都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「宮本隆司 いまだ見えざるところ」 東京都写真美術館
東京都写真美術館
「宮本隆司 いまだ見えざるところ」
2019/5/14~7/15
東京都写真美術館で開催中の「宮本隆司 いまだ見えざるところ」を見てきました。
1947年に東京に生まれた宮本隆司は、80年代から「建築の黙示録」や「九龍城砦」などの作品で評価を受け、主に建築空間を題材とした写真を撮影してきました。
その宮本の新旧作を含めて約110点からなるのが、「いまだ見えざるところ」と題した個展で、いずれもアジアを舞台にした「建築の黙示録」、「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」、「東方の市(とうほうのまち)」、それに「シマというところ」などが展示されていました。
展示は概ね二部に分かれていました。前半は、1970年代以降にアジアの都市を捉えた写真で、とりわけ印象に深いのは「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」と「東方の市(とうほうのまち)」でした。
「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」は1996年、詩人の佐々木幹郎の誘いを受け、7日間かけてネパールの城砦都市であるロー・マンタンに旅した際に撮影したもので、石造りの住居や僧院の立ち並ぶ光景をモノクロームの画面に収めました。
人気の少ない小道や、薄明かりの差し込む暗い室内など、裏寂れた景観も目を引きましたが、当時のロー・マンタンは、電気やガス、水道などのインフラがなく、移動手段も徒歩や馬に限られた秘境の地でした。しかも宮本は滞在中、高山病にかかり、道中の記憶も定かでなかったとしています。一連の写真は、宮本が実際に目にしつつも既に記憶として失われた、「いまだ見えざる」景色の1つなのかもしれません。
それに続く「東方の市(とうほうのまち)」は、1991年から翌年にかけ、ホーチミンやマカオ、バンコク、台南などのアジアの地域の街を写した連作で、中には沖縄や徳之島などの日本の島も捉えられていました。
いわゆる都市の風景といえども、市場の店先や米屋で眠りこける男性など、人々の様子も写していて、都市の熱気や喧騒、ないし空気感が滲み出しているかのようでもありました。なお同シリーズは、1992年の個展以来、約27年ぶりに出展された作品でもあります。
宮本隆司「ソテツ」より 2014年 作家蔵 *撮影可
後半は宮本が、主に2010年から2018年にかけて撮った、「シマというところ」の連作でした。全て奄美大島の徳之島で撮影され、同地で撮った「ソテツ」や映像「サトウキビ」、それにチラシ表紙を飾る「面縄ピンホール2013」とあわせて展示されていました。徳之島をテーマとした、1つのインスタレーションとして受け止めても差し支えありません。
「シマというところ」は、徳之島の集落に生きる住民のポートレートを中心とした作品で、ほかにも島に残る伝統的な祭りや、洗骨と呼ばれる独特の風習なども写していました。実のところ、宮本は両親の出身地が徳之島で、自身も記憶こそないものの、2歳まで島に住んでいました。また奄美で「シマ」とは、単なる島を意味するのではなく、集落毎に生きる共同体を指す言葉でもあるそうです。もちろん作品からも、徳之島の自然だけでなく、人々の風俗や生活を見ることが出来ました。
「面縄ピンホール2013」は、かつて宮本が暮らしていた徳之島の面縄(おもなわ)の海辺を舞台としていて、タイトルの通り、自作の大型のピンホールカメラで写した作品でした。宮本は撮影に際してピンホールカメラに潜り込み、外から差し込む僅かな光を浴びていると、「海に浸かった記憶が蘇るようだ」(解説より)と思ったそうです。よってこの作品においても、見ていたはずにも関わらず記憶にない、すなわち「いまだ見えざるところ」が表れているのかもしれません。
展示室前のロビーには、宮本が徳之島で実際に使用したピンホールカメラと、撮影時の記録映像もモニターで紹介されていました。あわせてお見逃しなきようにご注意下さい。
建築や廃墟の写真で知られる宮本が、まさか近年、自らのルーツでもある徳之島をテーマに撮影を続けていたとは知りませんでした。端的に制作を回顧するのではなく、宮本の過去と今の視点がクロスするような展覧会とも言えそうです。
7月15日まで開催されています。
「宮本隆司 いまだ見えざるところ」 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2019年5月14日(火)~7月15日(月・祝)
休館:月曜日。*但し7月15日(月・祝)は開館。
時間:10:00~20:00
*木・金曜は20時まで開館。
料金:一般700(560)円、学生600(480)円、中高生・65歳以上500(400)円。
*( )は20名以上の団体料金。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
「宮本隆司 いまだ見えざるところ」
2019/5/14~7/15
東京都写真美術館で開催中の「宮本隆司 いまだ見えざるところ」を見てきました。
