「美男におわす」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「美男におわす」
2021/9/23~11/3



埼玉県立近代美術館で開催中の「美男におわす」を見てきました。

日本の美術史において多く描かれてきた「美人画」は、女性像が多くを占めていて、「美男」として男性が描かれることはほとんどありませんでした。

そうした観点を元に、江戸時代から現代へと至る美少年や美青年のイメージを探るのが「美男におわす」で、会場には浮世絵、日本画、彫刻から、漫画や写真、それに現代美術までの約190点の作品が展示されていました。(展示替えあり)

冒頭では「伝説の美少年」と題し、稚児や童子像、それに歴史上に美少年とされた人物の肖像画が展示されていて、蕗谷虹児が「名残の絵姿」の口絵に描いた「天草四郎」などに目がとまりました。

日本において男性の肖像は、武功に秀でていたり業績と結びつけて描く傾向があり、そこへ悲劇的な最期を遂げたような共感的なストーリーが加わると、実際の容姿とはあまり関係なく、いわゆる美男として理想化されていきました。

とはいえ、武将に付き従った小姓など、成人男性の身の回りの世話をする少年の存在などから、若い男性を愛でる文化も浸透し、若衆の姿は近世の絵画でも多く描かれました。また明治以降においては青年の健康的な肉体を描いたり、大正期ではアンニュイな男性像が生まれるなど、時に官能的な青少年のイメージは、現代の耽美な男性像へと繋がっていきました。



今回の「美男におわす」で面白いのは、古典と近現代の作品をともに展示していることで、例えば浮世絵における小姓と昭和初期の高畠華宵が描いた少年像が合わせて並んでいました。またそうした作品とともに少年愛をコメディに取り入れた「パタリロ」や、背徳の香りを帯びた少年少女を描く画家、山本タカトの甘美な「夕化粧」なども印象に残りました。

この他にも「ボーイズラブ(BL)」の源流といえる男性同士の性愛を主題とした雑誌「COMIC JUN」や、美少年アニメの先駆けとして知られる車田正美原作の「聖闘士星矢」、それに女性が将軍に就き、男性ばかりを集めた大奥を描いたよしながふみのマンガ「大奥」の複製原画なども見どころで、従来の美術史のジャンルにとらわれないさまざまな視覚表現が展示されていました。


唐仁原希「もういいかい」 2016年 作家蔵

ラストは「わたしの『美男』、あなたの『美男』」として、海老原靖や金巻芳俊、それに木村了子や竹宮惠子といった現代アーティストらの表現した男性美が多く紹介されていました。


木村了子「男子楽園図屏風 − EAST & WEST」 2011年 作家蔵

そのうちまず目立っていたのが、2005年からイケメンを描き続けているという木村了子で、「男子楽園図屏風 − EAST & WEST」では、いわゆる現代の肉食系男子と草食系男子を近世や近代の風俗画を思わせる劇画的なタッチにて表していました。


金巻芳俊「空刻メメント・モリ」 2021年 フマコンテンポラリートーキョー|文京アート

若さや美貌の儚さを連想させる金巻芳俊の「空刻メメント・モリ」も強い存在感を放っていて、若く美しい身体と亡骸の死のイメージを同居させるように彫刻に象っていました。


森栄喜「Untitled" from the Family Regained series」 2017年 作家蔵

美男を明確に定義づけるものではなく、あくまでもさまざまな男性像を考えるきっかけになるような内容でしたが、サブカルや現代美術などを参照することによって、男性表現の幅広いあり方を知ることができるのではないでしょうか。


ヨーガン・アクセルバル「untitled/verse two" from the Go To Become series」 2017年 作家蔵

2014年から翌年にかけて島根県立石見美術館で開催された「美少女の美術史」をきっかけに、いわゆる男性バージョンとして企画された展示とのことでしたが、思いがけないほど見応えがありました。


市川真也「Lucky star」 2021年 作家蔵

10月12日より後期展示に入りました。浮世絵や日本画を中心に一部の作品が入れ替わりました。


海老原靖「colors」 2021年 作家蔵

現代アーティストのコーナーのみ撮影も可能でした。


11月3日まで開催されています。なお埼玉での展示を終えると、島根県立石見美術館へと巡回(2021年11月27日〜2022年1月24日)します。*一番上の写真の作品は、川井徳寛「共生関係 自動幸福」(2011年)

「美男におわす」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2021年9月23日(木・祝) ~ 11月3日(水・祝)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:30 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(960)円 、大高生960(770)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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