「フレンチ・ウィンドウ展」 森美術館

森美術館
「フレンチ・ウィンドウ展 デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」
3/26-8/28



「フランスの現代アートシーン」(チラシより引用)を概観します。森美術館で開催中の「フレンチ・ウィンドウ展」へ行ってきました。

一部が出品取りやめになるなど、東日本大震災の影響を受けた本展覧会ですが、それでもフランスのコレクター団体「ADIAF」選定による約30名弱の現代アーティストの作品が一同に介しています。ジャンルも森美の広いスペースを利用してのインスタレーション、大型の立体、それに映像、絵画に写真と盛りだくさんでした。

さて単なる最新のフランスのアートシーンを並べただけでないところが、今回の面白い点かもしれません。

「ADIAF」はフランスで「マルセル・デュシャン賞」を主催していますが、展示でも冒頭に実際のデュシャンの作品がいくつか登場しています。


マルセル・デュシャン「フレッシュ・ウィドウ」1920年/1964年

それらはいずれもが当然ながらレディメイドと呼ばれるものばかりですが、とりわけ重要なのは「フレッシュ・ウィドウ」です。これはフランス窓を革で覆って見えなくしてしまった作品ですが、現代アーティストの作品でも以降、そうした本来的な価値の反転、また物事のあるべき見方を変化させるような系譜のものが次々と登場しています。

キーワードは窓から広がる様々な異界です。窓に限らず、作品を通して、まだ見ぬ場所や時間を旅しているかのような体験が出来ました。


マチュー・メルシエ「無題」2007年

ずばり窓そのものを通してデュシャンに応答したのは、マチュー・メルシエです。ここでメルシエはデュシャンと同じくフランス窓を用いていますが、何と今度は窓おろか枠までが透明で、これまた窓の本来的な機能を喪失させています。

この透明な窓の向こうには東京の景色も広がっていました。見えるものと見えないものとが対比された、デュシャンとメルシエの視点の違いもまた興味深い部分かもしれません。


ニコラ・ムーラン「ノヴォモンド71」1996-2001年

「時空の窓」と題されたセクションが秀逸です。ニコラ・ムーランは無人のSF的世界を実景を織り交ぜてCGで再現します。

「アスキアタワー」では巨大な二等辺三角形のビル、平壌の柳京ホテルを荒野に移設しました。

またシプリアン・ガイヤールは17世紀のオランダ銅版画の中に現代の高層ビルなどを組み込みます。

ともに現代文明の象徴ともいえるそうした建築物が本来の場所と時間を失った時、取り残された廃墟のようにみえるのが不思議でなりませんでした。

さてそうした半ば架空の景色の一方、今度は実景をあたかもフィクショナルなものとして提示するのが、フィリップ・ラメットです。


フィリップ・ラメット「合理的浮上」2002年

彼は自らを撮影した作品を展示していますが、それがいずれも驚くべき姿をとって登場しています。

海の上を歩き、宙を駆けるラメットはまるでマジシャンです。作り込みはかなり細かく、種を明かされないと一体どのようにして写されたか分かりませんでした。

異界ならぬ冥界へと観客を誘うのが、サーダン・アフィフの「どくろ」です。


サーダン・アフィフ「どくろ」2008年

床面に転がるいくつかのステンレス鋼球には見る人の姿とともに、モザイク状になった髑髏が写り込んでいます。 仕掛けは天井にありましたが、上からのしかかるように写る髑髏からはそれこそ死を強く連想しました。

ラストはコレクターのアパルトマンの再現展示です。リビングやバスルームなどの空間に作品が飾られています。

それまでの文脈からするとやや蛇足気味かもしれませんが、ここにも窓が登場していました。もちろん今度は普通の窓でしたが、デュシャンの窓に始まる一連の流れを締めくくるのに相応しい展示だったのかもしれません。


リシャール・フォーゲ「無題」1996-2004年

点数こそ少なめでしたが、私としては予想以上に楽しめました。

夏休み中でしたが、館内はさほど混雑していませんでした。

8月28日まで開催されています。

「フレンチ・ウィンドウ展 デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」 森美術館
会期:3月26日(土)~8月28日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00(月・水~日)、10:00~17:00(火)
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より徒歩5分(コンコース直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅徒歩7分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅徒歩10分。
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「横浜トリエンナーレ2011」(後編・日本郵船海岸通倉庫) 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫

