展」のメインビジュアルを飾り、各種刊行されたムックなどでも、ほぼ全て表紙となった絵画ですが、その完成度をもってすれば、当然のことなのかもしれません。私としては、2007年に国立新美術館で開催された「フェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」以来、約11年ぶりの再会となりました。

さてチケットの購入、ないし会場の状況です。「フェルメール」展は、事前日時入場制のため、原則、前売日時指定券を購入しないと入場出来ません。各日の入場時間枠は、9 : 30〜10 : 30、11 : 00〜12 : 30、13 : 00〜14 : 30、15 : 00〜16 : 30、17 : 00〜18 : 30、19 : 00 ~ 20 : 00の計6つに分かれています。その指定の枠の中であれば、どの時間にも入場することが可能で、入場後は閉館まで時間の制限がなく鑑賞出来ます。時間枠での入れ替え制ではありません。

私も楽しみにしていた展覧会だけあり、前々から日時指定券を購入しておきました。オンラインでは、フジテレビダイレクトとチケットぴあが対応していて、情報の入力などで、やや手間がかかりますが、私はフジテレビダイレクトのシステムを使い、セブンイレブンで紙のチケットを発券しました。

購入したのは、会期2日目、10月6日(土)の15時から16時半の入場枠でした。出かける少し前にチケットサイトを確認したところ、10月6日の事前チケットは完売しておらず、夕方以降に関しては、当日の日時指定券も販売されていました。「フェルメール展」では、前売日時指定券に余裕があった場合のみ、当日の日時指定券(前売+200円)も発売されます。



公式サイトに「時間枠後半のご入場をおすすめします。」とあったため、当日は、開始時間枠の約1時間後、16時少し前に上野へ行くことにしました。予定通り、16時前に美術館に着くと、入場待ちの列は一切なく、そのまま待ち時間なしでスムーズに入館出来ました。

チケットには音声ガイドが無料で付いていたので、ガイドを借り、会場内へと入りました。順路は、先に2階へ上がり、オランダ絵画を展示したあと、1階へ降りて、フェルメールに関する映像かあり、白い回廊を抜け、フェルメールの出展作が全て揃う「フェルメール・ルーム」へと進むように作られていました。

最初の2階の展示室からして相当の人出で、どの絵画も2〜3重の人で覆われていました。中でも2階の会場の中ほど、行き止まりのようになっている展示室が、最も混雑していました。ただ時間指定制で、一定の人数を制限しているからか、例えば「怖い絵」展の時のように、人が展示室を埋め尽くすほどではなく、タイミングを見計らえば、どの作品も自分のペースで観覧出来ました。


ヨハネス・フェルメール「真珠の首飾りの女」 1662〜1665年頃 ベルリン国立美術館

続いて1階へ降り、「フェルメール・ルーム」へ行くと、さらに作品の前に多く人がいて、簡単に最前列へ辿り着けるような状況ではありませんでした。ただ後列の空間には比較的余裕があり、そこから単眼鏡で鑑賞している方も見受けられました。心なしか、作品もやや高い位置に掲げられていて、遠くからでも見られるようになっていました。特に人気を集めていたのが、「ワイングラス」と「牛乳を注ぐ女」で、多くの観客が詰めかけていた一方、「マルタとマリアの家のキリスト」だけは、あまり人がおらず、すぐに最前列で見られました。



一通り、遠目でフェルメール作品を鑑賞した後は、再び2階へ上がり、最初のオランダ絵画の展示室に戻りました。すると驚いたことに、まるで貸切のように人が疎らで、10名もおらず、どの作品もがぶりつきで鑑賞可能でした。時間を確認すると16時40分頃でした。つまり16時半までと、次の入場枠の17時の前の間だったため、来館者がなく、空いていたわけでした。

先ほど混んでいた行き止まりのスペースも余裕が出来ていて、ゆっくり見られた上、メツーの2点の前にも2〜3人ほどしかいませんでした。17時の少し前の段階において、15時から16時半枠で入場された大半の方は、既に2階を見終えていたようでした。


