都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「スイス現代美術展」 千葉市美術館 1/14
千葉市美術館(千葉市中央区中央3-10-8)
「スイス現代美術展 リアルワールド-現実世界」
2005/12/17~2006/2/26
5組のスイス人アーティストによる現代美術の展覧会です。オブジェや写真、または映像など、様々なジャンルの作品が、空間を贅沢に使って展示されています。スイスの今の、どこか無機質なアート・シーンを感じられる展覧会です。
一番初めに展示されているシャリヤー・ナシャットの二点のビデオ・インスタレーションでは、「規制する線」(2005)を特に面白く見ることが出来ます。舞台は、ルーブル美術館内にあるルーベンスの「マリー・ド・メディシス」。ここに、上半身をさらけ出した一人の男性が、絵画へ身体的に対峙するというコンセプトの元、ルーベンスの作中における芳醇な肉体美と競うかのような肉体を見せながら、絵に向かって逆立ちなどをして、ひたすら意味ありげに絵画を告発します。「ルーベンス」という崩れ去ることのない西洋美術の権威の前において、半ば悲壮感を漂わせながら絵と対決する半裸の男性。イメージの重なる、絵画と男性の二つの肉体は美的でもあり、そのぶつかり合いにあまり嫌みを感じさせません。なかなか興味深い作品です。
この展覧会で最も美しかったのは、ウーゴ・ロンディノーネの「スリープ」(1999)です。海辺を歩く、どこか中性的な男女を捉えた167枚の写真。それが、壁面に設置された、真っ白の大きな木製のパネルにたくさん貼られています。海辺という同じ場にいるはずの男女は、決して仲良く一枚の写真におさまることはありません。また、どの写真も男女の姿以外は、写り込む海や空などを中心にして、周囲の白パネルの支持体を巻き込むかのように、極めて白っぽく捉えられています。この白さと、視線のつながりすらない、男女が別々に捉えられた写真。やはりここに二人の関係を見ないわけにはいかないでしょう。乾いた、そして緊張感のあるこの男女の関係を、何やら不安気に見せる作品でした。
「緊急用や警察用の装備品に隠された意味を探る」(美術館HPから。)という主旨の作品を制作するファブリス・シージは、何と言っても「エアバッグ」(1997)が目立ちます。展示室中央にドーンと置かれた、真っ赤なトランポリンのような、約5メートル四方、厚さ1メートルほどの巨大な緊急脱出用エアバック。もちろん靴を脱いで上に乗ることも可能です。ビニールがややゴツゴツとした感触を与えますが、空気の上にのせられている感覚はやはり心地良く(空気ポンプにて常に膨らんだ状態にあります。)、思わず本来の用途を忘れさせるようなのんびりした雰囲気に包まれてしまいます。そして、この作品に揺られながら、壁にかけられた同じくシージによる「グレーのモノクローム」(2003)を眺めます。遠目からだとまるでモノクローム絵画のようですが、実は軍用などに使われるシートをフレームに張っただけの作品です。それに気付いた時、今自分ののっているエアバックの奇妙な心地良さは何を示すのか。「隠された意味」を身体的に感じさせる作品なのかもしれません。
大きな作品が多い反面、数は少なく、全体的なボリュームこそやや欠けますが、あまり他では紹介されない、スイスの現代美術に触れられる展覧会です。来月26日までの開催です。
「スイス現代美術展 リアルワールド-現実世界」
2005/12/17~2006/2/26
5組のスイス人アーティストによる現代美術の展覧会です。オブジェや写真、または映像など、様々なジャンルの作品が、空間を贅沢に使って展示されています。スイスの今の、どこか無機質なアート・シーンを感じられる展覧会です。
一番初めに展示されているシャリヤー・ナシャットの二点のビデオ・インスタレーションでは、「規制する線」(2005)を特に面白く見ることが出来ます。舞台は、ルーブル美術館内にあるルーベンスの「マリー・ド・メディシス」。ここに、上半身をさらけ出した一人の男性が、絵画へ身体的に対峙するというコンセプトの元、ルーベンスの作中における芳醇な肉体美と競うかのような肉体を見せながら、絵に向かって逆立ちなどをして、ひたすら意味ありげに絵画を告発します。「ルーベンス」という崩れ去ることのない西洋美術の権威の前において、半ば悲壮感を漂わせながら絵と対決する半裸の男性。イメージの重なる、絵画と男性の二つの肉体は美的でもあり、そのぶつかり合いにあまり嫌みを感じさせません。なかなか興味深い作品です。
この展覧会で最も美しかったのは、ウーゴ・ロンディノーネの「スリープ」(1999)です。海辺を歩く、どこか中性的な男女を捉えた167枚の写真。それが、壁面に設置された、真っ白の大きな木製のパネルにたくさん貼られています。海辺という同じ場にいるはずの男女は、決して仲良く一枚の写真におさまることはありません。また、どの写真も男女の姿以外は、写り込む海や空などを中心にして、周囲の白パネルの支持体を巻き込むかのように、極めて白っぽく捉えられています。この白さと、視線のつながりすらない、男女が別々に捉えられた写真。やはりここに二人の関係を見ないわけにはいかないでしょう。乾いた、そして緊張感のあるこの男女の関係を、何やら不安気に見せる作品でした。
「緊急用や警察用の装備品に隠された意味を探る」(美術館HPから。)という主旨の作品を制作するファブリス・シージは、何と言っても「エアバッグ」(1997)が目立ちます。展示室中央にドーンと置かれた、真っ赤なトランポリンのような、約5メートル四方、厚さ1メートルほどの巨大な緊急脱出用エアバック。もちろん靴を脱いで上に乗ることも可能です。ビニールがややゴツゴツとした感触を与えますが、空気の上にのせられている感覚はやはり心地良く(空気ポンプにて常に膨らんだ状態にあります。)、思わず本来の用途を忘れさせるようなのんびりした雰囲気に包まれてしまいます。そして、この作品に揺られながら、壁にかけられた同じくシージによる「グレーのモノクローム」(2003)を眺めます。遠目からだとまるでモノクローム絵画のようですが、実は軍用などに使われるシートをフレームに張っただけの作品です。それに気付いた時、今自分ののっているエアバックの奇妙な心地良さは何を示すのか。「隠された意味」を身体的に感じさせる作品なのかもしれません。
大きな作品が多い反面、数は少なく、全体的なボリュームこそやや欠けますが、あまり他では紹介されない、スイスの現代美術に触れられる展覧会です。来月26日までの開催です。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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写真、167枚もあったんですか!
「エアバッグ」乗られたんですね。
私も乗れば良かったです。
コメントありがとうございます。
>「エアバッグ」乗られたんですね。
私も乗れば良かったです。
高さが1メートルもあり、
一緒に出向いた連れはあがるのに難儀していましたが、
それを見た監視の方がサッと椅子まで持って来て下さって…。
トランポリンみたいに跳ねてきました!
美術展に行った後は「どの作品が気に入ったか」で盛り上がるものですが,この展覧会の場合は特に,この話題にはその人それぞれの嗜好が顕著に表れるような気がしました。
コメントまでありがとうございます。
>「マッチョ逆立ち」と命名したら同行者に怒られました
でもマッチョでしたよね。それこそルーベンスの作品に負けないほどに…。
>この展覧会の場合は特に,この話題にはその人それぞれの嗜好が顕著
そうかもしれません。
何ぶん点数が少なかったですし、嗜好で評価も分かれそうですよね。
今度とも宜しくお願いします。