「横浜トリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR」
横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)
8/6-11/6



「前編・横浜美術館」の記事に続きます。横浜トリエンナーレ2011へ行ってきました。

横浜美術館から巡回バスに揺られること約10分、馬車道近くの日本郵船海岸通倉庫こと「BankART Studio NYK」こそが、今回のトリエンナーレのもう一つのメインスペースです。


ソン・ドン+イン・シウジェン「Chopsticks3」

こちらは前回のトリエンナーレでも会場です。作家数は約30弱と浜美に比べると少なめですが、主に映像を中心に見応えのある作品も点在していました。

そしてその映像として一番に挙げたいのがクリスチャン・マークレーの「The Clock」に他なりません。本作は今年のヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞したということで前々から話題となっていた作品ですが、上映時間は何と24時間に及びます。


クリスチャン・マークレーの「The Clock」(参考図版)

しかも映画で淡々と進行するドラマは実際の時間とリンクしています。つまりは開催中、トリエンナーレの会場時間の部分しか鑑賞出来ないわけですが、まだ確定ではないものの、他の部分も楽しめる上映会という話もあるそうです。

ゆったりとしたソファに座り、今の時間と同じ流れで進む映像を見ていると、不思議と現実と物語がない交ぜになってきます。映画の時計のあるシーンから切り取られたいくつもの物語は、まさにその時間を伝えつつも、今までにない映像体験を生み出していました。


アピチャッポン・ウィーラセタクン「プリミティヴ」

また映像としてまとまった形で紹介されているのが、アピチャッポン・ウィーラセタクンです。彼はタイの監督として初めてカンヌでパルムドールを受賞したことでも知られているそうですが、今回は8本の映像や写真を用いて、タイの60~80年代の農村の生活をテーマとした作品を展開しています。鬱蒼とした森を思わせる映像空間はどこか混沌しています。時に激しさを増す映像は心を揺さぶってきました。

さて森とありましたが、NYKの空間演出自体にそうした森や自然を感じさせる面があるかもしれません。


ヘンリック・ホーカンソン「倒れた森」

ヘンリック・ホーカンソンの「倒れた森」はその名の通りに巨大な木を会場へと持ち込みました。


戸谷成雄「洞穴体5(ミニマルバロック)」

そしてその森に対抗するかのように立ちはだかるのが、戸谷成雄の「ミニマルバロック」です。四角いキューブの表面には無数の襞が刻み込まれ、所々空いた隙間からは中の空洞を覗き込むことが出来ます。コンクリートむき出しのNYKの空間に一つの異界を持ち込みます。その存在感は際立っていました。

また森や木ではなく、水に由来する作品を展開するのがイスラエル人アーティスト、シガリット・ランダウです。


シガリット・ランダウ「死視」

タイトルに死とあるのは死海のことで、立体作品には死海の塩を用い、映像には死海に浮かべたスイカの様子を映しています。サークル状に連なるスイカが解けてゆく時、作家自身が姿を現しました。水と人間、そして自然の産物が緩やかに結びつきます。死の海は新たな形で再生を果たしました。


カールステン・ニコライ「フェーズ」

光のグラデーションで涼感を誘うのがカールステン・ニコライの「フェーズ」です。これは暗室を細かい霧で満たし、そこに映し出した光線で様々な形を見せるものでしたが、三次元として浮かびあがる光の帯はどこか有機的です。霧とともに肌へまとわりつく光の触感を楽しみました。


山下麻衣+小林直人「大地からスプーンを生み出す」

柏のTSCAでも印象深かった山下麻衣と小林直人が再び砂鉄の山を築いています。その途方もない作業は映像を見れば一目瞭然ではないでしょうか。鋳造されたスプーンはあたかも山の頂きに靡くフラッグのように誇らし気でした。