1947年に東京に生まれた宮本隆司は、80年代から「建築の黙示録」や「九龍城砦」などの作品で評価を受け、主に建築空間を題材とした写真を撮影してきました。
その宮本の新旧作を含めて約110点からなるのが、「いまだ見えざるところ」と題した個展で、いずれもアジアを舞台にした「建築の黙示録」、「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」、「東方の市(とうほうのまち)」、それに「シマというところ」などが展示されていました。
展示は概ね二部に分かれていました。前半は、1970年代以降にアジアの都市を捉えた写真で、とりわけ印象に深いのは「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」と「東方の市(とうほうのまち)」でした。
「Lo Manthang(ロー・マンタン〉1996」は1996年、詩人の佐々木幹郎の誘いを受け、7日間かけてネパールの城砦都市であるロー・マンタンに旅した際に撮影したもので、石造りの住居や僧院の立ち並ぶ光景をモノクロームの画面に収めました。
人気の少ない小道や、薄明かりの差し込む暗い室内など、裏寂れた景観も目を引きましたが、当時のロー・マンタンは、電気やガス、水道などのインフラがなく、移動手段も徒歩や馬に限られた秘境の地でした。しかも宮本は滞在中、高山病にかかり、道中の記憶も定かでなかったとしています。一連の写真は、宮本が実際に目にしつつも既に記憶として失われた、「いまだ見えざる」景色の1つなのかもしれません。
それに続く「東方の市(とうほうのまち)」は、1991年から翌年にかけ、ホーチミンやマカオ、バンコク、台南などのアジアの地域の街を写した連作で、中には沖縄や徳之島などの日本の島も捉えられていました。
いわゆる都市の風景といえども、市場の店先や米屋で眠りこける男性など、人々の様子も写していて、都市の熱気や喧騒、ないし空気感が滲み出しているかのようでもありました。なお同シリーズは、1992年の個展以来、約27年ぶりに出展された作品でもあります。
宮本隆司「ソテツ」より 2014年 作家蔵 *撮影可
後半は宮本が、主に2010年から2018年にかけて撮った、「シマというところ」の連作でした。全て奄美大島の徳之島で撮影され、同地で撮った「ソテツ」や映像「サトウキビ」、それにチラシ表紙を飾る「面縄ピンホール2013」とあわせて展示されていました。徳之島をテーマとした、1つのインスタレーションとして受け止めても差し支えありません。
「シマというところ」は、徳之島の集落に生きる住民のポートレートを中心とした作品で、ほかにも島に残る伝統的な祭りや、洗骨と呼ばれる独特の風習なども写していました。実のところ、宮本は両親の出身地が徳之島で、自身も記憶こそないものの、2歳まで島に住んでいました。また奄美で「シマ」とは、単なる島を意味するのではなく、集落毎に生きる共同体を指す言葉でもあるそうです。もちろん作品からも、徳之島の自然だけでなく、人々の風俗や生活を見ることが出来ました。
「面縄ピンホール2013」は、かつて宮本が暮らしていた徳之島の面縄(おもなわ)の海辺を舞台としていて、タイトルの通り、自作の大型のピンホールカメラで写した作品でした。宮本は撮影に際してピンホールカメラに潜り込み、外から差し込む僅かな光を浴びていると、「海に浸かった記憶が蘇るようだ」(解説より)と思ったそうです。よってこの作品においても、見ていたはずにも関わらず記憶にない、すなわち「いまだ見えざるところ」が表れているのかもしれません。
展示室前のロビーには、宮本が徳之島で実際に使用したピンホールカメラと、撮影時の記録映像もモニターで紹介されていました。あわせてお見逃しなきようにご注意下さい。
東京都写真美術館で開催中の『宮本隆司 いまだ見えざるところ』展。「シマというところ」は、宮本が故郷・徳之島で撮影したシリーズ作品。幼い頃に島に住んでいた記憶は残っていないものの、海辺で撮影をしていたら不思議な経験をしたそうです。https://t.co/6MntSfBJEe pic.twitter.com/YJRW6zZFoM
— Pen Magazine (@Pen_magazine) 2019年6月20日
建築や廃墟の写真で知られる宮本が、まさか近年、自らのルーツでもある徳之島をテーマに撮影を続けていたとは知りませんでした。端的に制作を回顧するのではなく、宮本の過去と今の視点がクロスするような展覧会とも言えそうです。
7月15日まで開催されています。
「宮本隆司 いまだ見えざるところ」 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2019年5月14日(火)~7月15日(月・祝)
休館:月曜日。*但し7月15日(月・祝)は開館。
時間:10:00~20:00
*木・金曜は20時まで開館。
料金:一般700(560)円、学生600(480)円、中高生・65歳以上500(400)円。
*( )は20名以上の団体料金。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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