『生誕110年 香月泰男展』が練馬区立美術館にて開催されています

1911年に生まれ、戦争とシベリアでの抑留生活を送った画家、香月泰男は、その体験を帰国後に「シベリア・シリーズ」として描くと、多くの人々の心を捉えました。



現在、香月の生誕110年を記念した回顧展が、練馬区立美術館にて行われています。その展覧会の内容についてイロハニアートへ寄稿しました。

「生きることは、私には絵を描くことでしかない。」戦争とシベリア抑留の壮絶な体験を描いた画家、香月泰男の人生のあゆみ | イロハニアート

まず展示では「逆光のなかのファンタジー」と題し、若い香月が描いた作品が並んでいて、ピカソの影響下や叙情的な作風の絵画を見ることができました。

1943年に入隊した香月は、当時の満州国へ動員されたのちに敗戦を迎えると、シベリアへと移送され、クラスノヤルスク地区セーヤ収容所などで抑留生活を送りました。結果として帰国を果たしたのは1947年のことで、戦中にも僅かに作品を描いていたものの、画家としての本格的な制作は約4年半中断されることになりました。

帰国後の1950年頃からは、台所の食材や庭の草花といった身近なモチーフを描いていて、「台所の画家」とも呼ばれるようになりました。と同時に、ヨーロッパを訪ねたり、絵具の技法の研究に取り組むと、方解末を混ぜた黄土色の下地に木炭粉を擦り付けていく自らの技法を考案しました。

そうした技法を用いて描かれたのが、兵役と抑留の経験をもとにした「シベリア・シリーズ」で、会場では一連の作品を自らの体験した順番ではなく、制作年代順に並べて展示されていました。

白と黒といった限定的な色による「シベリア・シリーズ」も、1960年代末頃からは『青の太陽』や『業火』といった赤や青を取り入れた作品も描かれ、主題も体験に近いものから情景を俯瞰するようなものへと変化していきました。このほか、ヨーロッパやインド洋などの島へと取材して描いた色彩の明るい作品も、香月の意外な一面を伺わせるかもしれません。

私自身、美術に関心を抱いた頃、東京国立近代美術館のコレクション展にて『水鏡』に出会い、なんとも不思議な絵画世界に心を惹かれ、いつか回顧展に接したいと思っていました。



今回は「シベリア・シリーズ」にとどまらず、画業の大半を網羅していて、あたかも香月の人生をたどるように作品を追うことができました。まさに質量ともに不足ない回顧展の決定版と呼んで差し支えないかもしれません。


イロハニアートの記事では許可を得て作品の写真を掲載しましたが、香月の重厚な画肌の質感は写真画像では到底伝わりません。実際の絵画を前にして改めて絵具の独特な感触に深く見入るものがありました。



3月27日まで開催されています。おすすめします。

『生誕110年 香月泰男展』 練馬区立美術館@nerima_museum
会期:2022年2月6日(日)~3月27日(日)
休館:月曜日。ただし3月21日(月・祝)は開館し、3月22日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人1000円、大・高校生・65~74歳800円、中学生以下・75歳以上無料。
 *ぐるっとパス利用で500円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
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