都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「山田純嗣展 絵画をめぐって」 日本橋高島屋美術画廊X
高島屋東京店 美術画廊X
「山田純嗣展 絵画をめぐって」
10/12-10/31
日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の個展、「絵画をめぐって」へ行ってきました。
東京では2010年の不忍画廊での新作展以来、約2年ぶりとなる個展ですが、今回は山田の制作や表現の種を解き明かすような内容となっています。
それはずばり立体です。そもそも彼はまず、自らが作った立体を写真で撮影、それを銅版の線に重ねる独自の手法にて、結果生まれるモノクロームの平面を作り出していますが、その原点とも言うべき立体がとうとうお目見えすることになりました。
また立体は単に個別に展示されているわけではありません。その立体は平面の完成作とほぼ同じ構図、ようは二次元の絵画を三次元に置き換えた様相で並べられています。こうした形式での展示は、山田の制作の基盤で、なおかつ地元でもある愛知では何度か試みられたそうですが、東京では初めてということでした。
石膏で固められた立体がずらりと並ぶ姿は一つのインスタレーションとしても美しく、また見応えがありますが、まるで絵画の中へと迷い込んだかのような感覚も味わうことが出来るのではないでしょうか。
またそもそも山田は写真や版画を駆使し、作品自体もあくまで『絵画のようなもの』としか言えないような複層性にこそ魅力がありますが、そこへさらに立体を重ね合わせた時、よりトリッキーな表現の合間を漂っているかのような気持ちにさせられるかもしれません。
そうした意味でも「絵画をめぐって」というタイトルが心に響いてきます。絵画とは何物かを問う山田の制作のプロセスは、まさに素材を行き来して、相互の壁を乗り越えようとしてめぐりゆく『旅』そのものでした。
さて立体と並び、もう一点興味深いのがトレーシングペーパーに描かれた素描です。山田はヒエロニムス・ボスの「快楽の園」をモチーフにした三面の大作、「GARDEN EARTHLY DELIGHTS」を製作中(うち今回は中央部分を展示。)ですが、その下絵と言うべき素描が展示されています。
作中に登場する無数の魔物や植物は立体としても展示されていましたが、ここではそれをインクと鉛筆の素描といった、平面としては最も簡素な表現で見ることが出来ます。
もちろん完成作における白やパールの色彩、そして近づくことで初めて開ける銅版の細かな質感にも醍醐味がありますが、この素描の公開も立体と同様、素材をない交ぜにする山田の表現の関心の在処を伺い知れるものと言えるのかもしれません。
最後に触れておきたい作品が「Sirmon」です。その画面を見れば一目瞭然、モチーフには彼の高橋由一の傑作、「鮭」が用いられています。
これまでに山田はボスなどの西洋画をはじめ、今回も展示されている速水御舟の炎舞などの日本画などを素材としてきましたが、この「鮭」は日本人の描く油画としては初めて取り入れたモチーフです。
高橋由一は油画黎明期、質感の表現をひたすら追求し続けたことでも知られていますが、そのような由一に対しての「salmon」は、同じく質感を重視してやまない山田の作品の中でも、これまでにはない際立った物質感を放っていました。
絵画とは何かという部分を様々な素材、そして他にはない質感で表そうとする山田が、「鮭」に取り組んだことを何らかの次への展開へと捉えているように思えてなりません。
由一、そしてそれを祖とする日本の写実的な油画表現に対する一つの挑戦状のようにも見えました。
10月31日まで開催されています。
「山田純嗣展 絵画をめぐって」 日本橋高島屋 美術画廊X
会期:10月12日(水)~10月31日(月)
休廊:会期中無休。
時間:10:00~20:00
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋6階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
「山田純嗣展 絵画をめぐって」
10/12-10/31
日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の個展、「絵画をめぐって」へ行ってきました。
東京では2010年の不忍画廊での新作展以来、約2年ぶりとなる個展ですが、今回は山田の制作や表現の種を解き明かすような内容となっています。
それはずばり立体です。そもそも彼はまず、自らが作った立体を写真で撮影、それを銅版の線に重ねる独自の手法にて、結果生まれるモノクロームの平面を作り出していますが、その原点とも言うべき立体がとうとうお目見えすることになりました。
また立体は単に個別に展示されているわけではありません。その立体は平面の完成作とほぼ同じ構図、ようは二次元の絵画を三次元に置き換えた様相で並べられています。こうした形式での展示は、山田の制作の基盤で、なおかつ地元でもある愛知では何度か試みられたそうですが、東京では初めてということでした。
石膏で固められた立体がずらりと並ぶ姿は一つのインスタレーションとしても美しく、また見応えがありますが、まるで絵画の中へと迷い込んだかのような感覚も味わうことが出来るのではないでしょうか。
またそもそも山田は写真や版画を駆使し、作品自体もあくまで『絵画のようなもの』としか言えないような複層性にこそ魅力がありますが、そこへさらに立体を重ね合わせた時、よりトリッキーな表現の合間を漂っているかのような気持ちにさせられるかもしれません。
そうした意味でも「絵画をめぐって」というタイトルが心に響いてきます。絵画とは何物かを問う山田の制作のプロセスは、まさに素材を行き来して、相互の壁を乗り越えようとしてめぐりゆく『旅』そのものでした。
さて立体と並び、もう一点興味深いのがトレーシングペーパーに描かれた素描です。山田はヒエロニムス・ボスの「快楽の園」をモチーフにした三面の大作、「GARDEN EARTHLY DELIGHTS」を製作中(うち今回は中央部分を展示。)ですが、その下絵と言うべき素描が展示されています。
作中に登場する無数の魔物や植物は立体としても展示されていましたが、ここではそれをインクと鉛筆の素描といった、平面としては最も簡素な表現で見ることが出来ます。
もちろん完成作における白やパールの色彩、そして近づくことで初めて開ける銅版の細かな質感にも醍醐味がありますが、この素描の公開も立体と同様、素材をない交ぜにする山田の表現の関心の在処を伺い知れるものと言えるのかもしれません。
最後に触れておきたい作品が「Sirmon」です。その画面を見れば一目瞭然、モチーフには彼の高橋由一の傑作、「鮭」が用いられています。
これまでに山田はボスなどの西洋画をはじめ、今回も展示されている速水御舟の炎舞などの日本画などを素材としてきましたが、この「鮭」は日本人の描く油画としては初めて取り入れたモチーフです。
高橋由一は油画黎明期、質感の表現をひたすら追求し続けたことでも知られていますが、そのような由一に対しての「salmon」は、同じく質感を重視してやまない山田の作品の中でも、これまでにはない際立った物質感を放っていました。
絵画とは何かという部分を様々な素材、そして他にはない質感で表そうとする山田が、「鮭」に取り組んだことを何らかの次への展開へと捉えているように思えてなりません。
由一、そしてそれを祖とする日本の写実的な油画表現に対する一つの挑戦状のようにも見えました。
10月31日まで開催されています。
「山田純嗣展 絵画をめぐって」 日本橋高島屋 美術画廊X
会期:10月12日(水)~10月31日(月)
休廊:会期中無休。
時間:10:00~20:00
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋6階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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