都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「モーリス・ルイス 秘密の色層」 川村記念美術館
川村記念美術館(千葉県佐倉市坂戸631)
「モーリス・ルイス 秘密の色層」
9/13-11/30
『秘密』のカーテンの先には一体何が広がっているのでしょうか。20世紀アメリカを代表する画家(ちらしより引用)、モーリス・ルイスの軌跡をたどります。川村記念美術館での回顧展へ行ってきました。
出品数が全15点とかなり少なめですが、どれもが一辺は2メートルを超えるようなものばかりです。そう見劣りすることはありません。
まずルイスのペインティングで特徴的なのは、サブタイトルの『色層』にもあるように、キャンバスの上を何層にもわたって行き交い、また流れる絵具、ようはステイニングの技法です。
彼は生前、殆ど作品を公開しなかったばかりか、制作の現場を妻にも見せなかったために、実際にどのようにして描いたのか明らかでありませんが、粘性の低いアクリル絵具を多用した、透明感のある色の揺らぎは、グラデーションの美しさはもとより、遮られたカーテンの向こうにある深淵な世界を覗き込むかのような不思議な味わいが感じられます。
と言っても、何かと見比べられるロスコのような哲学的な気配は殆ど感じられません。多様な色が錯綜して滲み、そして澱むことで、例えば靡くオーロラを見上げるような大自然のイメージも浮かび上がってきました。絶えず変化する色の波に全身が包まれます。その感覚は絶妙でした。
ルイスの作品を大別すると、計三つのスタイルに分けられますが、一番魅力的だったのは『ヴェール』と呼ばれる一連の大作群でした。
「ヌン」における繭状になった色彩の滲みは、滝の表面のような激しい動きを生み出していますが、その絡み合ってまとまり付く様はどこかエロティックでさえあります。
また赤が流れつつも、一つのオブジェを象るかのようにまとまりを見せた「ヴァヴ」(1960)、そしてストロークがキャンバスを覆う膜のように流れ、緑がバックライトを照らされたようにも光る「ギメル」(1958)など、シンプルな造形ながらも多様な表情をたたえた作品がいくつも並んでいました。まるで色と形そのものが生命をもって動いているかのようです。
中央に大きく余白をとった『アンファールド』は、原色の絵具がもっとシンプルに、半ば爛れるようにして流れゆく美しい作品でした。
ルイスは結局、『ストライプ』のような半ば幾何学的な面をとるものへと到達しますが、膜から帯、そして束へとなっていく過程は、どこか彼の色に対する求道的な戦いの足跡のようにも感じられてなりません。
また『アンファールド』における大胆な余白は、他の現代の西洋抽象画ではあまり見られないのではないでしょうか。ルイスのとる『間』は、アメリカ現代美術というよりももっと我々の感覚に近いところにありそうです。
今月末、30日までの開催です。
「モーリス・ルイス 秘密の色層」
9/13-11/30
『秘密』のカーテンの先には一体何が広がっているのでしょうか。20世紀アメリカを代表する画家(ちらしより引用)、モーリス・ルイスの軌跡をたどります。川村記念美術館での回顧展へ行ってきました。
出品数が全15点とかなり少なめですが、どれもが一辺は2メートルを超えるようなものばかりです。そう見劣りすることはありません。
まずルイスのペインティングで特徴的なのは、サブタイトルの『色層』にもあるように、キャンバスの上を何層にもわたって行き交い、また流れる絵具、ようはステイニングの技法です。
彼は生前、殆ど作品を公開しなかったばかりか、制作の現場を妻にも見せなかったために、実際にどのようにして描いたのか明らかでありませんが、粘性の低いアクリル絵具を多用した、透明感のある色の揺らぎは、グラデーションの美しさはもとより、遮られたカーテンの向こうにある深淵な世界を覗き込むかのような不思議な味わいが感じられます。
と言っても、何かと見比べられるロスコのような哲学的な気配は殆ど感じられません。多様な色が錯綜して滲み、そして澱むことで、例えば靡くオーロラを見上げるような大自然のイメージも浮かび上がってきました。絶えず変化する色の波に全身が包まれます。その感覚は絶妙でした。
ルイスの作品を大別すると、計三つのスタイルに分けられますが、一番魅力的だったのは『ヴェール』と呼ばれる一連の大作群でした。
「ヌン」における繭状になった色彩の滲みは、滝の表面のような激しい動きを生み出していますが、その絡み合ってまとまり付く様はどこかエロティックでさえあります。
また赤が流れつつも、一つのオブジェを象るかのようにまとまりを見せた「ヴァヴ」(1960)、そしてストロークがキャンバスを覆う膜のように流れ、緑がバックライトを照らされたようにも光る「ギメル」(1958)など、シンプルな造形ながらも多様な表情をたたえた作品がいくつも並んでいました。まるで色と形そのものが生命をもって動いているかのようです。
中央に大きく余白をとった『アンファールド』は、原色の絵具がもっとシンプルに、半ば爛れるようにして流れゆく美しい作品でした。
ルイスは結局、『ストライプ』のような半ば幾何学的な面をとるものへと到達しますが、膜から帯、そして束へとなっていく過程は、どこか彼の色に対する求道的な戦いの足跡のようにも感じられてなりません。
また『アンファールド』における大胆な余白は、他の現代の西洋抽象画ではあまり見られないのではないでしょうか。ルイスのとる『間』は、アメリカ現代美術というよりももっと我々の感覚に近いところにありそうです。
今月末、30日までの開催です。
コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
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はろるどさんは、「間」に日本の間と共通するもの見たのですか・・
私は色に「和」を感じました
つくづく感じました。
こんばんは。早速のTBをありがとうございます。
>「間」に日本の間と共通するもの見たのですか・・
私は色に「和」を感じました
仰るように色にもそのような要素があったかもしれませんね。
草色のような和テイストの色遣いも随所に見られました。
>観た人が少ない
都内からやはり少し遠いので致し方ないのかもしれません。
ですがなかなか良い展示でした。
@一村雨さん
こんばんは。
>「色」って不思議
色がそのまま絵になる瞬間を見たような気がします。
本当に不思議でした。