ミルチャ・カントル「聖なる花」

その他では野口美佳の写真シリーズや、鏡を割り込み、またライフル銃を万華鏡のように仕立てたミルチャ・カントルの作品なども印象に残りました。


リヴァーネ・ノイエンシュワンダー「プロソポピーア」

総じて浜美ほど全体を貫くストーリーはないかもしれませんが、自然や社会問題などを扱うメッセージ性の強い作品が多かったかもしれません。その点でこれまでのトリエンナーレの展示の雰囲気を残すのはやはりここNYKの方でした。

ところでNYKでも映像を展示したピーター・コフィンがYCCことヨコハマ創造都市センターにて、「ミュージック・フォー・プランツ」なるプロジェクトを展開しています。


ピーター・コフィン「グリーンハウス」

これはコフィンの制作した「グリーンハウス」と呼ばれる植物の生い茂った温室の中で、様々なパフォーマーらがライブ演奏を繰り広げるプロジェクトです。その音楽はあくまでも植物に聴かせるためにあるという点がまた興味深いところですが、当然ながら人間も植物に並んで聴くことが可能でした。

なお私が伺った内覧時はEYEが演奏していましたが、会期中には他のアーティストも多数登場します。

8/20(土) 大友良英
9/17(土) ジム・オルーク
10/1(土) 蓮沼執太
10/29(土) テニスコーツ


各日とも開始は17:30、参加費無料、予約不要で先着100名です。

まだ始まったばかりということもあるのか、横浜中心部全体で盛り上がる雰囲気にはほど遠い様でしたが、このトリエンナーレ本展示の他にもいくつかの連携プログラム特別連携プログラムが用意されています。そちらとあわせて一日で横浜のアートシーンを楽しむのも良いかもしれません。


横浜トリエンナーレ・オープニング・レセプション

なおトリエンナーレは横浜美術館に準じ、8月と9月は毎週木曜が閉場日です。(10月以降は10/13、10/17の各木曜のみ閉場。)ご注意下さい。

横浜美術館、及びBankARTなどを巡る無料循環バスが、おおよそ15分程度の間隔で運行されています。

[横浜美術館]→BankART→新港ピア→[横浜美術館]→日ノ出町(降車のみ)→黄金町→[横浜美術館]

美術館のバス乗降場は建物の裏手、またBankARTも施設からやや離れた場所にありました。現地ではガイドの方が目印の旗を持っておられますが、念のために場所等を館内スタッフに確認した方が良いかもしれません。

出来れば再訪するつもりです。11月6日まで開催されています。

*関連エントリ(横浜美術館会場の感想をまとめてあります。)
「横浜トリエンナーレ2011」(前編・横浜美術館)

「ヨコハマトリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR - 世界はどこまで知ることができるか?」 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域
会期:8月6日(土)~11月6日(日)
休館:8月、9月の毎週木曜日、及び、10月13日(木)、10月27日(木)
時間:11:00~18:00
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区海岸通3-9(BankART)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口徒歩5分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅6番出口徒歩4分(BankART)。会場間無料バスあり。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。なお本展は一部作品を除き、会期中も写真の撮影が可能(フラッシュ、動画不可)です。
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「横浜トリエンナーレ2011」(前編・横浜美術館) 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫

「横浜トリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR」
横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)
8/6-11/6



「横浜トリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR」のプレビューに参加してきました。

初回より10年経過し、今年で4度目を迎えた横浜トリエンナーレですが、今回はメイン会場を初めて横浜美術館へ移し、BankARTなどとあわせて、計77名/組のアーティストによる約300以上もの作品が一同に介しています。


ライアン・ガンダー「本当にキラキラするけれど何の意味もないもの」

まさに日本最大級の国際美術展です。私感ながら過去に開催されたトリエンナーレよりもやや小粒な印象も否めませんが、それでも多様なジャンルの作品を追っかけているだけでも全く飽きません。二会場で計4時間程度の鑑賞でしたが、見終えた後の何とも言えない充足感はさすがに他の現代アート展を超えていました。

さて先に触れたようにメインの会場は二つ、横浜美術館とBankARTです。拙ブログではそれぞれの感想を前編(横浜美術館)と後編(BankART)にわけ、展示の様子をご紹介したいと思います。


