都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「線の巨匠たち」 東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学大学美術館(台東区上野公園12-8)
「線の巨匠たち - アムステルダム歴史博物館所蔵 素描・版画展」
10/11-11/24
主に17世紀から19世紀に至るまでのオランダの素描を概観します。芸大美術館での「線の巨匠たち」へ行ってきました。
冒頭はオランダに先行するイタリアやドイツの素描が紹介されていましたが、フランチェスコ・サルヴィアーティの「目を閉じる女性」(1540年頃)の美しさには目を奪われるものがありました。やや頭を下に傾け、目を伏せながらも口元にはかすかに微笑みをたたえた優美な女性が描かれています。肌のキメさえ表すような繊細な線描とぼかしも用いられた陰影、または例えば目の上の肉付きの部分などにも見られるような巧みな立体感と、どれもが抜群の精度をもって表現されていました。また精緻と言えば、同じコーナーに並ぶデューラーの「聖エウスタキウス」(1501)も見逃せない一枚でしょう。元々は異教徒であったというローマ軍司令官、プラキダスが、狩りの最中に磔刑像をつけた牡鹿と出会い、跪いて改宗する光景が丁寧なタッチで描かれています。岩肌の露出した後景の山から中景のプラキダスと牡鹿、そして馬と犬が群れる前景へと迫りだすような構図感もまた見事でした。このむせるような濃密さこそデューラーの醍醐味です。
16世紀中頃になって素描芸術の開花したオランダでは後、17世紀に入るといわゆる黄金期を迎えます。ここで印象深いのはルーベンスの「愛の園」を模写したランペルールの作品です。展示では、ルーベンス自身による下図素描も出品されていましたが、これらを見比べることで、いわゆる本画に至るまでの過程と、逆に完成作を言わばコピーするかのように版画化した経緯が良く分かるように思えます。また、ホイエンやライスダールの水彩やチョーク画が出ていたのには驚かされました。ライスダールの「木々の間の水車のある風景」(1650年頃)は、景色を大きく横切るように靡いた木の描写がとりわけ魅力的な作品です。葉のざわざわとした感触までがこちらに伝わってくるのようでした。
レンブラントの版画が約10点も並んでいます。中でも圧巻なのは、ともに約50センチ四方という異例の大きさを誇る「十字架降下」(1633年)と「この人を見よ」(1636年)でしょう。前者では今、まさに十字架より降ろされようとするイエスの姿が、上方から差し込む光によって神々しく、またどこか写実的に表されています。群衆たちのイエスを見つめる目には力がこもっていました。この二点を見られるだけでも十分に満足し得うるというものです。
ロマン派の時代へ入ると風景も叙情的な要素が強く滲み出てきます。白眉はアレクサンドル・カラームの「木々のある風景」(1842年頃)ではないでしょうか。嵐の過ぎ去った荒野の上には、大風を受けて左へと傾いた木立が力強く群生しています。右から照らされた光は、左へ抜けた雲の次に控えた青空を予感させる明かりなのでしょう。地上の草地は乱れ、木も幹こそしっかりと大地を捉まえながらも、枝葉はちぎれそうなほどに振り乱されていました。思わず景色にのまれてしまいます。
これに続く特集展示、「19世紀日本の風景表現を中心に」は、同一会場で見るにはやや蛇足気味と言うのか、メインの余韻を削いでしまう嫌いもありましたが、谷文晁から広重、江漢、そして由一と、見応えのある作品はいくつも揃っていました。
前回の「悲母観音」に続く好企画です。テキストの充実した図録も良く出来ていました。
次の祝日、24日の月曜日まで開催されています。今更ながらおすすめします。
「線の巨匠たち - アムステルダム歴史博物館所蔵 素描・版画展」
10/11-11/24
主に17世紀から19世紀に至るまでのオランダの素描を概観します。芸大美術館での「線の巨匠たち」へ行ってきました。
