「あこがれのヴェネチアン・グラス展」 サントリー美術館

サントリー美術館
「あこがれのヴェネチアン・グラス展」
8/10-10/10



サントリー美術館で開催中の「あこがれのヴェネチアン・グラス展」へ行ってきました。

今でも多くの人々に愛されるヴェネチアン・グラスですが、今回はその長い歴史をひも解きながら、さらに未来へ向かって進みゆく現代のグラス・アートまでを一同に紹介しています。まさにヴェネチアン・グラスの決定版とも言える展覧会でした。

最初期の15世紀の半ばに生み出された「クリスタッロ」を原点に、17~18世紀のヨーロッパを席巻した「ヴェネチアン様式」と呼ばれる諸作品、さらにはその影響を一部受けたとされる和ガラスから先に触れたコンテンポラリーまでと、総計150点弱のガラスがすらりと揃う様は圧巻でした。

その冒頭の「クリスタッロ」は無色透明です。シンプルな造形が生み出す素朴な味わいも悪くありませんが、少し時代の下った16世紀頃のヴェネチアン・グラスの魅力も忘れられません。


「エナメル彩ゴブレット」 ヴェネチア 1500年頃 コーニング・ガラス美術館

ダイヤモンドポイントの彫りも鮮やかな鉢には、つまみにヴェネチアではお馴染みの守護聖人マルコを示すライオンが象られていました。


「船形水差」 ヴェネチア 16~17世紀 サントリー美術館

ちなみにヴェネチアン・グラスは当初、技法の機密保持のため、ムラーノ島のみで制作が行われていたそうです。もちろんそれは市場の拡大により各方面へ流失、結果ヨーロッパ各地で様々なグラスが生産されることになりますが、それこそライオンのつまみなど、元々の出自であるヴェネチアならではの造形が確かに残されているのも興味深く思えました。


「レースグラス蓋付瓶」 ヴェネチアあるいはネーデルラント 16世紀末~17世紀初期 コーニング・ガラス美術館

さて本家ヴェネチアより流失したヴェネチアン・グラスは、ドイツ、スペイン、またオーストリアなど、ヨーロッパ各地で新たな芸術を生み出していきます。


「アルモラータ」 スペイン 18世紀 町田市立博物館

それらは一口に「ヴェネチアン様式」と呼ばれますが、技法こそ一定の枠があるものの、表現の方向性は様々です。北ヨーロッパではビーカー形のタンブラーが盛んに作られる一方、スペインのカタルーニャ地方で作られたグラスには、イスラムを思わせる紋様なども取り込まれていきます。

またイギリスでは名誉革命で王位を失ったジェームス2世を慕う人々、ジャコバイトらの要請によって、18世紀頃、そのシンボルである薔薇と蝶を象ったゴブレットなども制作されていました。

こうした多様性こそヴェネチアン・グラスの大きな魅力の一つかもしれません。そしていつしかそれは日本へも流入します。ヴェネチアン・グラスの破片が大阪や仙台などで出土(17世紀頃)しているそうですが、18世紀後半にはダイヤモンドポイントに由来する「ぎやまん彫り」と呼ばれる杯なども多く作られました。

一方、1797年にヴェネチア共和国が崩壊すると、一時本家ヴェネチアでのグラス制作は危機的な状況を迎えます。以降、現地の人々の懸命な努力により、19世紀には再興しますが、主に古典期(16-17世紀)のレプリカを制作したグラスもいくつか紹介されていました。


「海の形」デイル・チフーリ 1989年 北海道立近代美術館

ラストを飾るのは現代アートとしてのヴェネチアン・グラスです。資生堂ギャラリーでの個展の印象もまだ鮮烈な三嶋りつ恵の他、国内外のアーティストたちが手がけた新しいグラスアートの世界は実にきらびやかでした。


「大切な自然を守る女神」植木寛子 2011年 個人

定評のあるサントリー美術館の立体展示が悪いはずもありません。ヴェネチアン・グラスの魅力を存分に味わうことが出来ました。

10月10日まで開催されています。これはおすすめします。

「開館50周年記念 美を結ぶ。美をひらく。3 あこがれのヴェネチアン・グラス」 サントリー美術館
会期:8月10日(水)~10月10日(月・祝)
休館:火曜日
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) *9/18、10/9(各日曜)は20時まで開館。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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