ジェイムス・リー・バイヤース「ダイヤモンドの床」

冒頭は光り物です。入口からエスカレーターをあがり、順路に沿った初めの展示室に待ち構えるのは、ジェイムス・リー・バイヤースによるクリスタルが用いられた作品でした。暗室には5つのクリスタルが妖しい光を放ちながら転がっています。その煌めきはどこか神秘的でした。


手前:ウィルフレド・プリエト「one」 奥:冨井大裕「ゴールドフィンガー」

一方で同じく光り輝く素材を用いたのはウィルフレド・プリエトです。床面に転がるのは何と2800万個の模造ダイヤですが、うち一つだけ本物が含まれています。そしてそのシルバーにも光る輝きと、それを受けて立つかのように並ぶ冨井大裕の画鋲のゴールドの瞬きは不思議にも調和していました。

さて今回のトリエンナーレに限らず、巨大吹き抜け空間や通路部分しかり、時に空間自体に散漫な印象を受ける横浜美術館ですが、それを逆手にとったのが田中功起のインスタレーションでした。


田中功起「美術館はいっぺんに使われる」

まだ設営中の資材が転がっていると思ってしまったら早くも田中の術中にはまっていると言えるのではないでしょうか。実際、これらは全て美術館の備品とのことでしたが、半ばそれをぶちまけるように広げた様子は、このどこか堅苦しい箱自体を半ば巧みに解体していました。

ところで今回の横浜トリエンナーレではこれまでとかなり異なった趣向がとられています。それが常設作品とコンテンポラリーのコラボレーションです。


手前:コンスタンティン・ブランクーシ「空間の鳥」 左奥:石田徹也「屋上へ逃げる人」 中奥:ポール・デルヴォー「階段」 右奥:ハン・スンピル「天国への階段」

お馴染みのブランクーシとデルヴォーやマグリットに、石田徹也とハン・スンピルが邂逅します。そのシュールな幻想世界は時代を超えて一つのストーリーを描いていました。


金理有「組換輪我」他

はじめのクリスタルの部屋同様、暗室の用い方が効果的です。黒光りする金理有の陶のオブジェが闇をさらに引き立てます。出品数も多く、作品自体の重みと存在感はとても際立っていました。


マイク・ケリー「シティ6」(カンドールシリーズより)他

そしてその黒とは一転、暗がりの中でカラフルな作品を展開したのがマイク・ケリーの「カンドール」シリーズです。これはスーパーマンの故郷である架空の宇宙都市カンドールを象ったものでしたが、ともかくその蛍光色に彩られたミニチュア風のオブジェには目を奪われます。煌めく色に酔いしれました。


奥:イサム・ノグチ「真夜中の太陽」 手前:八木良太「VIDEO SPHERE」

そしてその宇宙を連想させる空間と言えば、奥にイサム・ノグチの「真夜中の太陽」を据え、田口和奈のプリント連作、そして八木良太のレコードを使った作品などを並べた展示が忘れられません。


田口和奈「失ったものを修復する」

田口の星空を眺めつつ、八木の球体のオブジェからイサム・ノグチの太陽の登る様子を見るのは何とも圧巻でした。全てが成功しているとは言い難いものの、浜美会場は全体としてキュレーションが練られている感がありますが、こうした展示からもお分かりいただけるのではないでしょうか。ここは素直に感心させられました。


左:杉本博司「放電場128」 

さてキュレーション云々以前に、作り込まれた空間自体に唸らされるのは、杉本博司の「神秘域」です。


杉本博司「海景五輪塔」/「スペリオル湖」

古美術から自作の写真までが、デュシャンへのオマージュというコンセプトの元、杉本自身のプロデュースによる濃密な空間で展示されています。あえて設営された狭い通路、そして鋭角的に切り取られた空間そのものも、浜美の別の場所とは完全に一線を画していました。


右:マッシモ・バルトリーニ「オルガン」 左:ダミアン・ハースト「知識の木」他

一方で浜美ならではの天井高のある空間を活かしたのはマッシモ・バルトリーニとダミアン・ハーストのコラボレーションです。


マッシモ・バルトリーニ「オルガン」

パイプを高く組み上げた「オルガン」からは某SF映画を思わせる神秘的なオルガンの調べが轟き、その横にはハーストの蝶を張り合わせた「知識の木」などがあたかもステンドグラスの輝きを放つかのように並べられています。そして振り返ればエジプトの原始キリスト教徒が制作したというコプト裂も展示されていました。その様子はまさに教会そのものです。あの展示室がこれほど神聖な空間に見えたのは初めてでした。


