「クライドルフの世界」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「スイスの絵本画家 クライドルフの世界」 
6/19-7/29



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「スイスの絵本画家 クライドルフの世界」へ行ってきました。

美しい花や草木、それに虫たちを擬人化させ、メルヘンの国を描いたエルンスト・クライドルフ(1863~1956)。

19世紀末から20世紀初頭、ヨーロッパの絵本芸術の先駆けとして知られる作家ですが、チラシ表紙の図版を挙げるまでもなく、可愛らしい詩的世界に惹かれる方も多いかもしれません。


「自画像」水彩・紙 1916年 ベルン美術館
ProLitteris,Zurich


しかしながらアカデミーを志しながらも体調を崩して挫折し、若くして両親の家業が破産、しかも最愛の姉から二人の弟、さらには母までを立て続けに亡くして強い喪失感にとらわれていた、とすればまた印象も大きく変わるのではないでしょうか。


会場風景

ずばり言ってしまえば可愛らしさとその奥に見え隠れする儚さ、また物悲しさこそ、クライドルフの最大の魅力に他なりません。

東スイスの農村で暮らしたクライドルフは、幼い頃から植物や昆虫のスケッチを行い、アルプスで療養生活を送っている時も、自然、とりわけ「小さな生き物の世界」に慰みを見出しました。


左:「牧歌的な朝」油彩・キャンヴァス 1893年 ベルン美術館

冒頭の何点かの写実性の高い肖像画、また風景画からは、そうしたクライドルフの家族への愛、さらにら彼が見つめていた自然を知ることが出来るのではないでしょうか。

絵本におけるデビュー作は「花のメルヘン」です。


「『花のメルヘン』より『輪舞』」墨、水彩・紙 1898年 ヴィンタートゥール美術館
Kunstmuseum Winterthur ,Deponiert von der Schweizerischen Eidgenossenschaft, Bundesamt fur Kultur , Bern 1904 ProLitteris,Zurich


色とりどりの草花の中を擬人化されたバッタたちが舞う世界、早くもクライドルフの生き物に対する愛情が満ち溢れています。

またこのバッタと並んで頻繁に登場するのが小人たちです。


「『バッタさんのきせつ』より『秋のおまつり』」水彩、墨・紙 1931年 ベルン美術館
ProLitteris,Zurich


クライドルフはメルヘンの中にも日常の生活や体験を取り込んで、どこか親しみ易い絵本を次々と生み出しました。

そして虫たちだけではなく、草花に対するクライドルフの並々ならぬ関心も見逃すことは出来ません。

「詩画集 花」では植物としての花が繊細なタッチをもってリアルに描かれています。

またとりわけ印象的なのは、黒い紙に水彩の色鉛筆で草花を描いた何点かのスケッチです。


右:「白バラ」水彩・グワッシュ・黒い紙 1938年 ベルン美術館
 
暗がりから浮かぶ白いバラ、「白バラ」などは、どこか神秘的なまでの美しさをたたえてはいないでしょうか。

それに花や草の個性、つまりは生物学的特徴にあわせて物語を展開している点も面白いところです。


「『アルプスの花物語』より『アザミとエリンギウム』水彩・紙 1918年または19年 ベルン美術館
ProLitteris,Zurich


例えばクライドルフの代表作ともいわれる「アルプスの花物語」では猛毒のトリカブトを軍人として描いているではありませんか。

花や草の個性を見極めて、情感豊かに描いた小さな生き物の世界、幼き頃から自然に親しみ、直に接してきたクライドルフだからこそ成し遂げられたのかも知れません。

さてクライドルフはこうした草花の他にもグリム神話などの古典、またキリスト教の伝説上の取り込んだ絵本も描いています。 また教育活動にも関わり、「庭の赤いバラ」はベルンの小学校の教科書としても採用されました。


「『花を棲みかに』より『わたりどり』」水彩、墨・紙 1926年以前 ベルン美術館
ProLitteris,Zurich


そして初めに触れた可愛らしさの裏に潜む儚さ、言わば夢幻的な世界を展開したのが、エピローグで紹介された「夢の人物」、そして「運命の夢と幻想」のシリーズです。

中でも「運命の夢と幻想」の「手の夢」は衝撃的です。 草地から白い花が伸びていると思って近づくと、何とそこで生えていたのは無数の白い手ではありませんか。

草花や昆虫に発したクライドルフの生き物の世界は、いつしか象徴主義とも超現実主義とも言える地点へと到達していました。


フラワーデザイナー岡田歩さんの展覧会オリジナルコサージュ

さてグッズの情報です。今回、スペシャルコラボレーションとして注目なのはフラワーデザイナー岡田歩さんのオリジナルコサージュです。

クライドルフの生地スイス、アルプスの高山植物が、岡田さんの緻密な手仕事によって生み出されています。


吉谷桂子ガーデンジオラマ「クライドルフの世界」

また岡田さんはガーデンデザイナーの吉谷桂子さんによるジオラマ「クライドルフの世界」のドレスフラワーも担当されています。


絵本閲覧コーナー

さらに会場内にはお子さんのサイズにあわせて設置された絵本コーナーなどもありました。いつもながらに文化村ならではの嬉しい展示の仕掛けも見どころかもしれません。

「ふゆのはなし/クライドルフ/世界傑作絵本シリーズ/福音館書店」

可愛らしさの奥に潜む「影」の世界、是非とも探ってみて下さい。

「くさはらのこびと/クライドルフ/世界傑作絵本シリーズ/福音館書店」

7月29日まで開催されています。

「スイスの絵本画家 クライドルフの世界」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:6月19日(火)~7月29日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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