「悪人か、ヒーローか」 東洋文庫ミュージアム

東洋文庫ミュージアム
「悪人か、ヒーローか」
6/6~9/5



東洋文庫ミュージアムで開催中の「悪人か、ヒーローか」を見てきました。

当時の社会規範や支配体制によって「悪」とされた歴史上の人物は、のちの創作物において、時に「ヒーロー」のように描かれることがありました。

そうした「悪」と「ヒーロー」の表裏一体の関係を検証するのが、「悪人か、ヒーローか」で、主に日本と中国の伝記や記録の資料を紹介していました。


「帝鑑図説」 張居正 1572年成立、1606年(江戸時代)

はじまりは秦の始皇帝で、司馬遷の著した「史記」と、明の時代に作られた「帝鑑図説」を見比べていました。それによれば、「史記」では、始皇帝が数多くの土木工事を行ったことや、法によって統治したことが記されているものの、特に暴君の位置付けはなされていません。一方の「帝艦図説」は、中国歴代の王を儒教的観点から評価しているため、焚書坑儒を悪行として紹介していました。


「三国志」 陳寿撰 東晋(371〜451)年成立、1739年(中国清代)

また日本でも人気の高い「三国志」の正史が成立したのは、魏の臣下であった司馬氏の建てた西晋の時代でした。よって、三国の魏、呉、蜀のうち、魏のみを正当な王朝とみなしているため、蜀の劉備や呉の孫権は、臣下の列伝で記述されました。


「明清軍談国姓爺忠義伝」 鵜飼信之 1716年(江戸時代)

洋の東西で評価が分かれるのが鄭成功でした。日本の平戸に生まれた鄭は、のちに明の旧臣であった父とともに、中国へと渡り、当時、台湾にいたオランダの勢力を追い出し、明の復興運動に尽力しました。よってて東アジアでは英雄として扱われ、近松門左衛門の人形浄瑠璃でも、忠臣や英雄として表現されました。一方の西洋では、鄭を海賊と呼びました。まさに立場によって「悪人か、ヒーローか」を分けた、典型的な例と言えるかもしれません。


「日本書紀」 舎人親王ほか編 720年成立、1610年(江戸時代)
「妹背山婦女庭訓」 近松半二ほか作 1771年初演、1849年(江戸時代)


日本の「悪役」も勢ぞろいしています。古くは蘇我入鹿で、「日本書紀」の記述に基づき、長らく「悪」のイメージが定着しました。江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎の演目でも人気のある、「妹背山婦女庭訓」においても、蘇我入鹿は凄まじい力を持つ悪役として表現されました。


「大日本史」 徳川光圀ほか編 1851年刊 

「太平記」に登場する足利尊氏と楠木正成も、時代によって評価が変化した人物でした。江戸時代に編纂された「大日本史」は、尊王派の志士に影響を与えた書で、正成は天皇を支えた忠臣とされた一方、尊氏は逆賊として見なされました。こうした評価は、維新後も根強く支持されたそうです。


「源頼光公舘土蜘作妖怪図」 歌川国芳 1843年(江戸時代)

「人ならざる悪」もテーマの1つでした。例えば土蜘蛛で、元々は古代の朝廷に服従しない者を指す意味を持ち得ていました。そのイメージは、のちに変容し、いつしか巨大な蜘蛛の妖怪として描かれるようになりました。


「鬼ヶ島の為朝」 歌川国芳 1856年

ほかに中国では、則天武后、徽宗皇帝、日本では、平清盛、織田信長、春日局、鼠小僧次郎吉などが取り上られていました。「悪」と「ヒーロー」における、半ば表裏一体な関係を見ることが出来ました。

なお本展は、現在、都内の6施設で開催中の多分野連携展示「悪」のうちの1つです。

多分野連携展示「悪」
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/special/2018/edonoaku/event.html

ここ東洋文庫のほかにも、太田記念美術館、國學院大學博物館、それにヴァニラ画廊などでも、「悪」をテーマとした展示が行われています。


内容がかなり重複しますが、「悪人か、ヒーローか」と、多分野連携展示「悪」については、gooの「いまトピ」にも寄稿しました。改めてお目通し下されば嬉しいです。


国宝「文選集注」 10〜12世紀(平安時代)写

企画展に先立って公開されていた、国宝「文選集注」にも目を引かれました。「文選」とは、6世紀前半の中国・梁の時代に編纂された詩文集で、約800編もの作品が収録されています。日本には7世紀頃に伝来しました。

その代表的な注釈を再編集したのが、「文選集注」で、平安時代に書写されました。実に流麗で、美しい書風ではないでしょうか。


「悪人か、ヒーローか」会場風景

撮影も可能です。9月5日まで開催されています。

「悪人か、ヒーローか」 東洋文庫ミュージアム@toyobunko_m
会期:6月6日(水)~9月5日(水)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。翌日休館。
時間:10:00~19:00
 *6月17日(日)は15時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900円、65歳以上800円、大学生700円、中学・高校生600円、小学生290円。
住所:文京区本駒込2-28-21
交通:都営地下鉄三田線千石駅A3出口から徒歩7分。JR線・東京メトロ南北線駒込駅(JR線南口、南北線2番出口)から徒歩8分。
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