荒木経惟「古希ノ写真」他

さて空間はともかくも、出品作家としてやはり存在感があったのは、一展示室を使って相当数の写真を出品していた荒木経惟と、「黒いY字路」シリーズを展示した横尾忠則です。


横尾忠則「黒いY字路」

アラーキーこそやや大人しい展示でしたが、それこそ闇夜の中を不気味に浮き上がるY字路の並んだ横尾のブースはかなり迫力がありました。それこそY字路からどこか冥界の中へ迷い込んだ感じがしたのは私だけではないかもしれません。

資生堂の個展の印象が未だ頭を離れない今村遼佑も一展示室での展開です。残念ながら周囲の雑踏にかき消され、点滅するLEDやパタンと落ちる紙くずなどの細やかなインスタレーションの妙味を味わえるほどではありませんが、あの巨大な浜美のスペースでも来場者の感性を呼び起こすスタンスに全くぶれはありませんでした。


岩崎貴宏「アウトオブディスオーダー」他

繊細と言えば、広大な吹き抜け空間にてあえて目立たない作品を展示した岩崎貴宏も良かったのではないでしょうか。望遠鏡を覗いて見える小さなタワーなどには思わずにやりとさせられました。


手前:ライアン・ガンダー「何かを描こうとしていていたまさにその時に私のテーブルからすべり床に落ちた一枚の紙」 奥:リヴァーネ・ノイエンシュワンダー「テナント」

浜美というまさに美術館そのもののスペースでの展開だからか、また繰り返すようにキュレーションの効果なのか、一部を除けばとても収まりの良い展示だという印象を受けました。ただ逆に言えばトリエンナーレに特有な高揚感、またカオス感はあまりありません。

一通りは浜美を見た後は、循環バスでもう一つのメイン会場であるBankARTへと移動しました。その様子は以下のエントリでまとめてあります。宜しければご覧ください。

「横浜トリエンナーレ2011」(後編・日本郵船海岸通倉庫)

11月6日までの開催です。

「ヨコハマトリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR - 世界はどこまで知ることができるか?」 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域
会期:8月6日(土)~11月6日(日)
休館:8月、9月の毎週木曜日、及び、10月13日(木)、10月27日(木)
時間:11:00~18:00
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区海岸通3-9(BankART)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口徒歩5分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅6番出口徒歩4分(BankART)。会場間無料バスあり。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。なお本展は一部作品を除き、会期中も写真の撮影が可能(フラッシュ、動画不可)です。
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「進藤環 - クロックポジション展」 INAXギャラリー2

INAXギャラリー2
「INAXギャラリー特別企画展10daysセレクション 進藤環 - クロックポジション展」
8/1-8/10



INAXギャラリー2で開催中の進藤環個展、「クロックポジション」へ行ってきました。

展示概要、及び作家プロフィールについては同ギャラリーWEBサイトをご覧ください。

進藤環:クロックポジション展@現代美術個展 GALLERY2

1999年に武蔵野美術大学大学院油絵コースを修了後、グループ展などを重ねてきた進藤ですが、今回はその中でも一番大きな個展とのことでした。



さて今回はモノクロ4点、またカラー10点ほどの平面作品が展示されていますが、一見しただけではその素材が何であるか分からないかもしれません。



ずばり表現は写真、そしてそのコラージュです。進藤は無数に写された植物などのモチーフのプリントをバラバラに刻み、今度はそれを逆に組み合わせてまた撮影、一枚の作品に仕立て上げています。その姿はまさに奇景です。それこそ例えば熱帯地方の孤島にでもある手つかずの自然のような光景が広がっていました。



目を凝らすとシダやおろか、サボテンや珊瑚に原色に鮮やかな花などが無数に浮かび上がってきます。それらは当然ながらとてもリアルですが、不思議と全体では何か作り物の箱庭のような印象を与えていました。この実際の光景のようでいながら、見渡すとどこか非現実的な舞台装置のように思えるのも、むしろ作品の面白い部分かもしれません。