冒頭はオランダに先行するイタリアやドイツの素描が紹介されていましたが、フランチェスコ・サルヴィアーティの「目を閉じる女性」(1540年頃)の美しさには目を奪われるものがありました。やや頭を下に傾け、目を伏せながらも口元にはかすかに微笑みをたたえた優美な女性が描かれています。肌のキメさえ表すような繊細な線描とぼかしも用いられた陰影、または例えば目の上の肉付きの部分などにも見られるような巧みな立体感と、どれもが抜群の精度をもって表現されていました。また精緻と言えば、同じコーナーに並ぶデューラーの「聖エウスタキウス」(1501)も見逃せない一枚でしょう。元々は異教徒であったというローマ軍司令官、プラキダスが、狩りの最中に磔刑像をつけた牡鹿と出会い、跪いて改宗する光景が丁寧なタッチで描かれています。岩肌の露出した後景の山から中景のプラキダスと牡鹿、そして馬と犬が群れる前景へと迫りだすような構図感もまた見事でした。このむせるような濃密さこそデューラーの醍醐味です。
16世紀中頃になって素描芸術の開花したオランダでは後、17世紀に入るといわゆる黄金期を迎えます。ここで印象深いのはルーベンスの「愛の園」を模写したランペルールの作品です。展示では、ルーベンス自身による下図素描も出品されていましたが、これらを見比べることで、いわゆる本画に至るまでの過程と、逆に完成作を言わばコピーするかのように版画化した経緯が良く分かるように思えます。また、ホイエンやライスダールの水彩やチョーク画が出ていたのには驚かされました。ライスダールの「木々の間の水車のある風景」(1650年頃)は、景色を大きく横切るように靡いた木の描写がとりわけ魅力的な作品です。葉のざわざわとした感触までがこちらに伝わってくるのようでした。
レンブラントの版画が約10点も並んでいます。中でも圧巻なのは、ともに約50センチ四方という異例の大きさを誇る「十字架降下」(1633年)と「この人を見よ」(1636年)でしょう。前者では今、まさに十字架より降ろされようとするイエスの姿が、上方から差し込む光によって神々しく、またどこか写実的に表されています。群衆たちのイエスを見つめる目には力がこもっていました。この二点を見られるだけでも十分に満足し得うるというものです。
ロマン派の時代へ入ると風景も叙情的な要素が強く滲み出てきます。白眉はアレクサンドル・カラームの「木々のある風景」(1842年頃)ではないでしょうか。嵐の過ぎ去った荒野の上には、大風を受けて左へと傾いた木立が力強く群生しています。右から照らされた光は、左へ抜けた雲の次に控えた青空を予感させる明かりなのでしょう。地上の草地は乱れ、木も幹こそしっかりと大地を捉まえながらも、枝葉はちぎれそうなほどに振り乱されていました。思わず景色にのまれてしまいます。
これに続く特集展示、「19世紀日本の風景表現を中心に」は、同一会場で見るにはやや蛇足気味と言うのか、メインの余韻を削いでしまう嫌いもありましたが、谷文晁から広重、江漢、そして由一と、見応えのある作品はいくつも揃っていました。
前回の「悲母観音」に続く好企画です。テキストの充実した図録も良く出来ていました。
次の祝日、24日の月曜日まで開催されています。今更ながらおすすめします。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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線の巨匠、良かったです。
人体を魔法のように浮き上がらせて表現できる
線の技にため息でした。
最近の芸大美術館はスマッシュヒットですね。
自分でも意外と通っている事に気がつきました。
線の巨匠は仰るようにスマッシュヒットでしたね。
チラシを拝見した時はあまりイメージが浮かばなかったのですが、
冒頭数作だけでいきなり引き込まれました。行って良かったです。
>人体を魔法のように浮き上がらせて
素描の線は繊細で美しいですよね。魔法と仰るのに同感です!
私もカラームに惹かれました。
素描だったら、私にも収集できるかなあ・・。
でも、センスがいりますね。
カラーム素敵でしたね。ああいう絵は素直にぐっと引かれてしまいます。あの場所に一瞬心が飛びました。
>素描だったら、私にも収集できる
いつかogawamaコレクションを拝見させてください!