都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「パウル・クレー展」 大丸ミュージアム・東京 2/18
大丸ミュージアム・東京(千代田区丸の内1-9-1)
「パウル・クレー展 -線と色彩- 」
2/9-28
スイス・ベルン郊外にある「パウル・クレー・センター」のオープン(昨年6月)を記念して開催されている展覧会です。キャリア初期のミュンヘン時代の作品から、点描画を中心とした約60点にてクレーの画業を回顧します。意外なクレーの一面を鑑みることの出来る興味深い展覧会です。
いわゆる抽象画家としてのクレーの油彩画に期待すると、この展覧会はかなり物足りなく感じられます。しかし、あまり知られていないような点描画や水彩画を楽しむことについては、なかなか優れた企画と言えそうです。「線の追求」のコーナーに展示されていた初期のペン画は、これがクレーであると明記されなければ、すぐにそうだとは分からない作品ばかりです。「ミュンヘン郊外」(1910)は、長閑な田舎の景色を、鳥瞰的な構図で描いた素朴な作品です。また同じく風景画である「無題(ミルバーツホーフェン風景)」(1912)は、線のみで表現された建物の屋根のラインにやや幾何学的な立体感があって、どこかクレーらしい味わいを思わせますが、やはりあの油彩のクレーのイメージからはまだ遠く離れた作品のようにも見えます。それが「光の追求」のセクションにて紹介されていたチュニジア旅行を経ると、これまでの線に、効果的な陰影を持った面と鮮やかな色彩感が加わって、まさにクレーならではの遊び心のある、多面的で複層的な画面構成になっていくのです。線がもっと躍動感を見せて、巧みに配された色を分割し画面を作り上げる。もちろんそこには、どこか人間への優しい眼差しを感じさせる温もりがあります。一見キュビズムを思わせる線と面と色との交錯が、画面に物語を与えて見る者を穏やかに包み込む。私はクレーが大好きで何度見ても飽きることはありませんが、この展覧会では、そんなクレーの作品を、線と面との最小単位に分解させて、その上で再構築して提示するかのように見せてくれました。
薄いピンク色に溶け込んだ十字架の白いラインの上に、三次元の世界が儚く出現しているようにも思わせる「つなわたり」(1923)や、色彩から朧げにピラミッドが浮かび上がり、それがどこか擬人化されて描かれているようにも見える「ピラミッド」(1934)、さらにはノルデのような美しい水彩の洪水の中に、まるで隠れるようにしてアルファベットが描かれている「ああ、私の苦悩をさらに苦くするもの、それは君が私の心を予感だにしないこと」(1916)などに特に惹かれました。
この展覧会の開催に合わせて発行された「クレー ART BOX -線と色彩- 」(講談社)が、なかなかコンパクトに可愛らしくまとまっています。クレーの作品を、絵本のように見返しながら楽しむことが出来そうです。展覧会は次の火曜日までの開催です。
「パウル・クレー展 -線と色彩- 」
2/9-28
スイス・ベルン郊外にある「パウル・クレー・センター」のオープン(昨年6月)を記念して開催されている展覧会です。キャリア初期のミュンヘン時代の作品から、点描画を中心とした約60点にてクレーの画業を回顧します。意外なクレーの一面を鑑みることの出来る興味深い展覧会です。
いわゆる抽象画家としてのクレーの油彩画に期待すると、この展覧会はかなり物足りなく感じられます。しかし、あまり知られていないような点描画や水彩画を楽しむことについては、なかなか優れた企画と言えそうです。「線の追求」のコーナーに展示されていた初期のペン画は、これがクレーであると明記されなければ、すぐにそうだとは分からない作品ばかりです。「ミュンヘン郊外」(1910)は、長閑な田舎の景色を、鳥瞰的な構図で描いた素朴な作品です。また同じく風景画である「無題(ミルバーツホーフェン風景)」(1912)は、線のみで表現された建物の屋根のラインにやや幾何学的な立体感があって、どこかクレーらしい味わいを思わせますが、やはりあの油彩のクレーのイメージからはまだ遠く離れた作品のようにも見えます。それが「光の追求」のセクションにて紹介されていたチュニジア旅行を経ると、これまでの線に、効果的な陰影を持った面と鮮やかな色彩感が加わって、まさにクレーならではの遊び心のある、多面的で複層的な画面構成になっていくのです。線がもっと躍動感を見せて、巧みに配された色を分割し画面を作り上げる。もちろんそこには、どこか人間への優しい眼差しを感じさせる温もりがあります。一見キュビズムを思わせる線と面と色との交錯が、画面に物語を与えて見る者を穏やかに包み込む。私はクレーが大好きで何度見ても飽きることはありませんが、この展覧会では、そんなクレーの作品を、線と面との最小単位に分解させて、その上で再構築して提示するかのように見せてくれました。
薄いピンク色に溶け込んだ十字架の白いラインの上に、三次元の世界が儚く出現しているようにも思わせる「つなわたり」(1923)や、色彩から朧げにピラミッドが浮かび上がり、それがどこか擬人化されて描かれているようにも見える「ピラミッド」(1934)、さらにはノルデのような美しい水彩の洪水の中に、まるで隠れるようにしてアルファベットが描かれている「ああ、私の苦悩をさらに苦くするもの、それは君が私の心を予感だにしないこと」(1916)などに特に惹かれました。
この展覧会の開催に合わせて発行された「クレー ART BOX -線と色彩- 」(講談社)が、なかなかコンパクトに可愛らしくまとまっています。クレーの作品を、絵本のように見返しながら楽しむことが出来そうです。展覧会は次の火曜日までの開催です。
コメント ( 13 ) | Trackback ( 0 )
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コンパクトで、なんとなくβ波が出てくる本なので、寝床に持ち込んで、クレー展を思い出しています。展覧会の図録もこのように一般書店で買えるといいですね。
観たい展覧会すべては観られず、川村美術館の方を観ようと決めていました
でも、お話聞くと観たくなりますね(^^;
私は代表作はもちろん良いとは思いますが、
そこに至るまでの作品や、その人の他のタイプの作品見ると、
もっと代表作がわかりやすくなる気がして好きです
私実は先に書店で
「クレー ART BOX -線と色彩- 」を
たまたま見つけ立ち読みしてしまったんです。
そしていざこの展覧会に行ったら・・・でした。
そんなマイナス差し引いてもこのクレー展は
コンパクトに要所を押さえていたと思います。
しかし、様々な画法を用いたのですね~クレーは。
こんばんは。コメントとTBをありがとうございます。
>コンパクトで、なんとなくβ波が出てくる
そうかもしれません。
クレーの作品はとても優しい表情をたたえていますし、
まさに子守唄のように語りかけてくれます。
>展覧会の図録もこのように一般書店
今回は随分力が入っていましたよね!