色がともかく際立ちます。その意味でモノクロよりもカラーの作品の方が断然に魅力的でした。

なおINAXの10saysセレクションは同ギャラリーが主催している年一度の公募展です。次回、8月中旬からは石田真也の個展が開催されます。

「石田真也展 - ワンダフルトラッシュ」 INAXギャラリー 8月19日(金)~8月29日(月)

通常の企画展とは異なり会期は10日間です。8月10日まで開催されています。(ちなみに今回は写真の撮影が可能でした。)

「INAXギャラリー特別企画展10daysセレクション 進藤環 - クロックポジション展」 INAXギャラリー2
会期:8月1日(月)~8月10日(水)
休廊:日・祝
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
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「大英博物館 古代ギリシャ展」 国立西洋美術館

国立西洋美術館
「大英博物館 古代ギリシャ展 - 究極の身体、完全なる美」
7/5-9/25



日本初公開の「円盤投げ」(ディスコボロス)を含む、大英博物館の古代ギリシャ美術コレクションを展観します。国立西洋美術館で開催中の「大英博物館 古代ギリシャ展」へ行って来ました。

古代エジプト美術と並び、現地大英博物館でも人気の高い古代ギリシャ美術ですが、今回はその定評のあるコレクションのうち約130点が上野の西洋美術館に集まっています。

展覧会の構成は以下の通りです。

1.神々、英雄、別世界の者たち
 1-1 ギリシャの神々
 1-2 英雄ヘラクレス
 1-3 別世界の者たち
2.人のかたち
 2-1 男性の身体美
 2-2 女性の身体美
3.オリンピアとアスリート
4.人々の暮らし
 4-1 誕生、結婚、死
 4-2 性と欲望
 4-3 個性とリアリズム


古代ギリシャ美術の根幹である人間の身体にスポットを当て、彫像、レリーフ、壺絵などを紹介していました。

展示の始めに待ち構えるのは、お馴染みのゼウスやアフロディテと言ったギリシャの神々です。中でも展示室中央に立つ「擬人化した葡萄の木とディオニュソス像」には見惚れた方も多いかもしれません。まさに少年のような出で立ちして葡萄の木を纏う姿は、ギリシャ彫刻の流麗な造形美を思わせるものがありました。

オリンピアの伝説上の創始者であるというヘラクレスの頭部が迫力満点です。大きく見開かれた瞳、堀の深い目鼻立ち、そして豊かに蓄えた口ひげは、まさに英雄に相応しい姿であると言えるのではないでしょうか。なおこの彫像はハドリアヌス帝なために造られたものだそうです。時の権力者も自身とヘラクレスの偉業と重ね合わせていたのかもしれません。


「スフィンクス像」後120-140年頃 大理石

スフィンクスもお出ましです。女性の頭部とライオンの体、そしてワシの翼を組み合わた姿はやはり異様ですが、その尻尾が妙に可愛らしいのも印象に残りました。

第2章へ進むといよいよ人の身体が直接的に表現される様子を楽しむことが出来ます。右足に重心を置き、右手を前にして何かを指すような仕草をする「アポロン像」は小像ながらも見応えのある作品ではないでしょうか。


「アフロディテ(ヴィーナス)像」ローマ時代 大理石

また沐浴のために裸となったというアフロディテを象った「アフロディテ像」にも目を奪われます。当時の女性像には着衣表現も多く、こうした像は逆に人気があったそうですが、まさかこの像がそのような一種の需要で造られていたとは思いませんでした。


「役者の小像」前1世紀 テラコッタ

喜怒哀楽を誇張的に表現した像も忘れられません。突き出した顎で笑いを誘う「喜劇役者の像」をはじめ、酒杯に角の突き出したサテュロスを描いた「赤像式カンタロス」などはまるで戯画に出てくる登場人物のようでした。