ヨハネス・フェルメール「手紙を書く婦人と召使い」 1670〜1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

17時を回り、1階の「フェルメール・ルーム」へ降りましたが、多少、人が引いていたものの、さすがに空いているとは言えず、「牛乳を注ぐ女」などには、まだ多くの人が見入っていました。そしてにさらに30分程度、フェルメールの絵画を鑑賞し、美術館を出たのは、17時半頃でした。



すると入場口から公園内へと続く人の列が出来ていました。それは17時から18時半の入場枠の待機列で、概ね入場まで30分ほどかかるとのことでした。どうやら時間枠の前半に来館者が集中して、長い列が出来るようでした。よって現段階において列を回避するためには、各時間枠の後半に出向くのが最も有効なようです。(但し、夜間に関しては、閉館時間が迫るため、この限りではありません。)

「フェルメール会議/双葉社スーパームック/双葉社」

会場内に各章毎の解説はありましたが、作品にキャプションはありません。その代わりに、全作品の簡単な解説が記された小冊子をもらえます。

「赤い帽子の娘」の展示は12月20日で終了し、「取り持ち女」が来年の1月9日より公開されます。これほどにフェルメールの絵画が集まる機会はもうないかもしれません。改めて出向くつもりです。



ロングランの展覧会です。2019年2月3日まで開催されています。なお東京展終了後、大阪市立美術館へと巡回します。

*大阪展会期:2019年2月16日(土)~5月12日(日)。内容が一部、異なります。フェルメールは6作品。「恋文」が出展されます。

「フェルメール展」@VermeerTen) 上野の森美術館@UenoMoriMuseum
会期:2018年10月5日 (金) 〜2019年2月3日 (日)
休館:12月13日(木)。
時間:9:30~20:30
 *入場は閉館30分前まで。
 *但し開館・閉館時間が異なる日があり。
料金:一般2500円、大学・高校生1800円、中学・小学生1000円。
 *前売日時指定券料金。事前日時入場制。チケット情報
 *前売日時指定券の販売に余裕があった場合のみ当日日時指定券(前売+200円)を販売。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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「1968年 激動の時代の芸術」 千葉市美術館

千葉市美術館
「1968年 激動の時代の芸術」
9/19~11/11



千葉市美術館で開催中の「1968年 激動の時代の芸術」を見てきました。

今から半世紀前、1968年は、全共闘やベトナム反戦運動、それに成田闘争など、いわば「激動」とも呼べうる時代にありました。

その1968年を中心とした美術の潮流を俯瞰するのが、「1968年 激動の時代の芸術」で、絵画、写真、立体、およびインスタレーションのほか、各種資料など、400点もの作品が展示されていました。


羽永光利 《新宿西口フォークゲリラ》 1969年 羽永太朗蔵

冒頭から、当時の社会を示す資料で溢れていて、日大闘争や三里塚闘争を捉えた北井一夫をはじめ、新宿騒乱を写した森山大道の写真、さらには3億円事件のポスターなどが並んでいました。さらには、自作詩の朗読を新宿闘争のフィルムに映した、城之内元晴の「新宿ステーション」の映像も目を引いていて、終始、「ステーション」を連呼する独特の音声が頭から離れませんでした。

日本初の超高層ビルである霞が関ビルが完成したのも、この年で、木村恒久は「多少の欠陥」において、ビルの一部を欠落させたフォトモンタージュを見せていました。言うまでもなく、当時は高度経済成長の間にありました。


鶴岡政男 《ライフルマン》 1968年 広島県立美術館

そして現代美術が続き、千円札裁判でも知られた赤瀬川原平を中心に、横尾忠則、山下菊二、粟津潔の作品などが展示されていました。またこの時代は、環境芸術やインターメディアが盛んで、同芸術のブームを引き起こした、1966年の「空間から環境へ」展の出展作が紹介されていました。

