「ざわつく日本美術」 サントリー美術館

サントリー美術館
「開館60周年記念展 ざわつく日本美術」
2021/7/14~8/29



「心のざわめき」をきっかけに、日本美術の魅力を紹介する異色の展覧会が、サントリー美術館にて開かれています。

それが「開館60周年記念展 ざわつく日本美術」で、会場には絵画や工芸、染織から仏像など約90点超の作品が展示されていました。

さてチラシ表紙からして極めて独創的なデザインですが、展示構成もかつてないほどユニークだといえるかもしれません。


「尾上菊五郎」 明治8(1875)年頃

何しろ第1章「うらうらする」、第2章「ちょきちょきする」、第3章「じろじろする」、第4章「ばらばらする」、第5章「はこはこする」、第6章「ざわざわする」と分かれていて、一見しただけでは何を意味しているのか分からないほどでした。

まず最初の「うらうらする」とは、「うら」、つまり作品の裏側のことで、通常、あまり見ることの叶わない屏風や能面などの裏側を鑑賞できるように工夫されていました。


「弁財天曼荼羅図」 室町時代 応永13(1406)年

そのうち興味深いのは室町時代の「弁財天曼荼羅図」で、2016年に解体修理された後に残った古い表装とともに展示されていました。この古い表層には1446年にお寺へ寄進されたこと示す紙や、1661年に修理されたことが記されていて、いわば作品の来歴を古い表装の裏から知ることができました。


「舞踊図」 江戸時代 17世紀

第2章の「ちょきちょきする」とは、作品の切断された歴史に着目していて、例えば現在は額装されているものの、かつては屏風だったと推測される「舞踊図」をあたかも屏風のようにジグザグに並べていました。


「水色地霞牡丹枝垂桜流水菊菖蒲模様烈地」 琉球王国〜明治時代 19世紀

紅型で染めた布を用いた「水色地霞牡丹枝垂桜流水菊菖蒲模様烈地」の展示も面白く思えました。烈地の下半分に継接ぎの跡が見えることから、衣装を切り貼りしたと考えられていて、衣装の姿をパネルで復元していました。元の姿を分かりやすい形で想像できるのではないでしょうか。


「ばらばらする」展示風景

第4章の「ばらばらする」も楽しい展示でした。ここでは硯箱や切子などの蓋のついた器を身と蓋に分けて置いていて、それぞれのデザインや技法の違いを意識的に見比べられました。


「ばらばらする」より硯箱の展示風景

硯箱は身が手前、蓋が奥にそれぞれ別々に並んでいて、「本物のセットを探してください」とクイズ形式にて楽しむことができました。通常、セットで置かれる硯箱の身と蓋を分けることからして斬新な展示といえるかもしれません。


「はこはこする」展示風景

謎めいた第5章の「はこはこする」とは、作品を収める箱に着目した展示でした。しかも単に作品の中身と箱を隣に並べるのではなく、全てばらばらに置いていて、会場内の床に引かれた線を行き来することで初めて両者の関係が分かるようになっていました。かつてないような大胆な試みだったのではないでしょうか。


楽道入「黒楽四方茶碗 銘山里」の箱

また単に箱といっても、例えば楽道入の「黒楽四方茶碗 銘山里」では、総箱、旧箱、新しい二重箱の内箱と外箱と4つもあり、所有者が変わるたびに新調される箱や箱書についても知ることができました。


国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」(右)とその箱(左)

さらに国宝の「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」には、箱裏に「北条政子が愛玩した7つの手箱のひとつ」であり、「今日まで欠損を免れたのは政子の霊力のお陰」などとする長文の箱書が記されていて、箱を通した作品への畏怖の念が感じられました。


国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」 鎌倉時代 13世紀

同手箱はサントリー美術館のコレクション中でも傑作として知られ、たびたび公開されてきましたが、まさか箱へこのように重みのある箱書が記されているとは思いもよりませんでした。


「鍍金龍文螺鈿説相箱」 江戸時代 19世紀

この他、作品の細部に着目した「じろじろする」や、心にざわめきを与えるような作品を取り上げた「ざわざわする」も面白かったのではないでしょうか。


「切子 蓋付鉢」 江戸時代 19世紀

心のざわめきは人それぞれかもしれませんが、ユニークな切り口によって日本美術鑑賞に新たな知見や気づきを与える展示だと思いました。


狩野晴川養信「四季耕作図屏風」 江戸時代 文政8(1825)年

会場内の写真撮影が可能でした。


予約は不要です。8月29日まで開催されています。

「開館60周年記念展 ざわつく日本美術」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2021年7月14日(水)~8月29日(日)
休館:火曜日。*8月24日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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