「黒像式頸部アンフォラ・ヘファイストスのオリュンポスへの帰還」前520年頃 陶器

なお、今回のギリシャ展では、彫像よりも杯や壺などが多く出ています。そこに描かれた絵も見どころの一つとなりそうです。


「円盤投げ(ディスコボロス)」後2世紀 大理

さて「円盤投げ」は階下の展示室でお待ちかねです。360度ぐるりと一周見渡せる露出展示での登場でしたが、その美しいプロポーションはどの位置から眺めても飽きません。私としてはやはり円盤が飛びしてくるような迫力のある像正面の斜め前が好みですが、ぐっと突き出した臀部に迫力もある後ろ姿もインパクトがありました。

なおこの円盤投げは他のスペースから暗幕で遮ったやや狭い空間に置かれています。後ろが全面暗幕のため、その分、像のフォルムがクッキリと浮き上がってきますが、空間自体はあまり広くありません。可能であればもう少し広い場所で見られればと思いました。

人々の生活にむすびついた像などで断然に面白いのは第4章の2つ目のセクション、「性と欲望」です。ここではそれこそ西美常設のロダンと見間違えんばかりの激しいエロスに溢れた像などが展示されています。

ニンフがサテュロスと重なり合いながらも離れようとする「サテュロスから逃げようとするニンフの像」は強烈です。

また杯や壺の絵においても性的なモチーフの作品がいくつか登場しています。多産や豊穣を願うために男性の性器に水をやる人物を描いた「赤像式ペリケ」や、ギリシャでは良く出てくる男性の同性愛の姿を表した「赤像式鐘形クラテル」などは衝撃的でした。

最後にやや毛色の異なった作品をご紹介したいと思います。それが他の作品より断然に古い、紀元前2600年頃に造られたという「後期スペドス型女性像」です。


「後期スペドス型女性像」前2600-2400年頃 大理石

そのモニュメンタルな出で立ちを見て土偶を連想された方も多いのではないでしょうか。すっとのびる鼻筋と、少し膨らんだ乳房、そして2つに折れた手を前で組んで起立する様は何とも神秘的でした。


「耳飾り」前330-前300年 金

既に先行した神戸展の評判も上々なのか、館内はなかなか混雑していました。そして先ほど触れた「円盤投げ」の展示室と同様、会場は西美にしてはやや混み合った作りです。所狭しと彫像や壺などが並ぶせいか、動線もあまり広くありません。近寄らないと楽しめない細かな金細工なども出ています。なるべく混雑する時間帯(土日の午後など)は避けた方が良いかもしれません。

9月25日までの開催です。

「大英博物館 古代ギリシャ展 - 究極の身体、完全なる美」 国立西洋美術館
会期:7月5日(火)~9月25日(日)
休館:月曜日 *但し7/18、8/15、9/19は開館。7/19と9/20(ともに火曜)は休館。
時間:9:30~17:30 *毎週金曜日は20時まで開館。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成電鉄京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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8月の展覧会・ギャラリーetc

