小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館本館所蔵品ギャラリー(第4室)
小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」
6/5〜9/24

東京国立近代美術館のMOMATコレクションで公開中の、小泉癸巳男の「昭和大東京百図絵」を見てきました。

1909年に上京し、自画自刻自摺を基本とした創作版画家であった小泉癸巳男(こいずみきしお)は、関東大震災後の東京を、色彩豊かな版画に表現しました。

それが1929年に頒布が開始され、1937年に完成した「昭和大東京百図絵」シリーズで、完成後に改刻された作品をあわせると、全105点ほど制作しました。


小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」より「芝浦臨海埠頭ハネ上ゲ橋」 1930年

一例が「芝浦臨海埠頭ハネ上ゲ橋」で、貨物線である汐留貨物駅から日の出埠頭内にあり、古川河口に建設された可動橋、つまり「ハネ上げ橋」を描きました。ちょうど図では、船舶が航行出来るように、橋桁が跳ね上がっていますが、線路を利用する際には降ろされ、貨物列車が通行しました。おおよそ1分20秒ほどで開閉したそうで、完成当初は「東洋一の可動橋」と称されました。


小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」より「改版 戸越銀座・荏原区」 1940年

「戸越銀座・荏原区」では、当時の池上電鉄(現在の東急池上線)の戸越銀座駅に発着した電車を描いていました。ちょうど鉄道が到着した場面なのか、大勢の人たちがホームへ降りていて、手前の踏切も閉まっていました。戸越銀座では、1927年に商店街が発足し、翌年には中央区の銀座よりも早く、銀座の名を冠した戸越銀座駅が開業しました。


小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」より「春の銀座夜景」 1931年

その本家の銀座を舞台としたのが、「春の銀座夜景」で、ネオンサインの放つ銀座の市街を表現しました。暗がりの中、ネオンやビルの灯りの光が際立っていて、街の喧騒が伝わってくるかようでした。

いずれの「昭和大東京百図絵」も発色が鮮やかであり、なおかつ単純化した構図が特徴的で、中にはビルの幾何学的な形態を強調していることもありました。僅かに抽象を思わせる面があるかもしれません。


小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」より「東京深川塵芥處理工場」 1933年

小泉は、上京後、「水彩画のパイオニア」とも呼ばれた大下藤次郎の水彩研究所に学んでから、創作版画の道を歩みました。小泉の作品における色彩感は、師の大下に倣うところが多かったのかもしれません。


小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」より「淀橋区新宿街景」 1935年

「淀橋区新宿街景」も魅惑的ではないでしょうか。青空の下、光を受けては、クリーム色や白く輝く建物の色も美しく、まさに「ドライな感覚」(解説より)が見られました。なお、版画家で洋画家でもあった石井柏亭は、小泉を「昭和の広重」とも呼んでいたそうです。


小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」より「東京市役所」 1936年

小泉の描いた東京は、この後、第二次世界大戦の空襲により、灰燼に帰してしまいましたが、戦前の一時、同地に花開いたモダンな文化を垣間見ることが出来ました。


小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」より「兜町・取引所街」 1937年

東京国立近代美術館では、一連の「昭和大東京百図絵」を57点所蔵していますが、今回は10数点のみが公開されているに過ぎません。いつか全作を揃いで見る機会があればと思いました。

9月24日まで公開されています。

小泉癸巳男「昭和大東京百図絵」 東京国立近代美術館本館所蔵品ギャラリー「MOMAT コレクション」(@MOMAT60th) 
会期:6月5日(火)〜9月24日(月・祝)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜・土曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般500(400)円、大学生250(200)円、高校生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *5時から割引:一般300円、大学生150円。
 *無料観覧日(所蔵作品展のみ):8月6日(日)、9月3日(日)。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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