中でも吉村益信の「反物質 ライト・オン・メビウス」が異彩を放っていて、メビウスの輪のようにねじれたステンレスの物体に、たくさんの電球がつき、終始、ピカピカと光っていました。こうした一連の環境芸術は、のちの大阪万博にて隆盛を極めました。*作品保護のため、「反物質 ライト・オン・メビウス」の点灯時間は12時〜16時。

大阪万博も一つのハイライトでした。太陽の塔や各パビリオンの写真をはじめ、横尾忠則のデザインによるせんい館を飾った、四谷シモンの「ルネ・マグリットの男」が、なにやら不敵な笑みを浮かべるような表情で、辺りを見渡していました。一方、万博に対抗した反博にも美術家は参加していて、バスで大阪へ向かいながら、各地で反博のパフォーマンスを行った「反博キャラバン」の写真が目を引きました。

さてこの時代には、「アングラ」と呼ばれた演劇や実験映画、舞踏も多く行われるようになりました。そしてイラストレーションも氾濫し、グラフィックデザインや出版物も盛んになりました。

「赤瀬川原平漫画大全/赤瀬川原平/河出書房新社」

赤瀬川原平が月刊漫画ガロに掲載した、「お座敷」が面白いのではないでしょうか。まさにお座敷を舞台に、反体制派と警官を巡る駆け引きを、半ばドタバタ劇のように戯画として描いていました。会場では全て一面に開いていて、ストーリーを追うことも出来ました。


田名網敬一 《ジェファーソン・エアプレイン ヒッピーの主張》1968年 NANZUKA

LSDなどによる幻覚のイメージを、半ば「デザイン化」(解説より)したサイケデリックも、この時代に一大ムーブメントを起こしました。田名網敬一や横尾忠則にも影響を与えていて、極彩色に彩られたポスター類が多く展示されていました。


藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018

ゴーゴークラブ「MUGEN」にて行われた藤本晴美のライトショーは、実際に再現版を体験することも出来ました。ライフスタイルプロデューサーの浜野安宏がプロデュースした空間で、幾何学的なパターンが、リズミカルな音楽とともに次から次へと空間を演出していました。


藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018

ともかく水玉とも曲線とも捉えうる文様がひたすらに変化していて、極彩色に染まる蝶や植物と思しきモチーフが、まるでネオンサインに光り輝いていました。


藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018

ライトショーのブースのみ撮影も可能です。なにやら不思議でもありつつ、妙にはまるような独特の演出にしばらく見入りました。

ラストは「新世代の台頭」と題し、写真同人誌の「プロヴォーグ」ともの派と概念芸術の活動でした。

1968年、「プロヴォーグ」が創刊されると、森山大道や中平卓馬らの写真家が、「アレ・ブレ・ボケ」と表された旧来の写真の概念から離れた表現を行いました。


関根伸夫 《位相−大地》 1968/1986年 静岡県立美術館

またもの派の発端とされる、関根伸夫の「位相ー大地」も、この年に発表されました。概念芸術では河原温の活動が重要であるかも知れません。

ともかく扱う内容が膨大です。それこそ全共闘、成田闘争、千円札裁判、美共闘、環境芸術、大阪万博に反博、アンダーグラウンドの演劇や舞踏、イラストレーションにガロなどの漫画、サイケデリックの芸術に写真のプロヴォーク、さらにもの派、概念芸術と、一通り挙げても、これほどにまで多岐に渡ります。


率直なところ、怒涛のように続く作品を前にして、途方に暮れることもありましたが、美術を中心としながらも、社会の諸相も抉り取っていて、当時の世に渦巻いた熱気も感じられるような展覧会でした。


藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018

1968年生まれの方は観覧料が500円になります。(要証明書)11月11日まで開催されています。おすすめします。

「1968年 激動の時代の芸術」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:9月19日(水)~11月11日(日)
休館:10月1日(月)、11月5日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *1968年割引:1968年生まれの場合は観覧料500円。
 *10月18日(木)は「市民の日」につき観覧料無料
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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