8月中に見たい展覧会などをあげてみました。

展覧会

・「2011イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」 板橋区立美術館(~8/14)
 #関連イベント(ワークショップ・講座など)多数あり→スケジュール
・「今、美術の力で 被災地美術館所蔵作品から」 東京藝術大学大学美術館(8/2~8/21)
・「彫刻家エル・アナツイのアフリカ」 埼玉県立近代美術館(~8/28)
 #関連企画(映画上映会・ミュージアムコンサート・シンポジウムなど)あり→スケジュール
・「集まれ!おもしろどうぶつ展」 横須賀美術館(~8/28)
・「出羽三山と山伏」 千葉県立中央博物館(~9/4)
・「日本美術にみる『橋』ものがたり」 三井記念美術館(~9/4)
・「所沢ビエンナーレ 引込線 2011」 所沢市生涯学習推進センター他(8/27~9/18)
 #各種イベント、ワークショップなどあり。詳細は公式サイトへ。
・「アンリ・ルソーと素朴な画家たち」 市川市芳澤ガーデンギャラリー(~9/19)
 #講演会:「アンリ・ルソーと素朴な画家たち」 講師:遠藤望(世田谷美術館企画担当課長) 8/7(日) 15:00~ 先着50席、要入館料。
・「皇帝の愛したガラス」 東京都庭園美術館(~9/25)
 #特別夜間開館:8/13~8/19(各日20時まで開館)
・「名物刀剣 宝物の日本刀」 根津美術館(8/27~9/25)
・「家の外の都市(まち)の中の家」 東京オペラシティアートギャラリー(~10/2)
 #建築家によるゲストトークあり。スケジュール→公式サイト
・「浅川伯教・巧兄弟の心と眼―朝鮮時代の美」 千葉市美術館(8/9~10/2)
 #講演会:「浅川兄弟と『李朝』のやきもの 」 講師:片山まび (東京藝術大学美術学部芸術学科准教授) 8/27(土)14:00~ 無料、先着150名。
・「現代美術の展開」 神奈川県立近代美術館葉山(~10/2)
 #講座:「現代音楽の展開:1951 – 2011」 講師:湯浅譲二、一柳慧他。スケジュール、申込方法は公式サイト(PDF)へ。
・「あこがれのヴェネチアン・グラス」 サントリー美術館(8/10~10/10)
・「イケムラレイコ うつりゆくもの」 東京国立近代美術館(8/23~10/23)
 #シンポジウム:「芸術におけるエコロジー」 出演:イケムラレイコ、加須屋明子(京都市立芸術大学准教授)、保坂健二朗(当館研究員・本展企画者) 8/27(日) 13:00~ 無料。
・「横浜トリエンナーレ2011」 横浜美術館他(8/6~11/6)

ギャラリー

・「新世代からの視点2011」 ギャルリー東京ユマニテ他(~8/6)
・「金子富之展 妖怪実体化」 ミヅマ・アクション(~8/13)
・「加藤翼 F.F.H.(深川、フューチャー、ヒューマニティ)」 無人島プロダクション(~8/27)
・「佐藤好彦 捧銃」 ラディウム-レントゲンヴェルケ(8/4~8/27)
・「TWS-Emerging 阿部乳坊/three/高木彩/小林広恵」 トーキョーワンダーサイト本郷(8/6~8/28)
・「山下麻衣+小林直人」 TSCA(8/6~9/17)

今月始まりの大型展はそれほどありませんが、夏ならではの企画ということで、横浜と所沢で二つのアートのイベントが予定されています。それは言うまでもなく横浜トリエンナーレと所沢ビエンナーレです。



「横浜トリエンナーレ2011」 横浜美術館他(8/6~11/6) @yokotori2011

会期が長期間にわたる横浜トリエンナーレでは、夏以降も様々なイベントなどが予定されています。事前にWEBサイトなどをチェックして臨みたいところです。

ところでその大規模な横浜よりも私として親しみを覚えるのが所沢ビエンナーレです。プレ展から通いましたが、何と無料の上、毎度かなり楽しめる展示が用意されています。



「所沢ビエンナーレ 引込線 2011」 所沢市生涯学習推進センター他(8/27~9/18) @tokorozawa_2011

チラシのセンスも横浜を上回ります。なお今回は例年の所沢駅前の旧車両工場ではなく、それぞれ航空公園駅よりやや離れた所沢市の施設とのことです。これまでは車両工場跡という場所自体も展示の魅力の一つだっただけに、場所を変えてどう見せるかにも注目したいと思いました。

もう一つ、この夏楽しみなのが東近美で8月末より始まるイケムラレイコ展です。



「イケムラレイコ うつりゆくもの」 東京国立近代美術館(8/23~10/23)

公式WEBサイトもオープンしました。これまで各美術館のグループ展や、シュウゴアーツなどでの個展などで引かれていただけに、東近美という大きな箱でどのような展示を繰り広げるかにも期待したいと思います。

ギャラリーでは場所により夏期休廊期間に入ります。出かける前に確認した方が賢明かもしれません。



夏休みに入って上野の三展示、空海と密教美術(東博)、恐竜博(科博)、古代ギリシャ展(西美)はかなり混雑してきているようです。場合によっては入場制限などもあるかもしれません。こちらも事前にWEBサイトなどで混雑状況をチェックした方が良さそうです。

私事ながら8月の予定が今ひとつ定まらない状況となってしまいました。今月も無理せずに、身近に楽しめる展示とじっくり向かいあうつもりです。

それでは今月も宜しくお願いします。
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