「都路華香展 前期展示」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「都路華香展 前期展示」
1/19-3/4

何と約80年ぶりという本格的な大回顧展です。(1932年の遺作展以来。)近代京都画壇の隆盛を支えたという日本画家、都路華香(つじかこう、1871-1931)の画業を辿ります。京都国立近代美術館よりの巡回の展覧会です。



恥ずかしながら私は華香の名を初めて知りましたが、これまであまり紹介されてこなかったのは、代表作などが散逸してしまっていたことに一因があるのだそうです。(アメリカに多くの作品が所蔵されているようです。)そのためこの展覧会を開催にするにあたっては、華香作品を一つずつ洗い出すような大規模な調査が行われたとありました。非常に地道な努力の賜物です。またこれを契機に、華香の再評価が進むのやもしれません。

 

華香の作品からは、品の良さと親しみ易さを強く覚えます。多く展示されていたのは、長閑な風景を大らかに捉えた風景日本画でした。まるで粘土細工のような石橋が大河をよぎる「良夜」(1912)や、眩しいばかりの波が海を駆ける「緑波」(1911)などはその代表作です。「良夜」では墨の滲みが川の澱みを表現し、丁寧に描かれた細い線が水面の揺らぎを象っています。「緑波」は安らぎすら感じさせる広大な海の景色です。波が迫り、飛沫の舞う荒々しい光景が、実に淡いタッチにて優しくまとめあげられています。また風景画では、朝鮮にて手がけたという「萬年台の夕」(1920)も印象に残りました。芝色を纏った丘の上にはお堂が佇み、一頭の牛が草を無邪気に食べています。お堂を下から包みこむような靄もまた幻想的です。とある何気ない一風景を、まるでお伽話の中ような夢見心地の世界へと変化させています。



「松の月」(1911)でも夢の国へと誘われました。枝の大きく垂れた松の葉の合間には、真ん丸の月が控えめに照っています。墨の点描が葉を生い茂らせ、月を抱きかかえるように表現していました。ちなみに華香の作品には他にも多くの月が登場します。そのどれもが朧げに照る、さながら霧中の月と言った風情を見せていました。



風景画の他には、埴輪制作の模様をパノラマ的に表現した「埴輪」(1916)も心に残ります。中央にて座る老人の表情の何とも穏やかなこと。埴輪たち皆も嬉しそうに腰へ手を当てて立っていました。華香の描く人物に邪念はありません。全てが平穏に、それこそ今あることに感謝して生きているのです。心の洗われる絵画とは、まさにこれらのことをさすのではないでしょうか。

出品作品80点のうち、約30点ほどが途中で入れ替わります。是非もう一度足を運びたいです。(1/21鑑賞)

前期:1/16-2/12
後期:2/14-3/4
出品リスト(展示替え情報あり。)
コメント ( 10 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (遊行七恵)
2007-01-28 12:53:27
昨秋楽しみました。
東京展のチラシはちょっと違う方向だなと思いました。京都では『良夜』でした。
やはり地元ですので時々美術館の常設展でも見てましたが、こうして大掛かりな回顧展が開催されるのはよいことだと思います。
わたしは特に『十牛図』がお気に入りです。
全体には青色や赤色がとても印象的でした。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-01-28 22:52:10
遊行さんこんばんは。
早速のコメントとTBをありがとうございました。

>地元ですので時々美術館の常設展でも見てました

やはり京都では知られた方でしたか。
少し検索してみただけですが、
京近美には約80点ほどの華香作品が所蔵されているようですね。
私は初めてでした。

>大掛かりな回顧展

こういった方を紹介していただける回顧展は本当に有難いです。
昨年の須田に引き続き、
失礼な表現ではありますが個人的には当たりの展覧会でした。
 
 
 
はじめまして (oki)
2007-01-29 21:46:27
遊行さんのところから飛んできました、よろしくお願いします。
はろるどさんも日曜にいかれたのですか、がらがらで驚かれたでしょう。
工芸館の松田権六のカタログ持っている人がやけに常設展示では目立ちましたね。
「埴輪」はおじいちゃんのにこやかな表情が、それは禅の修行をした画家らしく俗世から抜け出た感じを受けました。
帰りにミュージアムショップ寄ってみたら、大盛況の藤田のカタログガおいてありましたー以前はおいてなかったですよね、増刷したのかしら?
これからよろしくです。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-01-29 23:20:13
oki様初めまして。コメントありがとうございます。

>はろるどさんも日曜にいかれたのですか、がらがらで驚かれたでしょう。

とても空いておりました。
ゆったり拝見出来て良かったことは事実なのですが…。
大観の方がメインのような趣きでした。

>それは禅の修行をした画家らしく俗世から抜け出た感じ

なるほどそうですね。
その微笑ましい表情に惹かれます。こんなに温かい気持ちにさせてくれる作品もそうありません。

>大盛況の藤田のカタログ

藤田のカタログは再発されましたか。
この調子で、須田展のカタログをまた増刷していただけると有難いです。
買い損ねてしまいましたもので…。

こちらこそ宜しくお願いします。
 
 
 
Unknown (キリル)
2007-01-30 00:36:38
こんばんは。

年明け早々にすばらしい展覧会に出会えてラッキーです。
都路華香もいつか誰もが知っている画家になりますよ、きっと。後に振り返って、06-07年のこの展覧会がきっかけだったと言われるようになるとうれしい気がします。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-01-30 22:12:23
キリルさんこんばんは。
コメントありがとうございます。

>都路華香もいつか誰もが知っている画家

そうですね。
京都の展覧会もなかなか評判が良かったそうで、
またこちらでも話題になれば嬉しいです。
(ちょっと宣伝が足りませんが…。)
後期も楽しみですね!
 
 
 
都路華香展(前期) (とら)
2007-02-02 20:16:48
行ってきました。予想以上に良かったと思います。もちろん空いていました。

迫力あるもの、技巧的なもの、装飾的なものが混在しているような気がしました。勉強してみたいと思います。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-02-02 22:09:38
とらさんこんばんは。

>迫力あるもの、技巧的なもの、装飾的なものが混在しているような気がしました

そうでしたね。
作風の変遷を見るのも面白いと思いました。
やはり風景日本画の味わいが一番でしょうか。

後期もじっくり拝見したいですね。
 
 
 
華香の波 (あべまつ)
2007-02-07 22:00:33
こんばんは。
あべまつのところへコメント、TBありがとうございました。
昨日行ってきたばかりですが、頭の中がすっきりしていません。
私も初のご対面でしたし、とっても画力のある、
ゆったりとした空気が画面に溢れていて、
新しい出会いを喜んでいるのですが、
もう一度、きちんと見てきたくなっています。
六歌仙、どんな風に描かれているのでしょうね。
それが、東近美の作戦だったり・・・
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-02-08 22:57:05
あべまつさんこんばんは。

>私も初のご対面でしたし、とっても画力のある、
ゆったりとした空気が画面に溢れていて、
新しい出会いを喜んでいるのですが、
もう一度、きちんと見てきたくなっています。

同感です。
一度目で新たな出会いに喜び、
二度目はじっくり「対話」を楽しみたいものですね。

>東近美の作戦

そうですね。
いつもこの手の展覧会で思うのですが、
せめて通し券があればと思います。
 
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