都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「アルベルト・ジャコメッティ 矢内原伊作とともに」 川村記念美術館
川村記念美術館(千葉県佐倉市坂戸631)
「アルベルト・ジャコメッティ 矢内原伊作とともに」
10/10-12/3

スイス生まれの彫刻家、アルベルト・ジャコメッティ(1902-1966)の作品を概観しながら、彼と交流のあった哲学者、矢内原伊作(1918-1989)との関係を探る展覧会です。ジャコメッティの彫刻や絵画、それに資料など、約140点の作品で構成されています。
「ジャコメッティ/矢内原伊作/みすず書房」
既に名高い彫刻家として知られているジャコメッティはともかく、表題にも登場する日本人哲学者、矢内原伊作については若干の説明が必要かもしれません。1918年生まれの矢内原は、後にサルトル研究のためフランスへと渡り、今からちょうど50年前にあたる1956年にジャコメッティと出会います。それ以来彼は毎年のようにパリへ渡り、ジャコメッティの彫像制作のモデルを務めました。(矢内原がモデルとなった作品は、何とも約230点にも及ぶのだそうです。)この展覧会では、そんな二人の親交を特に第三章「ヤナイハラとともに」で詳しく辿っていきます。矢内原をモデルとする作品は2点ほど展示されているだけですが、展覧会の核心はあくまでも彼らの関係を示す部分でした。

キャリア初期の作品は、どれもジャコメッティのものとは到底思えません。北斎やベラスケスの模写に始まり、ヘンリー・ムーア風とも思えるようなオブジェをいくつも制作しています。それがいつの間にやら、あの細く、またどこか無骨なフォルムの特徴的な彫像を生み出していきました。特に、凹凸の激しい表面の味わいは極めて個性的です。細い線が無数に顔を切り刻み、指先の形をそのまま残したような面がまるで衣服のように体を纏っています。また、彫像に近づいた際に感じられる強い生気は並大抵のものではありませんでした。遠目では、それこそ侘び寂びの境地のような儚い味わいすら感じさせますが、彫りの深い顔のフォルムと、その鋭い眼差しはとても力強いオーラを放っています。思わず後ずさりしてしまうほどの迫力です。

まるで針金細工のような人の彫像によるオブジェも心に残りました。特に、まさに人が檻に閉じ込められているようにも見える「檻」(1950)や、ピノキオのように鼻がのびて柵状の囲いから飛び出している「鼻」(1947)は、殆ど不可思議に思えるほど奇異なフォルムです。また「台上の4つの小彫像」(1950)では、あたかもイースター島もモアイ像のように、ただひたすらに、また寂しく像が佇んでいます。大きくて堅牢な台座部分と、極小の人間のアンバランスさが異様な姿を見せつけていました。

矢内原との関係についてかなり割いていますが、事実上のジャコメッティの回顧展です。なかなかまとまって拝見出来る機会がなかったので、作風の変遷などを中心に興味深く見ることが出来ました。12月3日まで開催されています。(11/5鑑賞)
「アルベルト・ジャコメッティ 矢内原伊作とともに」
10/10-12/3

スイス生まれの彫刻家、アルベルト・ジャコメッティ(1902-1966)の作品を概観しながら、彼と交流のあった哲学者、矢内原伊作(1918-1989)との関係を探る展覧会です。ジャコメッティの彫刻や絵画、それに資料など、約140点の作品で構成されています。

既に名高い彫刻家として知られているジャコメッティはともかく、表題にも登場する日本人哲学者、矢内原伊作については若干の説明が必要かもしれません。1918年生まれの矢内原は、後にサルトル研究のためフランスへと渡り、今からちょうど50年前にあたる1956年にジャコメッティと出会います。それ以来彼は毎年のようにパリへ渡り、ジャコメッティの彫像制作のモデルを務めました。(矢内原がモデルとなった作品は、何とも約230点にも及ぶのだそうです。)この展覧会では、そんな二人の親交を特に第三章「ヤナイハラとともに」で詳しく辿っていきます。矢内原をモデルとする作品は2点ほど展示されているだけですが、展覧会の核心はあくまでも彼らの関係を示す部分でした。