展覧会の10倍くらい充実していた?かもしれません。
@えみ丸さん
こんばんは。
>観たい展覧会すべては観られず、川村美術館の方を観よう
やはり川村が本命ですよね。非常に楽しみです。
>そこに至るまでの作品や、その人の他のタイプの作品見ると、
もっと代表作がわかりやすくなる
まさに今回の展覧会がそれです。
代表作などはなけれども、小品にて楽しませてくれます。
@takさん
こんばんは。
>「クレー ART BOX -線と色彩- 」をたまたま見つけ立ち読みしてしまったんです。そしていざこの展覧会に行ったら
図録とクレーセンターの宣伝がまず第一義な展覧会だったかもしれません。上にも書きましたが、今回は意外なクレーの楽しみということで…。
>しかし、様々な画法を用いた
そうですよね。クレーへの妙な先入観を飛ばしてくれる展覧会でした。
@さなえさん
こんばんは。
大丸のクレー展は皆さんも仰られておりますが、
かなりコンパクトに良くまとまっています。
(ただしボリュームと、これと言った作品に欠けますが…。)
イメージバトンありがとうございます。
映画ですか…。
ちょっと私には難しいテーマなのですが、
何かイメージが湧いて来たら駄文をアップします。
点数的にはちょっと寂しかったですが、多彩なクレーの作品に触れ、満足できた美術展でした。
ART BOXもいい企画ですね。
お書きになられているピンク色がとっても印象的な「つなわたり」、
ファンタジーな「ピラミッド」、物憂げな詩人のようなちょっと
切ないタイトルの文字絵、どれもまだ憶えています。
シンプルだけど、じんと伝わってくる作品でした。
次のクレー展が待ち遠しいですね。
こちらにもありがとうございます。
>ART BOXもいい企画です
書店でもかなり目立っていました。
可愛らしい本ですから、
クレーにあまり関心がなくとも手に取る方が多いかもしれませんね。
@code_nullさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
>次のクレー展が待ち遠しい
川村ですから、やはりあの広大なスペースを利用してたくさん見せていただけるのでしょうか。
あの建物とクレーがどう共鳴するか、
その辺も楽しみですね。
展覧会は終わってしまいましたが、TBさせていただきました。
昨夜NHKでクレーの番組をやっていましたが、クレーの絵と子供が描いた絵を並べて「どれがクレーの絵?」という質問を街の人に尋ねる面白いことをやっていました。
それくらいクレーの描く線は単純で迷いのない線なのでしょう。展覧会自体は作品数も少なかったですが、楽しめました。(でも川村のクレー展にも行ってみたいです。)
コメントとTBをありがとうございます。
>クレーの絵と子供が描いた絵を並べて「どれがクレーの絵?」という質問を街の人に尋ねる面白いこと
晩年の作品など確かにそのような要素がありますよね。
子供がパッと描いたような…。
>クレーの描く線は単純で迷いのない線
迷いのなさがどこか温もりを醸し出すのでしょうか。
彼の作品はそれがたとえ直線の交差でも温かみがあります。
不思議です。
>川村のクレー展にも行ってみたい
これは今からかなり期待しています。
アイレさんも是非!
コメントとTBをありがとうございました。
↑上記、みなさんクレーがお好きのようですね!!
>線がもっと躍動感を見せて、巧みに配された色を分割し画面を作り上げる。もちろんそこには、どこか人間への優しい眼差しを感じさせる温もりがあります。
確かに、クレーの色には人を包み込む優しさがありますね。人一倍、苦労したアーティストなので、内面から聞こえてくるメッセージで私たちの奥深いところに感じさせるオーラがあるのでしょう。それもとてもシプルな線、一本で表せるクレーのすごさが2度目に見てはっきりと分かりました。川村も今度はぜひ行ってみたいです!
いつもコメントをありがとうございます。
>クレーの色には人を包み込む優しさ
優しいですよね。そして迷いのないあの線も、
またその要素の一つになっていたのかなと思いました。
>川村も今度はぜひ
川村は展示室の空間が非常に広いので、
そこでクレーがどう映えるのかにも興味があります。
クレーの絵は、何だか抱きしめたくなるような味わいがありますよね。