キャリア初期の作品は、どれもジャコメッティのものとは到底思えません。北斎やベラスケスの模写に始まり、ヘンリー・ムーア風とも思えるようなオブジェをいくつも制作しています。それがいつの間にやら、あの細く、またどこか無骨なフォルムの特徴的な彫像を生み出していきました。特に、凹凸の激しい表面の味わいは極めて個性的です。細い線が無数に顔を切り刻み、指先の形をそのまま残したような面がまるで衣服のように体を纏っています。また、彫像に近づいた際に感じられる強い生気は並大抵のものではありませんでした。遠目では、それこそ侘び寂びの境地のような儚い味わいすら感じさせますが、彫りの深い顔のフォルムと、その鋭い眼差しはとても力強いオーラを放っています。思わず後ずさりしてしまうほどの迫力です。


まるで針金細工のような人の彫像によるオブジェも心に残りました。特に、まさに人が檻に閉じ込められているようにも見える「檻」(1950)や、ピノキオのように鼻がのびて柵状の囲いから飛び出している「鼻」(1947)は、殆ど不可思議に思えるほど奇異なフォルムです。また「台上の4つの小彫像」(1950)では、あたかもイースター島もモアイ像のように、ただひたすらに、また寂しく像が佇んでいます。大きくて堅牢な台座部分と、極小の人間のアンバランスさが異様な姿を見せつけていました。

矢内原との関係についてかなり割いていますが、事実上のジャコメッティの回顧展です。なかなかまとまって拝見出来る機会がなかったので、作風の変遷などを中心に興味深く見ることが出来ました。12月3日まで開催されています。(11/5鑑賞)
コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )
« オーチャード... | 「クリーブラ... » |
ジャコメッティ展、僕は夏に葉山の神奈川県立近代美術館で見てきました。ジャコメッティは有名な割に、実物を見たことがなくて…。しかし実物を見て、ますます何じゃこりゃ?でした。(^_^;)
矢内原との関係については、僕はよく分かりませんでした。でも、ジャコメッティの回顧展としては十分堪能できたと思います。
(かなり難しいエロスの定義でしたが・・笑)
あれって初期のものなのかぁ。
兄弟のどちらのものか記憶にありませんが、素描も素敵ですよね。
こんばんは。ご無沙汰しております。コメントありがとうございます。
>僕は夏に葉山の神奈川県立近代美術館
葉山でも開催されておりましたよね。
私はどうしても近い川村の方をとってしまいますが、
ともに自然に囲まれたロケーション抜群の美術館です。
>実物を見て、ますます何じゃこりゃ?
針金細工のような彫像を見ると確かに戸惑います。
初期の比較的まっとう(?)な抽象彫刻から何故あのような方向へいったのか、ちょっと私には分かりませんでした…。
>矢内原との関係については、僕はよく分かりませんでした。
同感です。
矢内原との関係は半ば唐突に訪れますよね。二人の間に一体何があったのか、もう少し説明があればとも思いました。
@OZさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
>「エロス」にもジャコメッティの丸いフォルムの作品が展示されていました。(かなり難しいエロスの定義でしたが・・笑)あれって初期
初期の作品は中期以降のそれとは似ても似つきませんよね。
展示でも何やら突然細い彫像へ向ったので驚きました。
>素描も素敵
彫像制作のためのデッサンが殆どでしたが、
素描もかなり多く展示されていました。
あの密度の濃い精緻な線描を見ると、
彫像の表面に施された凹凸感のある線を見るようです。
まとめて幾つかの記事にTB送らせていただきました。
レスポンス悪くて申し訳ないです。
そうそう、「鍋」でもやりましょう。
こちらにもありがとうございます。
最終日に行かれたのですよね。
なかなか充実していた展覧会だったと思います。
ただ結局、ジャコメッティが何故あのような個性的な彫像を造ったのかは分かりませんでしたが…。
>「鍋」
いいですね。ちょうど寒くなってきましたし…。
暖かくなりそうです!